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モブ奮闘ス

不気味な女事件でバタバタしていたシャナルラはアリージュの客人を送り届けた後、自室に戻りクルラが運んでくれてあった夕食を取ることにした。


今日の賄いはと…

赤野菜のサラダと魚や根菜がふんだんに入ったスープとパサージュ(ポソポソした硬いこの世界のパン←主食)

デザートはマルロの華蜜漬…


シャナルラが思わず苦い顔になったのはアリージュの部屋にもあった人を殺せそうな飲み物を思い出したからだ

しかしこれらはアリージュの作る奇妙なモノと違ってお屋敷のシェフが作ってくれたもので味は確かである


神に祈りをささげてからスープをひとくち

毎度ながらにシェフはいい仕事してくれている。サラダも赤野菜の酸味が絶妙で美味しい。いつもの様に使用人たちの食堂で自由におかわりしながら食べたらもっと美味しかった事だろう


しかしあのお嬢様の客人は風呂上がり身なりを整えると神々しいまでの美しさだった。あれが崇められたのだから1人侘しい食事も我慢するかななどと思っていると急に誰かがバタンっと部屋の扉を乱暴に開け放った。


シャナルラはガクンと俯きながらため息を漏らし、それから扉の前で息を切らせている人物に怪訝な視線を移した。こんな突撃訪問をするのはこの屋敷にただ1人しかいない。


「シャナルラ!ちょっと手伝って!」


「使用人の…しかも男の部屋にノックも無しに入ってこないでくれます?」


心底嫌そうなシャナルラに悪びれもせずアリュージュは捲し立てるように話す


「あっまだご飯してた?ごめん、早く食べて」


「そこはゆっくり食べて、じゃないんですか?」


本当にこのお嬢様はご令嬢らしからぬ言動ばかりだ


「明日までにやらなきゃいけない事があるの!だから早く」


「『時間外労働』です」


この世界に時間外労働という概念はない、これはアリージュがよく自分付きの従者に使う言葉だった。


「時間外手当つけるから、お願い」


「いりません」


本来主人は従者に命令すれば良いだけなのだが、アリージュは誰にでも『お願い』するのだ。これもこの屋敷で彼女を異端にしている行動のひとつだった。


会話中に食事を終えたシャナルラは食器を持って部屋を出ると項垂れるアリージュに振り返った


「急いでいても俺の部屋に直接来ないで下さい。呼び鈴を鳴らせば済む事です」


むくれ顔のアリージュの耳元にシャナルラはささやくようにつぶやいた


「俺男なんですよ?」


「知ってるよ!」


シャナルラの言葉の意味が(恋愛経験ゼロ、推ししか勝たん有野)にはわからない


「片付けてからクルラとお嬢様のお部屋に行きます」


その言葉にパっとアリージュの表情が明るくなる


「了解した!」


アリージュの部屋に2人がつくと机の上中に本やら紙やらがグチャグチャに広がっている

これはアリージュが「何か」をはじめた合図


「今回は?」


シャナルラが問うとクルラは首を傾げた


「サキアノ様は多分1週間後に王宮で開かれる夜会で婚約を解消され、言われ無き罪で絞首刑を宣告される。彼女の無実を証明する為にサキアノ様のお父君に協力を頼むことにしたの」


「サキアノ様が!?」


いつも冷静でほぼ無表情というか苦い顔しか見せないシャナルラも流石に驚いている


「明日サキアノのお父君に面会を申し入れてその旨を説明しなければならない」


アリージュは机の上ひ広げられた資料を睨みつける


「プレゼン…ですか」


アリージュがうなづくとサッとシャナルラが椅子に座って手早く資料に目を通しはじてた


クルラもアリージュから手紙をもらい公爵邸へ向かうため部屋を出て行った


「資料は時系列に並べて、それに関与している人物の割り出しもお願い、私はこれからの事をまとめるから」


「話すつもりですか」


「そのつもり。未来を語っても誰も信じないだろうけど、その為のプレゼン。絶対成功させる」


有野は実験台であるお付きには転生した事やその記憶をあらかじめ話し、承諾した者たちを側に置いており、その中でも最も長く有野に使えているシャナルラは彼女の期待する仕事をきっちりこなしてくれるのだが、今回はかなり時間が少ない。黙々と作業し足りない資料をクルラがあちこち飛び回ってかき集め3人の作業は明け方まだ続いた


