閑話 神々の談笑
神々が住まう天界の片隅、水を張った円卓を食い入るように見つめる一柱の神の姿があった。
その神は艶のない赤い鱗に覆われた逞しい肉体に、飛竜を彷彿とさせる大きな翼と尻尾を生やし、純白の衣を纏っていた。しかし人と竜をミックスしたような体と違い、頭はそれらの要素とはかけ離れた見た目をしている。鉄兜のような硬質感のある顔には二つの黄色く輝く縦光彩の眼、鋭い歯が剝き出しの口元には猪のような二本の牙があり、神というより憤怒の悪魔といった見た目をしていた。
そんな神々しさの欠片もない風貌の神こと暴力の神は、その強面な顔からは想像もできない喜色に満ちた声を円卓の傍で発する。
「ガッハッハ!魔物を裂くとは、本当に愉快な奴だよ全く。」
暴力の神が覗く円卓には、魔物を嬉々とした表情で屠る異形の青年が映っていた。
カルカに加護を授けた後、天界に戻った暴力の神は、すぐに青年の様子を観察し始め、その傍若無人な暴れっぷりに心を躍らせていた。直後、暴力神の背後からノック音が響き、扉の開く音と共に気の抜けた声が飛んできた。
「こんちわー、暴力ちゃんいるー?」
天界の暴君の異名をとる彼をちゃん付けで呼ぶ神は一人しかいない、暴力は訪問者の方を見ることなく手招きをしながら呼びかける。
「探究か!いいとこに来たな、俺様の新しい子を見てけよ!」
「なになに?えらくハイテンションじゃん、そんなにいい子が見つかったの?」
興奮気味な呼びかけに、含み笑いをしつつ近づく探究の女神。その円卓に移った青年を見た瞬間、彼女の全ての目が見開かれる。
「面白い子を見つけたね、とても興味深い子だよ…。」
「だろう?授かった直後でここまで加護が馴染んだ奴はコイツが初めてだ。おまけにどんな相手にも臆することなく突っ込んでいきやがる、最っ高に俺様好みだよカルカは!」
「ハハハッ、僕の助言に感謝してよね?……おや?一緒にいる女の子、どこかで…。」
見開いていた五つ目のうち三つを閉じた探究神は、円卓に映し出された蒼色髪の少女に気付き、思い出すように視線を斜め上に向けた後、何かに思い至ったのか難しい表情を浮かべた。
「嫌な因果だねぇ。この子の為にも少し布石を打っておいた方が良いか…。ごめん暴力ちゃん!僕急ぎの用事を思い出したから帰るよ、バイバーイ!」
「は?急にどうし…ってもういねぇ。」
探究の女神は意味不明な独り言を言ったかと思うと、暴力神の問いかけを無視して早々に部屋を出て行ってしまった。一人残された暴力の神は突如帰ってしまった探究神に文句を言いつつ、視線を円卓に戻し、映りこんだ青年に向かって叫ぶ。
「ったく、一日中部屋でゴロついてるだけのくせに何の用事だよ…ってコラ!逃げんなカルカ!」
映し出された映像に野次を飛ばすその姿は、神というにはあまりにもおっさん染みていた。




