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プロローグ

「最初に言っておくが、この結婚は俺が望んだものじゃない」


リリスが初めて夫となるダリウス・クロフォードと対面したのは、城内にいろとりどりの花が咲き、温かな陽の光が注ぐ日のことだった。


穏やかな空模様とは裏腹に、リリスを見つめる男の顔は険しく、鋭い眼光が突き刺さる。まるで野犬のような目だ、とリリスは思った。


「俺たち特務騎士団は、これまで地獄のような戦場を生き抜き、国の安寧のため魔獣を倒してきた。その間、お前ら王族の人間たちは、安全な城の中でのうのうと暮らし、末端にいる兵士のことなど気にかけもせず、贅沢な生活を享受してきた。そうだろ?」


目を見れば、彼が王族の人間に対して良い感情を抱いていないのは一目瞭然。憎しみすらこもっている目に、リリスは足がすくむような感覚を覚えた。


「恵まれた環境の中で、ぬくぬくと育ったお姫様と、俺が生きてきた環境は大きく違う。……国王からの(めい)だからと受け入れた結婚だ。人前では仮面の夫婦を演じてやる。だが──」


ダリウスはそう言うと、ぐっと眉間にシワを寄せて、リリスのことを睨みつけた。


「俺がお前を愛することはない。……この先、一生な」


聞こえてきた冷酷な声に、やさしさなどカケラも見当たらない。そこにあるのは、明らかな拒絶のみ。わずかな期待は霧散し、リリスは両手を強く握りしめた。

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