翌日先方より届いた知らせにより、朝の時間であればサキアノの両親への面会出来るというのでほぼ寝ていない状態でアリージュは侯爵邸に出向いた。緊張で吐きそうだったけれど、今までサキアノが犯人だと疑われた事柄とその周囲の状況や関わった人物等を調査した資料を侯爵へ提示し、その上でこれから起こる事について語った。


サキアノの両親は何故1週間後の未来に起こる事がわかるのかと問うてきたので、異世界の記憶と共に有野が作成したこの世界には無い炭酸水やプリン、アロマキャンドルや香料入りのボディーシャンプーを披露し、更に有野が知っているこれから起きるはずの出来事を話した。


サキアノの両親ははじめ眉唾物だと信じてくれなかったのだが、サキアノが小さい頃グミが食べたいだの、卵を使ったプルンプルンした甘い物がないかとかバスケットボールと言うものを作ったがったり木の上に作ったゴールポストというものにシュート練習などと言ってやっていた事を思い出し少し信じてくれた様だった。


「何より娘の窮地が迫っているとあらば動かぬ手は無いであろう。この資料は預かる。気になる奴らの名もあるので調べてみよう。しかしグランセル嬢、皇室相手ゆえ事は難しいぞ」


父君のサキアノ似の鋭い眼光に真っ直ぐ見つめられ不眠で資料を作っていた有野の意識がフット飛ぶ。

このイケオジは有野の推しの上司に似ているしシャナラルと違った低い声、なんてイケボ…


はっいけない、今は推し云々ではない!気を取り戻しアリージュとして振る舞う


「皇室はラナ・フィルシェード様にお任せしてあります」


「あの田舎子爵の令嬢か、サキアノ嬢を差し置いて殿下に取り入ったという」


「確かに殿下はラナ様に入れ込んでおられます。だからこそこちら側にラナ様がついている事が強みになるのです」


そしてこちらをと次の資料、ラナ皇室対策を公爵に手渡した。公爵はまとめられた資料を見ながら深くうなづいてみせる。


「まだサキアノと同じ頃合いであるのに流石グランセル伯爵のご令嬢、学園卒業後すぐ宮廷内で働かぬか?」


「私はまだまだ未熟ですので。もう1週間と日にちがありません。また事実が分かり次第ご連絡いたします。本日はお時間を頂きましてありがとうございました」


「こちらこそ、娘を想いここまできてくれた事感謝する。ではまた」


サキアノの邸宅を出たアリージュは馬車に乗り込むとバタンと倒れ込んだ…


その頃クルラはラナのもとへシャナルラとアリージュが作った資料を届けに行っていたのだが…


「難しいですわ…この近衛騎士副隊長とはどの様な方かしら?お役目の名前かしら?学園内射術講師…はラクイラ先生だったかしら?あら?違うわね、ジェイク先生だったかしら?」


「あの…ラナ様はもしかして人のお名前を覚えるのは…」


クルラの問いかけにラナはニッコリと愛らしく微笑む


「苦手ですの」


ここで折れては、落後者の自分を拾ってくれたアリージュ様に申し訳ない。クルラは1週間ラナの従者となりラナの後ろに控え、資料にあった人物がくるとラナの耳元で人物の名前、何の事件の関係者かをささやいてラナの調査を手伝った。

クルラも流石に城の中までついてゆけなかったのでその間はクルラの作ってくれた秘密人物メモを見ながら1人で情報を集めた。


アリージュは学園内の事を、ラナは王太子の周りを、公爵は2人の情報を元に事実関係をその権力を使って裏付けていった。しかし後少しと言うところで一歩及ばず夜会での断罪はなされてしまったのである。


アリージュは調べ上げた事実をまとめ、証人は公爵が確保し、ラナは夜会の次の日にアリージュが調べ上げた調書を手に王太子に謁見を申し込んだ。ラナに謁見を申し込まれた王太子は彼女が婚約者がいなくなった自分へ愛の告白でをしてくれるのではと心をうきたたせ、すぐさま謁見を承諾し、ラナを自室に呼び寄せたのだ





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