表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

睡魔の墓

作者: 灰色坊や



 こんな噂を聞いた。


 触ると呪われる墓の噂だ。


 その呪いというやつがかなり強力で、霊媒師でさえ恐れおののき逃げ出してしまうという。


 触ってしまうと、夜九時に眠ってしまうようになる墓。

 ナルコプレシーのそれと同様らしく、己の意識外で〝いつの間にか寝てしまっていた〟状態になるという噂だ。


 呪われた者は必ず日本時間の夜九時に眠ってしまい、翌朝六時に起きる。

 目覚めはかなり良いらしいが、触ってしまうと一生夜九時に眠る体質になるのだから、それを覚悟して触らねばならない。


 九時間睡眠できるようになる墓のありかを、医師は知っていても教えない。

 何故なら不眠で悩む患者が来なくなってしまうから。


 九時間ぐっすり眠れるようになる墓を、薬剤師は教えない。

 何故なら快眠薬を求める者が居なくなってしまうから。


 極上の九時間睡眠が可能になる墓だから……。


 かといって、墓のありかを知りたがる者は希少だ。

 触った後になってから、海外に住むことになるかもしれないし、夜間働く職に就くかもしれないから、無暗に触れない。


 しかし、この先の人生で、夜九時に寝て朝六時に起きるようになっても困らないと言いきれる者にとっては至高の〝呪い〟だろう。


 いや、その者にとっては〝願い〟か。


 にしても墓は何故、日本人にとって規則正しい睡魔をもたらすのだろう。誰もがぶち当たるその疑問は、墓に眠る者の過去にあった。


 二十二歳の若さで自ら命を断った男が眠っていた。彼は中学、高校と、日本でトップの学校に通って、大学もトップを目指していたらしい。


 だが男は大学受験に失敗した。徹夜で勉強したため、受験時間に眠ってしまい、一教科目の答案用紙を白紙で出してしまったのだ。


 経済的に浪人する余裕がなく、男はやむを得ず滑り止めで受かった大学に通うことになった。受験前日だけでも寝ていたら、という後悔を抱きながら。


 それは就職活動の時、重くのしかかることになった。志望する会社は、男が落ちた大学の生徒を優先的に雇っていたのだった。


 あの時、眠っていれば……眠っていれば……。


 アメリカの辺境にある崖から、男はそう呟きながら飛び降りた。そこに、男の墓が立てられた。


 男の念は並大抵のものでなく、解けない呪いとしてこの世にとどまった。


 アメリカ人にとっては〝睡魔(すいま)〟をもたらす呪いの墓になった。


 しかし日本人にとっては〝快眠〟をもたらす墓。


 この手紙を読んで、もし興味があれば触りに行くといい。


 あなたにとって〝睡魔〟にならないことを切に願う。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