青年の流儀と少女の命
カルカは刺客の不意打ちを受けて倒れるエリノラの元へ駆けながら、自分の不甲斐なさを責めていた。
アイツがエリを狙うことも頭に入れておけば…クソッ!!
己の至らなさに対してイライラを募らせるカルカは、目の前に立ちはだかる化け物に、背後から八つ当たりめいた右ストレートをお見舞いする。
「チッ!そこどけやァアッ!!!」
岩腕に拘束されて身動きの取れない屍鰐は、カルカの加減なし全力パンチを後頭部に受け、またしても頭を弾けさせる。血を流し膝をつく少女へ駆け寄ったカルカは、背中越しに安否を問う。
「おい!まだ戦えるか?」
「なに…戻ってきてんのよ。心配されなくても…イッ!!」
痛みに呻くエリノラ、見ると右肩を酷く裂かれているようで、力なく垂れる腕の先には刻々と大きくなっていく血溜まりがあった。しかしそれでもなお、発動させた魔法を維持しようと痛みに顔を歪めながら、必死に杖を握っている。
「強がってんじゃねぇよ!さっさとその傷手当しろっ!死ぬぞ!!」
「なんか…らしくない…わね?」
カルカの呼びかけに皮肉で答えたエリノラは、頑として魔法を解除する気がないようだ。すると青年の視界の端で鈍い輝きが光る。
ガキーンッ!
カルカの喉元目掛けて飛んできたその一撃は、黒い拳に阻まれたことで、大きく弧を描きながら主の元へ帰っていく。細い鉄紐を手繰りながら、犬頭蓋の男ハウンドは挑発の言葉を吐く。
「さすがに二度目は弾くかぁ…。それで?君は元気みたいだけど、相棒のお嬢さんは虫の息。対するこっちは魔力がちょこっと減ってるだけで、戦い始めてから傷一つ付いてない。この状況、君はどう動くのかなぁ?楽しみだなぁ~。」
悦に入った様子で喋り倒すハウンド、その気色の悪さに我慢の限界が来たカルカは眼前の男を罵倒しながら、殴りかかろうと拳を構える。
「ごちゃごちゃうるせぇクソがッ!待ってろ、今すぐその減らず口を…」
その言葉を言い終わる前に、青年の脳内に知らないノイズ交じりの声が途切れ途切れに響く。
…その子…助け…崖から飛び…
自分の闘争心と血を流し今にも倒れそうな少女の狭間で揺れる青年、悩んだ末ある決断を叫んだ。
「チッ!次から次へと…。クソッ!分かったよ!やりゃいいんだろ!」
…頼んだよ青年。
頭の中の声の主に従うことを決めたカルカは、拳を力いっぱい強く握りしめると、目の前の強敵より少女の命を助けることを選択する。




