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主人公 ラナ

ラナ・フィルシェードは田舎の子爵の1人娘である。彼女は幼い頃からとても可憐で愛らしいと村中で評判であった。


野山が大好きだった彼女は森で会った見知らぬ猟師の子と意気投合して木の実を採ったり、庭師の子と一緒に畑の野菜をつまんで食べたり自由に遊んでいた。そんな彼女を両親は嗜める事もせずに元気がいいわね。沢山遊んでもらったねと暖かく見守ってくれた。

 穏やかな両親の愛をいっぱいに受けて育ったラナは大きくなっても身分を気にせずに誰にでも分け隔てなく接してくれると領地の皆に愛されるようになっていた。


成長し益々美しくなったラナの噂はデビュタントの歳、16歳の時には都まで広がり、それを耳にした王太子がラナに興味を待ち、ひと目見たいとこっそり領地を訪れたのだ。そこでラナのあまりの可憐さにひと目惚れしてしまった。

 王宮に帰るとすぐ王太子は彼女をそばに置くために特例として貴族学園に編入させるように命じたのだ。


こうして学園とは無縁だったラナにいきなり貴族学園への編入の案内が来たのだった。


貴族学園はとても学費が高くて貧乏な彼女のうちではとても払う事が出来ない金額だったので、ラナは編入を断るつもりでいたのだが、学費も寮費も国で持つと特別扱いされ、更に学園に入れないと領地の納税を倍にすると父親に圧力をかけられ、ラナは学園に行く他無かったのだ。


裕福な貴族だけが通う学園。田舎のしかもお金も無い子爵の彼女が裕福な上位貴族だけが通う学園に馴染めるのかが不安だった。それを聞いた王太子は使者を通じて編入する前に、学園を見学しに行く事を提案してくれた。


早速ラナの学園見学の予定が組まれ、彼女は学園を見学しに行く事になった。


学園は今まで見た事もない綺麗で大きな建物が幾つも並んでいて、敷地も広く学生達も優雅で仕草までも上品で育ちの良い事がひと目でわかった。富豪の余裕なのか皆表情が穏やに見えた。授業は難しそうだったけれど、無料で勉強出来るのは嬉しい。そして食堂のメニューがとても美味しそうだ。ラナはそれを無料で食べる事が出来る様取り計ってくれると言う。これはラナにとって大きな決め手となった。見にきて良かった。


そろそろ帰ろうと振り返った時に片方の耳に違和感を感じた。頭を動かすといつもはイヤリングから小さな音が鳴るのだが、片耳からそれが聞こえなかった。

ハッとして耳を触るとあるはずのイヤリングが無くなっている。

大切な母の形見のイヤリングを落としてしまったようだ。どこで落としたのだろう。自身の行動を注意深く思い返してみる。先程髪を掻き上げた時には違和感はなかった。この辺で落としたのだろうかと下を向いて探してみたが草が生えて見づらい。四つん這いになって夢中で泥だらけになりながら草を掻き分けてあちこち探した。

そこに通りかかったのがサキアノだった。


四つん這いになりながら何かを探すラナの姿は尋常ではなかったのだろう。


「どういたしましたの?」


サキアノに声をかけられたラナが涙目になりながら母の形見のイヤリングを落としてしまって、と言うとサキアノはラナのまだ耳に残っている方のイヤリングを指さしてこちらと同じものね。と言って探し始めた。

お洋服が汚れてしまいますから、これ以上お付き合いさせられませんと言うラナにサキアノは微笑んで


「たまにはこういうのも楽しいわ。それに1人より2人で探した方が早く見つかるでしょ。」


と四つん這いになりイヤリング探しを手伝ってくれた。地面に這いつくばって2人で一緒に探し回った。ドレスを泥だらけにしながら2時間半かけて遂にイヤリングを探し当てたのだ。


ラナに振り返ってありましてよ!と笑顔で微笑んだサキアノは泥だらけなのに夕日に照らされて輝き、まるで女神様の様に美しく見えた。嬉しさや感謝の気持ちで胸がいっぱいになってうまく言葉が出てこない。ラナはサキアノに深く何度も何度も頷いて泣いた。


