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カルカ~暴力の子~  作者: 赤原いもり
探究編
24/26

探究の子・ニルデ

探究者ニルデの異形の姿を見せられ、なんとなく彼女の言わんとしていることを理解したカルカ。彼女に先導されるまま廊下の突き当りにあった個室の通される。


「ようこそ我が探究の間へ。香草茶は好きかい?」


探究の間と呼ばれたその部屋は書斎と研究室がごっちゃになったような感じで、玄関先同様、壁や部屋のいたるところに大量の本が積み上げられると共に、杖やら魔鉱石やらの魔術的な道具もたくさん見受けられた。


部屋の中を興味深そうに眺めるカルカは、ニルデの言葉に素っ気ない態度で真実を答える。


「飲んだことねぇから知らねぇよ。」


「アッハッハ!やっぱ君いいねぇ、面白いよ!ささ、掛けてくれ。」


部屋の中央に据えられた応接用の長椅子に腰かけたニルデは、机の向かいに座るようカルカに促す。そして、恐らく空間魔法だろうが、中空からティーポッドと二つのカップを取り出し、琥珀色の液体をカップに注いでいく。爽やかな香草の香りが辺りに漂う中、彼女は子供を諭す母のような落ち着いた口調で話し始める。


「お茶に限った事ではないけど、知らないことを知るというのは君の望みを叶える一番の近道なんだよ。たとえそれがどんな些細な事であっても…ね?」


ニルデはお茶の入ったティーカップを青年に差し出した。


「ケッ!何の話だよ。大体あんたに俺の何が分かるってんだ?」


「私の目は特殊だからね、色々見えるんだよ。冷めないうちに召し上がれ。」


ニルデに勧められるまま香草茶の入ったカップを、竜化した手が大きいので上から掴むように、手に取り、匂いを嗅ぐと恐る恐る一口飲む。カルカの口に香草の独特な香りが広がり、スーッとした感覚が鼻腔を抜けていく。初めて味わうの感覚に驚いていると、向かいの席からニルデが静かに口を開いた。


「…私の右目は君のその腕と同じで、神様から贈り物を授かった証さ。神に選ばれた者は加護を受け、神の子になると同時に、その親の特徴が体に表れるんだよ。」


カップを置いたニルデは向かいに座る青年の黒鱗の生えた腕を指さす。


「君は暴力の神に選ばれたことで、かの神の特徴である”竜体”と強さの一端を授かったようだね。」


「竜体?あの神、ホントの姿はドラゴンか何かなのか?」


闘技場で出会った老人姿の神を思い出しながら驚くカルカ。そんな青年に、ニルデは暴力神について記された本を持ってくると、その姿について簡単に教えてくれた。


彼女曰く、暴力神は力の神々の一柱で、その姿は赤い鱗に覆われた竜人に酷似しているが、その顔は常に怒りに満ちた表情をしている。天界でも一、二を争うほどの強さを有しており、一度本気で暴れ出すと、満足するまで止まらない暴君と化す、絶対に起こらせてはいけない神の一人だそうだ。


「そうか、あいつそんなに強いのか…。あーもったいねぇ、あの時体が動いてりゃあ一発ぐらい殴れたのによぉ…。」


説明を聞き終え、残念そうな顔をしながらとんでもないことを呟いたカルカ、口を開けたままパタンと本を閉じたエルデは青年の言葉に大爆笑する。


「アッハッハッハ!なんだって?自分の父神を殴る!?いや~愉快愉快、アッハッハッハ!!」


「悪いかよ!俺は俺の殴りたい奴を殴るんだよ、それが神なら尚更だ。」


カルカの大真面目な発言を受けてしばらく笑い転げたニルデは、笑いが治まると同時に、何を考えているのか神妙な面持ちになった。


「ハァーあ、なるほど…どうりで彼女が心配して連絡を寄こすわけだね…フフッ。」


「ああ?誰の事だ?」


ニルデは妖艶な仕草で黒いレザーパンツを履いた両足を組みなおすと、先程までの飄々とした雰囲気とは違った真面目な顔で青年の問いに答える。


「数時間くらい前だったかな?突然、私の主神である探究神がウサギの姿で現れて、こう告げたんだ。”君の弟子の一人と行動を共にしている青年を助け、神の子について教えてやってくれ。でも暴力が選んだだけあって、かなりタガが外れた子だから気を付けるように”ってね?そして確認してみてビックリ、死にかけのエリノラと君を見つけたって訳さ。」


「なるほどな…それで?これからどうすんだ?俺になんか教えんのか?」


ニルデは悩むような様子を見せつつゆっくりと長椅子から立ち上がると、部屋の奥にある物であふれた書斎机に近寄り、腰掛けると、カルカの手の方を指さして喋り始めた。


「そうだなー。まず君にはソレの制御を身に着けてもらおうか。こんな感じに…」


そう言ったニルデは眼帯を外すと縦に三つ並んだ銀色の瞳のうち、上下の二つを閉じる。するとその瞼の線は徐々に薄れていき、いつの間にか右目は一つになっていた。


「ね?…まあ、制御の練習は明日からにするとして、しばらくここに居ることになると思うから、晩御飯がてら、うちの子たちに君を紹介するとしようか。」


「ああ、それは別に構わないが…」


「じゃあ決まりだね、付いておいで食堂に案内するよ。」


カルカの言葉の続きを聞くことなく探究の間を後にするニルデ。彼女のマイペースっぷりに少し唖然としつつも、食事の誘惑に負けたカルカは彼女の後を追うようにして部屋を出る。


青年はまだ知らなかった。変わり者好きのニルデの弟子たちが彼女以上の変わり者であることを…。

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