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未来ラジオ

作者: 里井雪
掲載日:2022/07/08

 なぁ、君、そこの君。ラジオって知ってるかい? うん? ネットで聴くやつ? いやいや、放送波のヤツ? うーーん、なんだか話が噛み合わないな。


 私の言うラジオは、振幅変調(Amplitude Modulation)のだよ。AMラジオ、聞いたことあるだろ?


 懐かしいなぁ。昔、昔、ナウいヤングは、ラジオの深夜放送を聴くのが習わし、テレビなんて野暮なもの、見向きもしなかったのだよ。ミリオンセラー歌手は、ドーナツ盤レコードのな、CDってあったかな? テレビ番組出演を拒否するのが、一種のステータスとなっていたんだ。


「君が踊り僕が歌うとき、新しい時代の夜が生まれる」ってな! 今のような人気タレントを使った放送ではなく、ディスクジョッキーを本業とする有名タレントも多数、存在した。


 今、私の枕元にある黒いラジオは、三年前に他界した妻との思い出の品だ。


 妻とは大学の時に知り合った。当時、大学一年生、十八の彼女はとても美しかった。私の目には美の女神アフロディテすら、裸足で逃げると思われた。ああ、こういうの、盛った言い方というのかな?


 何故だろう、私のような取り柄もない男と彼女は、とても気が合った。大企業オーナー社長の娘、何不自由なく育った彼女にしてみれば、庶民バリバリの私の話が面白かったのかもしれない。


 順調に交際を進め、初めてのキス、告白、そして初めての夜、二人は同棲を始めた。


 だけど、そんな夢のような日々は長くは続かなかった。社長令嬢の彼女、当然だよな? すでに婚約者、政略結婚相手がいたんだ。しがない学生の私、なんの抵抗もできず、二人は引き離され、彼女は転校、やがて、婚約者とやらとの結婚式を迎えることとなった。


 ところが……、なんと、私の元へ式の招待状が届いたんだ。うん? どういうことだ? 悪い冗談か? 招待状を裏返すと、忘れることなどできない彼女の筆跡。


 〜 われても末に 逢はむとぞ思ふ 〜


 崇徳院? 落語かよ? いや、違う、違う!! これは、彼女からのメッセージに違いない!


 若気の至り、まさにこの言葉がピッタリくるだろう。その頃の流行歌、大塚博堂の歌が私の頭を回っていた。


 本当に、本当に、私はダスティンホフマンを演じてしまった。結婚式の会場に乱入し、ウエディングドレス姿も美しい花嫁の手を取る、私。待っていたのだろう、彼女は私に口付ける。式はもうメチャクチャ、結婚は破断となり彼女も親から勘当された。


 その後、二人は正式に籍を入れ結婚生活が始まった。お嬢様育ちの彼女にとって、貧乏暮らしは厳しかったと思う。だけど、だけど、彼女が辛そうな顔をするのを見た試しがない。


 金のない二人が、ある日、電気屋の店頭で見つけたラジオ、テレビは無理だが、食費を節約すればラジオなら何とか買えそうだった。


「音楽では、お腹一杯にならないよね」


 そう笑い合って買ったAMラジオ、それから五十年、「彼」はいくつものメロディーを奏で、二人の時代を作ってくれた。まだまだ、現役で動きそうなラジオだったが、とうとう昨日でその役目を終えた。


 今日は2028年11月1日、そうAM停波の翌日だ。


 妻には何一つ、贅沢をさせてやれなかった。だけど、なぁ、幸せだったのかい、本当に、君は? ラジオに問うても答えが返るはずもない。


 クソ!


 思わずラジオに八つ当たりしてしまった私。


 アレ?


 叩いたショックだろうか、突然、ラジオの電源が入ったようだ。


 ザー、ザー…… あ……、あな……、あなた、き……、きこえますか?