その後イヤリングを探しているうにち迷子になってしまったラナをサキアノに入り口まで案内してくれた。そして何時間も待っていた御者に急かされるように帰路に着いた。


あの方にちゃんとお礼を言えなかったわ

あの学園に入ったら1番にお会いしてお礼を言わなくては


ラナはまたあの女神。サキアノに会える日を心待ちにしながら編入の日を迎えたのだ。


編入当日はあまりにも楽しみすぎて始業時間の1時間も前に学園についてしまった。お庭でも見て時間を潰そうと歩き回って居るうちにまた迷子になってしまった。もう授業が始まってしまう。そこへ


「貴殿はラナ・フィルシェードか?」


と青年に声をかけられた。サラサラの金髪に綺麗な翡翠色の瞳のとても美しい青年だった。


なんて美しい方なのかしら。おとぎ話の王子様みたい。でも何故私の名をしっていらっしゃるのかしら?


「はい」

と答えると


「何故こんな所に?門まで送るよう言いつけたはずだが。」


「1時間早くついてしまって、散策しておりましたら迷ってしまいましたの」


「迷って?!」

驚いた青年は何故か横を向き俯いて真っ赤になってしまった。

怒っているのかしら?


「…授業が始まっている急ぐぞ」


「あ、はい!」


ラナは早足出歩く青年の後を急いでついていった。青年が後ろを振り返る


「教科書はどうした?」


「あっ!」

「学園に行ける事が嬉しくて、すっかり忘れておりましたわ。そうでしたわね、教科書が必要なのに!わたしってばどういたしましょう」


焦っているとまた青年が俯いて横を向いて顔を赤くしている。また怒ったのかと心配したけれど青年はすぐに真顔にもどった。


「気にするな。俺がなんとかしよう」


「ありがとうございます」


教室に着くと青年は講師と話して、講師から教科書を受けとり、これを使え また終わったら迎えにくる。

と言って去っていった。授業が終わると青年が来て次の教室まで案内してくれて教科書も用意してくれた。

昼休み青年に食堂へ連れて行ってもらった時生徒が


「殿下、こちらのお席にどうぞ」


と言われているのを聞いて、ラナはやっとこの青年が王太子殿下だと気づいた。


知らなかったとはいえ、王太子に数々のご迷惑をおかけしてしまった。ラナは王太子に何度も謝って、これからは1人で大丈夫ですと言ったのだけれど


「気にするな」


と王太子は午後もずっと学園の案内をしてくれた。

次の日の朝学園に行くと王太子がすでに門の前で待っていてその日もずっと学園内を案内してくれた。次の日からもずっとそれは続いた。


ラナはもう大丈夫ですから、と断りを入れたけれど、実際ラナを1人にすると明後日の方向に歩いていってしまうので、また王太子が付き添った。

王太子が案内してくれていたのでラナの行動は自然と制限されてしまい、なかなかサキアノに会いにいく事が出来なかった。おかしな事に学園内にいるはずなのにサキアノに会うこともなかったのだ。それは王太子が婚約者であるサキアノにラナを接触させない様にした所為でもあったのだが。王太子はサキアノが近くにいるとラナが自分に好意を持ってくれないと考えたのだ。


そして王太子はラナによく

「親が決めた婚約者はいるが、いずれ婚約は破棄するつもりだ。王太子妃は自分で決める」


と言っていた。

恋愛にうといラナは王太子が何故それを言って聞かせるか不思議だった。ラナにとっての結婚は家同士の取り決めで、相手など誰でも同じだった。

それにサキアノの様な優しく美しい方と結婚できるなんて素敵だと思う。


何故サキアノ様では駄目なのだろうか?


サキアノ様の婚約者とういだけで羨ましいのに。結婚したらずっとサキアノの1番近くにられる殿下が妬ましくさえ思えた。


私はサキアノ様に近づく事さえままならないのに


そんな彼女の心とは裏腹に周囲は王太子に気に入られているラナとサキアノは対立関係だと思い込み、学園内にラナ派とサキアノ派との派閥争いまで生まれてしまった。


自分が意図しないところでサキアノとの距離が離れて行ってしまう。ラナはその事で悩むようになっていた。


どうしたらよいのかしら?


