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01-03 ENCOUNTER―鴨シカ。― ~ヒャッハーを添えて~

「あっごめん」


 時は既に遅し。


〔……やっちったねぇ〕


 オープン回線で聞こえる、諦めを帯びた聞きなれた声。


 大破炎上。爆発のエフェクトが飛び散る。


 何があったのか。それはとても単純な事。

 乱入したライズに対して、茶番をする暇もない内から痛くも無い軽量マシンガンで攻撃をし続けるプレイヤーが一人いた。集弾率もダメージも低かったから避けるまでもないと判断したライズは「ほう……? 何かしているのか?」などと問いかけるも完全無視。茶番を続けようにも邪魔で仕方ない奴にブチギレたライズは、カノン砲二連打で怯みを狙った攻撃。相手は通常の二脚機体。耐久値が減っていなければ耐えられる程度の筈だったのだが、結果はこの通りである。


「もしかして、ガチ初心者だった?」

〔初心者……ではないみたいだったけど……ねぇ〕


 ライズの問いかけには、この場にいる数人の苦笑でもって返された。少なからず顔見知りからそれ以上の関係性はあると思っているメンバーからの、どことなく同情っぽいものが感じられる。


〔あー……(茶番)やりなおす……?〕

「こんな空気でやれるかッ! 着地からの形態変更がめっちゃかっこよかったのにィ!!」

〔ごめん、見てなかった〕

「許さん」



***



 ライズが襲撃を仕掛けたのは、数少ないゲームフレンドの『鴨シカ。』

 愛称は、カモである。

 配信者である彼もしくは彼女の性別は不明。全く違和感のない両声類であり、普段からどちらともとれない中性的な声質で話している為、性別を問う配信コメントが後を絶たない。本人ものらりくらりと性別をはぐらかす為、余計にニッチな固定リスナーが付き、大手配信者でもないのにwikiまで立ち上げられ日夜考察がされていたりする。

 なお、鴨シカ。公認である。


 ライズはその後、PL企業を立ち上げる為の金策をするというカモの手伝いをし、特に何事もなく配信が終了した。


「おつかれさん」

〔参加ありがとー。助かったよー〕


 配信を締め、散っていく参加リスナーを見送ったカモとライズが、PL企業について相談するという名目で金策を続ける。


「ほんっと、こーいう効率いいミッションっつーか、美味しいコンテンツを見付けんの上手いよな」

〔まーねぇ…………もっと褒めてよ〕

「いやなんでだよ」


 今、二人が行っているのは狩りである。

 地中に巣を作る、いかにもネズミっぽいモンスターを一定の期間中に狩れば狩るほど報酬を貰えるというミッション。これを受注していたカモがリスナーと場所を転々と探し、無限に湧き続ける場所を見付けた。

 ライズが参戦するまでは割とギリギリだったらしいが、トップランカークラスの火力を誇る『ゴリアス』を駆るライズが参戦してからはもう、流れ作業となってしまった。

 火力担当はライズと他数名。機動力のある機体で参加していたリスナーがアイテム回収を担当。企業を設立出来るだけの資金が集まったところで、カモが自分の企業拠点を近くに作り、リスナーを参加させる。


 それからはもう、『やりたい放題』といった状態となった。


 時折訪れるスタンピードとも言えるフィーバータイムに、紙装甲軽量機体に近接系の武装でヒャッハーして数秒と持たずリスポーンするプレイヤーや、ドロップアイテムを回収していたらモンスターとヒャッハーに挟まれ撃沈するプレイヤー。黙々とモンスターを狩るついでにヒャッハーにちょっかいをかけたらそのままヒャッハーがスタンピードにのまれ大爆笑を引き起こしたプレイヤー。

 カモが参加型の配信を行った際の、いつも(・・・)の光景である。


「今日もヒャッハーしてたなー。えっと……あの人の名前なんだっけ」

〔グランドチキンな〕

「それもそれで……地鶏?」

〔じッwww〕


 そう雑談しながらしばらくして、どちらからともなく会話が途切れたタイミングでライズが気になっていた事を口にする。


「あのリスナー……多分初見の人か? 最初俺にちょっかいかけてきたヤツさ、あのあと戻って来なかったけど……色々大丈夫そうか?」

〔ん? あー、あの荒らし(・・・)の事?〕

「やっぱそんな感じ? どっちかっていうとキッズな感じだけど」

〔アレでもいい歳してるっぽいよ?〕

「ウッソだろ手に負えねぇな。粘着されそうじゃないか?」

〔ウチらの方はもう配信上でブロックしてるし、リスナーにも周知しといたから大丈夫じゃないかな〕

「んーならいいんかなぁ……」

〔問題はライズの方だよねぇ……ゲーム内じゃ回避しきれないでしょ?〕

「システム的に、チャットはブロック出来ても弾丸まではブロックしてくれないからなぁ」

〔だれがうまいこと言えとwww〕

「めっちゃ笑うじゃん」


 その後もしばし話が弾み、カモがログアウトするという時点でお開きとなった。それに合わせ、ライズも自分の拠点に戻りログアウトする事にした。


「結局トラックとか輸送ヘリとか買ったのに動かせてねーじゃん。まぁ急ぐものじゃないけど……楽しかったからいいか」


 本来ならば新たに導入されたビークルまで一通り触ってみるつもりであったが、配信中のカモと遭遇した事で完全に予定が崩壊してしまった。だが、元々時間に制限は無い。故に翌日に回せばいいと決めたライズは、一つカモに聞き忘れた事があったのだと、ふと手を止めて考える。


「そーいやネギが来てたか聞くの忘れたな……まあそのうち会うか」


 ライズとカモの共通の友人であり、特に親しいが遭遇率が中々に低い自由人の事を思いながらログアウトボタンを押そうとしたライズは――しかし動きを止める。


「……」


 そこはかとなく湧き上がる得体の知れない何かに全身を襲われたライズは、そんな不安を解消する為に行動を起こす。

 ゲームを終了するかと確認する文章に対して、キャンセルを選択。メニューを切り替えて拠点の防衛設備を可能な限り強化してから、ひと息ついたところで一気に襲ってきた眠気と空腹に(いざな)われ……ようやくログアウトを選択するに至った。


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