 うん? な、なんだ!! ラジオから聞こえて来た音は、紛うことなき妻の声。


 ああ、女の子のくせに、機械にはやたら詳しかった妻、何か悪戯を仕組んでいたのだろう。自らが死した後、私が寂しくないように。


「まず、お礼を言っておきますね。私は貴方と、死が二人を別つまで添い遂げることができて本当に幸せでした! 疑り深い貴方だから信じてないかな? と思って、もう一回言います。絶対、絶対、幸せでしたよ。また来世でも夫婦になりたいですね!」


 なんて、洒落たメッセージだ! 私の頬を涙が伝った。


「そして、私から、貴方へのちょっとしたプレゼントがあります。二人の思い出の写真立て、開けてみてくださいな。さらに、このラジオですが、未来予知機能付きなのです」


 ナニ、言ってやがる!


 でも、写真立ての方は本当かもしれない。私は、奈良ドリームランドに行った時、二人で撮った写真の裏を開けた。


 すると! え! 株券? しかも、相当な株数がある。


 ああ、そうか。勘当と言っても、彼女の父、娘を無一文で放り出した訳ではないのだな。だけど、五十年前のものなんて時効では? え! ちゃんと更新もされ、私名義になっているではないか。


 なんだよ! 山内一豊の妻かよ、まったく! こんなにお金があるのなら、自分が生きてる内に使えばよかったのに。


 彼女の音声メッセージには、まだ続きがあるようだ。


「今、貴方が聴いている531khzは、今、そこから周波数が高くなるに従い、より先の情報を聴くことができます。AMは1602kHzまでですから、約千日後の未来までが分かる、という仕組みです」


 何を馬鹿な! と思ったが、私は、十日後、541kHzに合わせてみた。


「2028年11月11日のニュースをお伝えします。●●製作所のスキャンダルに絡み、同社の株価が暴落しています……」


 えええ!! これは、もしかしたら、妻からの警告なのではないか? 私は、妻から貰った株券を売った。


「2029年1月10日のニュースをお伝えします。●●線脱線事故、犠牲者のお名前です。●山●介さん……」


 私の名前じゃないかっ!


 1月10日は家で静かに過ごすことにした。それから、未来のニュースをいろいろ聴いたが、皆、妻からの警告だったようだ。私には事故死する未来があったのだろう。これを知った優しい妻は、神様に掛け合い、回避するメッセージをくれた。そういうことに違いない。


 だけど結果的に、私は自らの天寿を知ることとなった。最初、千日後まで聴こえていたニュースが、日を追うごとに近い未来しか教えてくれなくなった。九百日、七百日、五百日……。日に日に短くなっていく。


 死までのカウントダウンのようで、何だか胸が締め付けられる。それでも、あの世で彼女と再会できると信じ、運命を甘受しようと思っている。


 ただ、一つ疑問がある。このラジオが告げる未来は、私の近辺に起こる事件に限られてはいる、だけど、株価だって電車の事故だって、私だけに限られた「事件」でもないだろう?


 未来が存在しないのは、果たして私だけ?


 そこの君、2028年、29年、30年……、本当に君の未来は続いているのかな??
















 夏のホラー参加作品です、一応。お題を見て、どう捻ってもベタベタのベタになりそうだったので、スルーしようと考えていましたが、ふと、思い立ったので……。


 私には珍しく無プロット、数時間で書いちゃった作品です、もうね、軽〜く、読んでくださいな。評価もオフにしております。


 ラジオということでしたので、AM停波の近未来と、昭和臭を出してみました。「ダスティン・ホフマンになれなかったよ(大塚博堂)」と映画「卒業」ネタ、「壊れかけのRadio(徳永英明)」は、ちと新しい? オールナイトニッポンネタ、奈良ドリームランド(2006年閉園)なんて知ってます?


 このようなストーリーを描くと、どうしても、好きなKey泣きゲーの空気感が出てしまって、どうなんだろう? と思いつつ、でも、それはそれで作風? この作品はどうでしょうか。


 で、ホラーなんですけどね。最後にちょこっと、らしいのを入れました! ってことで。。。。

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― 新着の感想 ―
[良い点] どうも数日遅れ。おうふ。未来確定 [気になる点] 良かれと思って [一言] 黒澤明の「生きる」みたいになりますかね。全力全開
2022/07/10 21:51 退会済み
管理
[一言] 読みやすかった。ポンポンって。 こういうラジオの使い方もあったかーなんて思って読みました。 所々の小ネタがw 一豊好きですよ。私(*^^*) 最近雪さん、大人っぽい内容が多いですよね。…
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