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◇◇◇


「いいんですか?ダリウス様」


あちこちで威勢のいい声をあげ客を勧誘する街の中心部を歩きながら、副官のクロードは隣を歩く男の横顔を見つめた。いまは身を隠すために街中に紛れる格好をしているので、誰も二人の正体に気づかない。


「何がだ」

「奥方様のことですよ。確か、今日からあそこに住われるんでしょう?」


ダリウスはクロードの方を見ないまま「だから何だ」と返す。どこまでも、この結婚に対して、やる気のない上官である。


「さ、さすがに転居初日に夫が不在というのは、まずいのでは……?」

「城内の案内はノエやユーリに任せてあるから問題ない」

「……いや、そういうことを言ってるわけではないんですけどね」


ダリウスから、リリスと結婚した理由について聞いていたクロードだが、それでもここまで避けるのかという潔癖ぶりには驚いていた。長らく命の危険に晒され、辛い人生を歩んできた上官だ。ようやく平和が訪れたのだから、幸せになってほしいと思う気持ちは多分にある。まあ、それをこの結婚に求めても仕方がないことかもしれないが。


「あんな美人の王女様を嫁にもらえるだなんて、平民出の俺からしたら光栄の極みですけど」


クロードの呟きに、ダリウスはちらりと隣を見た。


「見た目に惑わされるな。……お前も、式で王族の人間の浅ましさを見ただろう」


思い当たる節があるのか、クロードは「ああ」と呟いた。


「権力を振りかざして好き放題やってましたね……。召使いに対しての態度もひどいものでしたし、特に王妃とその娘は彼らを顎で使うような人間ですからね」


気に入らないことがあれば、人前だろうと召使いを叱責していたことを思い出す。結婚式という祝いの場にも関わらず、だ。


「あの女は、その王族の一人だということを忘れるな。まあ、いずれ、この城での結婚生活にも我慢ならなくて出ていくだろ」


ダリウスの言葉に、「もしかして」と呆れた声を出すクロード。


「このまま放置して追い出そうとしてます?」

「そうなったとしても、俺は一向に構わない」

「はぁぁぁぁぁぁ……」


クロードは大きなため息をついたが、確かにダリウスの言うことも一理あると思った。


式で見かけたリリスは、聖母のような微笑みを携えて参列者に手を振っていた。けれど、彼女もあの王家の人間だ。笑顔の裏では、どんな感情を浮かべているのか分からない。あの王族の人間たちのような一面が彼女にもあるのだろうか。


難しい顔をするクロードに、ダリウスは「そんなことより」と切り出した。


「俺たちには、ほかにやることがあるだろ」


ダリウスが指差した方向にクロードはハッとすると、「おっと、そうでした」と返した。


「早く行きましょうか」


大通りからは随分と離れた路地へと入っていった二人は、そのまま薄暗い小道を歩いていく。


露出の高い服を着た女たちが媚びるような視線を向けてくるのを横目に、二人は甘ったるい香りに包まれた店の奥へと進んでいった。

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