刃の向かう先
「…行くぞ!」
カルカから発せられた短い言葉を合図に、エリノラは多重化させた魔法を発動させる。
「”四重詠唱、石魔人の巨腕”!!」
少女の詠唱と同時にその背後から、四本の岩の腕が出現する。そのうちの二本を走り出したカルカに追従させ、行く手を阻む屍鰐の両腕を押さえ込んだ。
「やるじゃねぇかエリ!俺も負けてらんねぇなぁあ!」
カルカは少女の魔法に称賛の声を漏らすと、身動きの取れなくなった怪物を飛び越え、その後ろに控える死霊術師ハウンドに殴りかかった。
「オラァアッ!!」
「言ってなかったけど…」
眼前までカルカが迫っているにもかかわらず余裕の態度で喋る出すハウンド、次の瞬間、男の袖先で何かが閃くのが見えたカルカは、本能的に体を捩る。男から少し離れた所に着地したカルカに、ハウンドの嘲笑に満ちた声が響く。
「こう見えて僕、暗殺術も習得してるんだ。」
すんでのところで回避したように見えたカルカだったが、その頬には痛々しい傷ができていた。
「チッ!どこまでも食えねぇ野郎だ。」
「よく言われるよ。それにしてもギリギリでよく躱せたね?正直驚かされたよ。」
「その割には余裕たっぷりじゃねぇか?…」
青年の超人的な回避を感情のない拍手で称賛するハウンド、カルカは頬を伝って流れ落ちる液体を拭うと、自分に傷をつけたものの正体を確認する。男の手に握られていたのは先端にギザギザの刃が付いた金属製の細い紐だった。興味深そうに武器を観察するカルカの視線に気付いたのか、ハウンドは少し楽しそうに手に持った武器について話し始める。
「ん?ああ!この武器はね、僕がある生き物を参考に作った暗器で、”尾棘”って言うんだ。こんな小さな見た目だけど、当たり所が悪いと即死、良くてもそのうち出血死するって代物さ!例えばこう投げると…」
そう言ったハウンドは、カルカいる場所とは別の方向に向けてその刃を投げた。男の意味不明な行動に眉を顰めるカルカだったが、ハウンドがまたしても嘲笑を含んだ言葉を呟く。
「ってあれ?動かないの?相棒ピンチだよ?」
「ぁあ?何言って……ッ!!」
のたうつ大蛇の様な軌道で空を舞う小さな刃、それの行きつく先に気付いたカルカは全力で駆け出した。その鈍く光る切っ先は、必死な様子で怪物を足止めするエリノラ方へ向かっていたのだ。
カルカは全力で少女に向かって叫んだ。
「避けろエリ!!」
しかしその声が届くより早く、エリノラの元に刃が達し……引き抜かれた。




