2
「こちらがリリス様のお部屋です」
開けられた扉の向こうには、すでにリリスが城から運ばせた荷物がきちんと設置されていた。ベッドにドレッサー、チェスト、ソファにテーブルなどなど。リリスは部屋を見渡したあと、ようやく休めることに安堵した。
「長旅でお疲れでしょうから、ごゆっくりなさってください。食事や入浴については、のちほど使いの者をやります」
リリスは「ありがとう」と、微笑んでみせたけれど、やはり男の表情は変わらなかった。そこで、リリスは男の顔を覗きこんでみた。
「あなたの名前は?」
そう尋ねると、男は少し面食らった様子でリリスを見た。名前を尋ねるのが、そんな意外なことだっただろうか。
「……ノエです。ノエ・ベルノルトといいます」
ぶっきらぼうに、そう返した男。リリスはもう一度にこりと笑って「よろしくね、ノエ」と言った。ノエは困惑した様子ながらも、
「よろしく、お願いします……」
と小さく返した。こちらから話しかければ、会話はきちんとしてくれるらしい。リリスは、にこやかな笑みを浮かべたままノエを見る。
「ところで、ノエ。ダリウス様はいらっしゃるかしら。ご挨拶をしたいのだけれど」
リリスの問いかけに、今度は少し気まずそうな顔を見せるノエ。何か、言いにくいことでもあるのだろうかと思ったら、案の定、
「副官のクロード様と街へでかけられていて……。いまはお留守です」
との返事が返ってくる。
ノエの言葉に、目が点になる二人。夫となるダリウスには、今日からこちらに住むと伝えてある。にも関わらず、挨拶もなしに、ここにいないということは──。
「……よほど私は嫌われているようね」
暗雲立ちこめる新婚生活の幕開けに、リリスは大きなため息をつくほかなかった。




