その作戦、乗った
手駒を容易く倒されたハウンドは、横たわる怪物の後ろからカルカに向けて、何故か少し興奮気味に語り掛けてきた。
「僕の手駒を一撃で沈黙させるとは…その黒い腕なかなかに興味深いね。君、竜人種なのかい?だとすればその体を素材にしたら、かなり上位の不死生物が作れるねぇ!アァッ!ワクワクするよぉ!!」
「ああ?何一人で盛り上がってんだお前?気色悪りぃ、今すぐぶっ飛ばし―痛ってぇ!何すんだこのアマ!」
背後からエリノラに後頭部を一撃されたことで、余裕な態度で喋り続けるハウンドへの攻撃を中断するするカルカ。
後頭部をさすりながら少女を睨み付けるカルカに対し、エリノラはスゥっと息を吸い込むと、今までのうっ憤を発露するかの如く大声で怒鳴りつける。
「いい加減人の話を聞けぇっ!あと腹立つからアマとかガキって呼ぶな!」
「そんだけのことで人をシバくんじゃねぇ!これだからガ…」
再び無言で振り上げられた杖を前に、吐きかけた言葉を飲み込むカルカ。少女は「分かればよろしい」と偉そうな態度を取ると、倒れている怪物の方を見て予想外の言葉をカルカに投げかける。
「あなた、あの怪物を倒したと思ってないわよね?」
「はぁ?頭潰れりゃどんな奴でも死ぬだろ普通?」
あっけらかんとしたカルカの発言にうなだれたエリノラは、「やっぱりか…」と呟くと、青年の目を見て真剣な顔で喋りだす。
「いいカルカ?あの化け物は不死生物なの。しかも普通の不死生物と違って、生み出した術師の魔力を糧にして動いてるから、あの男が魔力切れを起こさない限り何度でも蘇るのよ…。」
そう言って再び視線を怪物の方に向けたエリノラ、見ると潰れていたはずの頭が、モゾモゾと肉を寄せ集めながら再生しつつあった。
「だからあの怪物はあたしに任せて、あなたみたいには無理だけど足止めくらいならできるわ。その隙にあなたは術者を倒して。操っている術者が倒れれば怪物も消滅するはずよ。…どう?簡単な作戦でしょ?」
眉間にしわを寄せながら話を聞いていたカルカに恐る恐る尋ねるエリノラ、今までのように「うるせぇ!」と一蹴されるかと思いきや、意外にも少し文句をつけただけでカルカは少女の作戦を承諾してくれた。
「ああ、俺の相手がひょろい術師なのは気に入らねぇが、乗ってやるよお前の作戦。」
「あのレベルのモンスターを生み出せる術師はそう多くないわ。油断してると足元をすくわれるわよ?」
「ハッ!ご忠告どうも。お前こそ自分でやるっつったんだから、バケモン相手に泣き言言うんじゃねーぞ?」
少女と青年がお互いに皮肉を言い合っていると、通路の向こうから呼びかける声が聞こえた。二人が視線を向けると、親しみの籠った声で喋るハウンドと再生を終え立ち上がった屍鰐の姿があった。
「おーい!作戦会議は終わったのかい?それじゃあ第二ラウンド開始かな?コイツも僕も今度は本気で殺しに行くから、なるべく長めに頑張ってねー!」
隣人に挨拶でもするかのような軽快な喋りとは裏腹な挑発めいた言葉に、苛立ちを覚えるカルカ。隣に立つエリノラも嫌悪感からか、嫌なものを見る目で眼前のハウンドを見据えている。
「チッ!癇に障る野郎だ。おいエリ!準備はいいな?」
咄嗟に名前を呼ばれた事で少し慌てた様子を見せたエリノラは、すぐに平静を装いカルカに返事を返す。
「え?…ええ!いいわ!」
びっくりした…なんで急に名前で呼ぶかなぁこの男は。まぁでも…
初めて名前で呼ばれた事に内心、慌てつつも少し嬉しく思ったエリノラは、カルカの不意打ちで乱れた心を落ち着かせながら、戦闘開始の合図を待つ。
そしてしばしの沈黙の後、青年から短い言葉が発せられた。
「…行くぞ!」




