下水道からの脱出
少女エリノラにぶん殴られてからしばらく後…
カルカと少女は未だに悪臭漂う下水道を歩いていた。
所々崩れかけた石レンガの壁には小光石と呼ばれるわずかな光を発する石が等間隔で設置されている。少女の話によると以前はもっとしっかりと管理運用されていたそうだが、地下市場の発展に伴いゴミや魔物の不法投棄が増え、結果誰も近づかない危険地帯となったそうだ。
延々と続く通路に嫌気がさしてきたカルカは、目の前を歩く少女に質問を投げかける。
「あー…エリノレだっけか?まだ出口には着かねぇのか?」
「通路標識によればもうすぐだとは思うけど…ってあたしの名前はエリノラよ!いい加減覚えなさいよ!」
正直この娘の名前なんてどうでもいい。助けられたから一緒に行動しているが、内心は小うるさいコイツから今すぐにでも離れたくてしかたない。
カルカは少女の訂正を軽く聞き流しながら適当に答える。
「あーはいはい、エリモラな。長いから覚えづらいんだよ。エリでいいだろ?」
「だからあたしは…はぁ~、もういいわよエリで。」
何かを諦めた様子の少女は、渋々といった感じでエリと呼ぶことを許可した。
すると今度は少女の方から質問が飛んできた。
「ところでずっと気になってたんだけど…その竜種みたいな腕はなんなの?あなた人間なんでしょ?元には戻せないの?」
少女の問いに自分の鱗の生えた両腕を見つめながら、皆目見当つかないといった感じで答えるカルカ。
「さぁな?俺にもよく分かんねぇ。そのうち戻るだろ。」
「。…そういえばあなた何処から来たの?見た感じこの辺の出身じゃなさそうね。」
そう言って素っ気ない返事を返した少女は、続けざまに俺の出自について聞いてきた。
「昔の事は覚えてねぇから知らねぇ、物心ついた時には孤児院で不味い飯食ってたな。素行が悪いからってんで即追い出されたけどな。」
「孤児院を追い出されるってなにしたのよ…。」
「別に?気に入らねぇ奴をぶっ飛ばしてただけだ。…そういうお前こそ何者なんだよ。」
俺の質問に少女エリは、こちらに向き直り誇らしげに答える。
「フフッ!よくぞ聞いてくれました!あたし魔術師エリノラ・アルマは、あの高名な魔術師ニルデ・サレンディアの弟子の一人なのです!」
「へぇー!…誰だそれ?」
二人の間に沈黙が流れる、しばらくして少女は目頭を押さえ眉間にしわを寄せながら深刻そうに口を開いた。
「あたしの師匠と戦うって言ってたわよね?」
カルカは少女エリと出会った時のやり取りを思い出す。
「ああ、言ってたなそんなこと。」
「あたしの師匠はね探究者ニルデって呼ばれてる、世界屈指の魔術師の一人なの。どう?そんな人の弟子なあたしってすごくない?」
「…別に?師匠がすごいから弟子もすごいとは限んねぇだろ。」
「ああ……そうよね。」
俺の言葉に少女は何かを悟ったような顔をすると、がっくり肩を落とし静かに前を向いて歩き出した。
結局何が聞きたかったんだコイツ?変な奴だな。
人の意図が読めないカルカは少女をひどく落胆させた。




