加護って知ってる?
「エリノラ・アルマ、魔術師よ。」
「ぁあ?…ああ名前か!俺はカルカ、拳闘士だ……行くぞ。」
男は名乗り終えると、何の躊躇いもなく一直線に突っ込んできた。普通の魔術師相手なら距離を詰めるのは定石だ。なぜなら魔術師は近距離戦において極端に攻撃手段が乏しくなる、しかし彼女エリノラは通常の魔術師とは少し毛色が違った。
カルカと名乗った拳闘士は数十メートルあったはずの距離をわずか数秒で急接近してきた。常人では有り得ないほどの速さに、少女は少し驚きつつも防御魔法を発動させる。
「”石防壁”」
直後少女の前に大きな石壁がそそり立つ。石防壁”は低級土魔法のひとつで、厚さ数十センチはある石の壁は低級ながら大砲の直撃に耐えるほどの耐久力を持つ。
「おらぁあっ!」
しかし異形の青年は野獣じみた掛け声と共に、いとも簡単に壁を打ち破ってしまった。砕けた石つぶてが飛び散り、少女の顔を覆ったフードを取り去る。赤と蒼の長髪が青年の起こした拳圧になびく。
正直、石壁を殴りで破壊されるのは予想外だったが、壁の内側に入って来られるのは彼女にとって想定内だった。少女は用意していた次の魔法を発動させる。
「”石魔人の巨腕”」
直後少女の後方から浮遊する大きな腕が出現し、眼前まで迫っていた青年を殴り飛ばした。青年は路地を二、三回転した後、突き当りの露店に突っ込む。
彼女エリノラ・アルマが使用できる魔法は、何故か物理攻撃に秀でた物が多い。先刻の石魔人の巨腕然り、魔法で相手を殴り倒すことを主体とした戦い方を得意としている。
そんな魔法で殴る系魔術師のエリノラは、顔にかかった自分の髪を払いながら作戦が成功したことに安堵のため息を漏らした。
「はぁ~、取り敢えず凌いだけど…怖ッ!殴りで石壁ぶち抜くって、あたし当たったら死ぬんだけど…。」
土煙を上げる露店を見つめながら少女は、どうか立ち上がらないでくれと祈っていたが、その願いは下品な笑い声と共に打ち砕かれた。
「ギャハハハハハッ!効いたぜぇ今の!!」
粉塵を上げる露店の残骸から首を鳴らしながら出てきた赤髪の青年は、大したダメージを受けてないように見えた。
「ウソ!?あの攻撃をまともに受けてまだ立てるって、あんた何なの!?…新種の魔物?」
「ぁあ?魔物だぁ?ふざけんな!どっからどう見ても人間だろうが!」
ふざけてるのはどっちよ!岩の直撃みたいな攻撃を受けてピンピンしてるような奴、人間とは呼ばんわっ!しいて言うなら魔人か化け物……化け物じみてると言えばうちの師匠も負けてないけど…。
エリノワールは自分の師匠と、視線の先で頭の埃を払う青年カルカに、ある種の共通点を感じ口を開いた。
「ね、ねえあんた!こんな質問変かもだけど…加護って知ってる?」




