暴力の加護
戦闘狂だとは思っていたがここまでとは…
探究の女神の言った条件に合うやつの中で、とっびきり戦う事に固執した人物を選んだが、もう少し賢い奴にした方が良かったか?…いや、コイツの戦闘に対するイカれっぷりは相当なものだ、試す価値はある。
いまだ体を動かせずギャーギャー喚いているカルカを真っ直ぐと見つめ、老人姿の暴力の神は馬鹿でも分かるように説明を始める。
「加護ってのはな、神から特別扱いを受けるってことだ。…要するに!お前に力を与えてやろうって言っているんだ!」
やっと言葉の意味を理解したのか青年は急に騒ぐのをやめ、少し眉を寄せながら口を開く。
「ん?つまり…あんた俺を強くしてくれんのか?」
「さっきからそう言って―」
「じゃあやってくれ。」
青年の唐突な即答に呆気にとられる神。こうまで潔いと「色々聞かないのか?」と不安になってしまう。
「…それは構わないが、どうして俺に?とか、何か裏が?とか聞かないのか?」
カルカは少し考えるような素振りを見せたがすぐにやめ、少しイラついた口調で返答を返す。
「だぁッ!しちめんどくせぇ!いいからさっさと力くれよ!」
後々が心配になる発言だが、ここまで言ってしまった後だ、力を授ける他ないだろう。神は渋々といった感じでカルカの額に手を乗せた。
「いいか?今からお前に与えるのは、強くなる為のきっかけだ。だから今すぐに強くなるわけではないが、ある程度はマシになるだろう。」
「今より強くなれるんだろ?なら上等だ!」
直後カルカの言葉に呼応するかのように、額に乗せられた手からまばゆい光が走り、消滅した。
「よし終わったぞ。これで貴様は、俺様こと暴力の神の子供になった訳だ。ありがたく思えよ?」
「特に変わった感じがしねぇけど…ほんとに強くなったのか俺?」
加護を授けてくれた眼前の老人姿の神に、懐疑的な視線を送る青年。つくづく神に対して無礼なやつだ。
「加護を授かっておいて、罰当たりな奴め。まあ、戦ってみれば俺様のありがたみが分かるだろうよ。」
そう言って止まったままの虫魔物に視線を送る老人姿の神。すると何かを思い出したか、手のひらを拳で叩く仕草をして口を開く。
「おっと!忘れて帰るとこだった。これは俺様からの要望だが、お前が十分に強くなったら秩序の子と呼ばれる人間を探して倒せ。と言ってもお前の言動からして、向こうから始末しにやってくると思うが…。頼んだぞ!」
「はあ?秩序って誰だよ…っておい!」
言っている意味が分からず疑問の声を上げたカルカだったが目の前にいたはずの神は音もなく消え去っていた。
そして、ゆっくりと止まっていた時間が動き出す。