24戦24敗
この作品の世界観はファンタジー系なので、魔法や魔物、神や悪魔など人間以外の存在もいます。
また主人公の青年は基本、戦いに関係する事以外には無関心で、彼の知識もそれに準じています。例えば目の前に魔物が現れたとして、主人公の青年は相手を観察して戦い方を考えますが、その魔物の名前やどこから来たかなどは一切気にしないといった感じです。
相手が何であれ向かってくるのなら戦い、向かって来なくても強そうなら戦う、これはそんな人迷惑な性格をした青年の戦いと成長の物語です。
あるところに一人の神がいた。何よりも力を重んじ、戦士を愛する”暴力の神”だ。
名前は物騒だが、力を象徴する神々のれっきとした一柱だ。
そんな力の象徴たる彼は、現在悩んでいた。なぜなら自分が寵愛を授けた子が他の神の子に倒され、また一から新しい子を探さねばならないからだ。
「クッソたれの秩序の神め!これで何回目だと思ってんだ…」
そうして一人文句を呟きながら次なる子の選別に思考を巡らせていると、背後から一人の神がやって来た。大きな三角帽を被り、水晶玉に乗った長いローブ姿の女。知恵の神々の一柱であり、なにかと絡んできて鬱陶しい探究の女神だ。
「やあやあ!今回も見事な負けっぷりだったねえ?」
「うるさい。それで?何の用だ?」
俺様は皮肉っぽい笑みを浮かべながら敗北をからかう女神を一蹴し、ここに来た要件を尋ねる。
「いいのかなー?ここんとこ負け越してる君に、この探究の女神様が妙案を授けてあげようと思ったのに?」
「そんなこと言って今回も俺様を出し抜く気だろ。もう信じないからな!」
この女神の助言に従って俺様の得になった事なんて一度もない、必ず最後はコイツが利益を独占する。いつもそうだ。
「前回は騙したけど、今回は別件さ。秩序の奴が最近勝ちすぎてて面白くないからさ?ここらで一発番狂わせを起こしたいんだよ!それで子供を倒されたばかりの君に助言をしに来たと言う訳さ。」
「フン!結局のとこ自分の手を汚さずに秩序を蹴落としたいだけじゃねーか。」
俺様のもっともな反論に、まあまあ。と言いつつ話を続ける知恵の女神。
「この助言は君にも僕にも利がある、そうだろ?君はここ最近ずっと秩序の奴に子供をダメにされてるじゃないか?えーっと今日で確か…」
自分で言ってごらん?と言わんばかりのわざとらしい視線を送ってくる女神。かなりウザい。
「…二十四人目だ。」
「ああ!そうだそうだ二十四人だったね!もうやられるのはうんざりだろ?」
女神の鬱陶しい小芝居に我慢の限界が来た暴力の神は率直に切り込む。
「ああ、うんざりだ!秩序の野郎もお前の御託も!いいから要点を話せ!」
俺様の言葉に促され、渋々といった感じで探究の女神が口を開く。
「はぁ~、これだから脳筋は…。いいかい?君の子供と秩序の子供の間には、ある決定的な差があるんだ。」
「強さじゃないのか?」
「だとしたら助言なんかしに来てないだろ?君は馬鹿なのかい?いや、訂正しよう馬鹿だ。」
頭血管が何本か切れそうになったが、ここまできて拗ねられるのも困るので、怒りの感情を抑え込む暴力の神。そんな俺様を見て満足げな表情浮かべた女神は続けて話し出す。
「そんな君にも分かるように話すとしよう。君と秩序、両者の子供たちにある差とは、つまるところ”意志の強さ”だよ。」
「は?おちょくってんのか?」
「あのね、今までの君の子たち全員、単純な強さだけなら秩序の子に勝ってるんだよ?それなのに負ける、なぜなら秩序の子には自分が正義だという確固たる自信があり、君の選ぶ子にはそういったものがない。だとしたら君の取るべき次の選択肢は?」
「強い意志を持った子を探す…か?」
俺様の自信のない返事に、人差し指を左右に振り否定の意を示す女神。
「ノンノン、意志だけじゃないんだなーこれが。夢、野望、願望、理念、思想、ありとあらゆるものが対象さ。その中でとってもビッグでとっても傲慢なものを持った子を選ぶといいよ。これが僕からの助言さ。」
「ビックで傲慢ねえ…。頭に入れておいてやるよ。」
そうして暴力の神の二十五回目の子供探しが始まった。
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