その日も考え事をして歩いていて食堂で床板につまづき運動神経のないラナは派手に転んでしまった。

自分で転んだのに王太子はサキアノにラナが転ばされたと怒りをぶつけている。ラナは慌てて違いますと否定したが、親衛隊がすぐ彼女を囲んでその場から離されてしまった。ラナはその時違和感を覚えた。


何かがおかしいわ。


ラナが自分で転んだと主張しても王太子や周りにラナは優しい、素直で心が清らかだ。偉そうで傲慢なサキアノとは大違いだと言われてしまう。

歯痒かった。サキアノは何もしていないのに、それを主張しても自分は聖女かのように讃えられ、サキアノは悪女になってしまう。

ラナはなんとか王太子にわかってもらおうと必死になった。


「殿下は誤解なさってます。サキアノ様はその様な事はなさいません。それにサキアノ様は私が入学前学園に見学に来た時、落としてしまったイヤリングを何時間も泥だらけになって一緒に探してくださいました。とても素敵な方なのです。」


とサキアノを擁護しようとしたのだが、王太子は鼻で笑いながら


「今のサキアノはその時のサキアノとは違うぞ。サキアノはお前に嫉妬している。嫉妬に駆られお前に危害を加えようとしているのだ。

純粋なお前にはわからぬだろう。大丈夫だ。俺が守ってやる。」


そう言って護衛までつけてラナの行動は監視されるようになってしまった。


どうしてこんな事に…

私はただサキアノ様にお礼が言いたいだけなのに。お話しする事すら出来ない。


こうしてラナの心は徐々に沈んでいった。

王太子は笑顔を見せなくなったラナをを見て、サキアノがラナを転倒させてからラナの元気が無くなったと更にサキアノを憎むようになってしまった。



ここからの展開はとても早かった。何か起こるたびにサキアノは必ず首謀者にされ、サキアノの弁解は一切聞き入れられてもらえなかった。


流れ矢事件では矢の飛距離では届かない位置に居たにも関わらずサキアノは犯人にされてしまった。


「そんな事もわからないなんて。無能だこと。」とサキアノは毒づいて周囲の反感を買う。


ボヤがあった時、湯浴みの最中であったサキアノは


「私に罪を押し付けたいのはわかりますけど、湯浴み中に出来るわけありませんのに、馬鹿ではないかしら?」と毒を吐いて周囲に敵を使った。


またラナがサキアノの手の者に湖に落とされたと言われたら


「よくもそんな恥知らずな出鱈目が言えますわね。その者をこちらで取り調べましょうか?本当の首謀者がわかりましてよ」と王太子を罵る始末でサキアノの立場は益々悪くなり、悪評ばかりが広がっていく。


ラナはそれを黙って見ている事しか出来なかった。サキアノは怒っているのだ。嘘で塗り固められ陥れてられて憤慨している。

それなのに何故かそれを覆そうとはしないし、悪く思われてしまうのに暴言を吐いて評判を落とすような態度をとっている。

国内でサキアノは悪女として有名になってしまった。けれど本人はその悪評すら受け入れてしまっている様に見えたのだ。


ラナは悔しかった。なんでちゃんと調査をしないのか、サキアノの実家の財力があればできるはずなのに、サキアノはどうして父君に頼まないのだろうか。


そんなある日王太子から呼び出された。

王城の応接間に行き、王太子に挨拶をすると護衛と御付きの者がさっと退出していって2人きりになった。

王太子はとても晴れやかな顔で嬉しそうにラナに手を差し伸べてきたので、ラナはその手に自身の手をそっとのせる。嫌な予感がする。


「遂にサキアノとの婚約破棄が決定した。」


「え?」


不安そうな顔をするラナに王太子は話を続ける


「サキアノはお前に数々の危害を加えてきたが、今回の湖は殺人に近い罪だ。その様な者を婚約者にはできん。そして婚約者でなくなったサキアノは今までの罪を全て背負い。絞首刑になる事が決定した」


それを聞いたラナは目の前が真っ暗になった。その後どうやって帰宅したのかわからないが気づいたら自室のベットで大きな声で泣きじゃくっていた。

あの優しいサキアノが殺されてしまう。涙が溢れて止まらなかった。

一晩中泣いて泣いて涙が枯れた頃にふらり立ち上がった。


「サキアノ様を…お助けしなければ…」


ブツブツと呟きながらふらっと部屋を出ていった。


何か、何があるはず…何か…


靴も履かず部屋着のまま夢遊病のように歩いた。

どこをどう歩いて来たのだろうか?ピタリと足を止めたのは大きな邸宅の門の前。門を見上げながらラナは何時間もぼんやりと立っていた。何故ここに来たのかラナ自身もわかってはいなかった。



次回は目標に2週間後に更新する事です。

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