第七話
よろしくお願い致します。
街を歩き続け、僕とヴィヴィさんは知り合いに会っていた。
話をしてみると、僕らと同じようにあの広場にいるとまずいと思い離れたようだった。
「頭の中や声に出して「コール」って言うと、頭の中で電話相手を選べたり、今の時間が分かったりできるんだ。他にもできるかもしれないから、その時は教えてくれや」
「わかりました。しかしなんですかねコレ? 運営は何がしたいんですかね?」
「俺に聞かれてもわかんねぇよ」
「まぁ、そうですよね」
「それじゃ、また会ったら頼むわ」
「はい、それじゃあ」
と男性と分かれた。
彼と話をして分かったが、今までゲーム内でしていたようにフレンドコールができたのだ。
なぜか隣にいるヴィヴィさんとここであった人しか繋がらないけど。
他のフレンドの人は繋がらないので、ベリスさんやアリスさんにも連絡がつかないから安否確認ができない。
「なんで繋がらないんですかね。アリスさんやジャンヌさんとも連絡取りたいんですけど」
「そうですねぇ、なんででしょうか?なぜか連絡はとれると分かるのですが」
「そうなんですよねぇ。なんか頭の中に電話帳が入っているような感じっていえばいいんですかねぇ」
「そうそう、そんな感じです。もしかして電波が届かないとか?」
「…あー、どうなんでしょうかね?」
「自分で言ってて変な感じですこれ」
そんな感じで、アイテムボックスの中身の確認や仕様の変更点を見つけたりしていた。
「そういえば、もう二時間くらいは経ってないですか?」
「そう、ですね。多分、夜中の二時半くらいだと」
「…一度広場へ行ってみますか? あっちの方からもう騒ぎの声は聞こえませんし」
「はい。行ってみましょう」
と話をすると、都市中央にあるゲート兼モニュメントがある大広場へと戻っていった。
大広場へ着くと、辺りは静かになっていた。
あの異常な雰囲気は消え、今度は自分の呼吸する声が聞こえるくらい静まり返っていた。
しかし人は多くいた。何人かはふらふらと歩き回っているが、ほとんどは俯いたまま座り込んでいる。
また、ある一角を見ると何やら話し合っているようであった。
そちらへ近づこうとしたが、遠くからでも聞こえてくる汚い言葉の応酬がその気を無くさせた。
ヴィヴィさんもその言い争いに気づいたのか、眉を潜ませ、そちらを見ないようにしていた。
知り合いを探してみたが、どうやらいないようだった。
「こちらにも居ないようですね。ヴィヴィアンさんはどうですか?」
「いえ、こっちも見ませんでした。もしかして他の都市にいるんじゃないんですか?」
「…そうかもしれないですね。ちょっと行ってみましょうか」
「はい」
僕らはそう言ってゲートの前に行くが、ゲートは起動しなかった。
いつもならゲートの前に立つと辺りが輝き出し、行き先を案内してくれるのだが、その滝のように流れている水には、僕らの姿が映っているだけだった。
「あれ? 使えませんね?」
「うーん、もしかして使えないようにしているのか?」
「本当、運営は何がしたいのでしょうか?」
「うーん、もしかして本当に誘拐なんですかね? この中に閉じ込めるためにやっているとか」
「えー、それじゃ何もできないじゃないですか!」
「うん、どうしましょうか?」
「うーん」
と僕らは悩んでいた。
それからしばらく悩んでいると、ヴィヴィさんは
「とりあえず、ここにいても仕方ないので、都市の外側まで行ってみませんか?」
と提案してくれたので、
「そうですね。ちょっと行ってみましょうか」
と返事をし、都市の外側にある広場へと向かった。
今向かっている広場は、この空中都市アルフヘイムに存在する5つの広場の内の一つ、東側にある飛行場がある広場である。
四つの広場は都市の東西南北に位置する方向の端に、もう一つの広場は都市の中央に作られている。イベント等は基本、中央の大広場にて行われることが多いが、この四つの広場でもクエストが発生するので、暇を持て余したプレイヤーや物好きなプレイヤーが訪れることがある。また、NPCの商人達が各広場で露店を開き、食料などのアイテムを売っているので、掘り出し物を探しにきたプレイヤー達が訪れ、いつも多くの人で賑わっている。
しかし、広場に着いてみると誰もおらず、静かだった。
中央広場で感じた静かさとは違い、人の気配を感じないのでどこか寂しさを感じた。
いつもだったら人が居なくても、どこかでイベントでもやっているのかと考えはしただろうが、寂しいなんて感じることは無かったと思う。
隣にいるヴィヴィさんも何かを感じているのだろうか、周りをキョロキョロと見渡している。
「…なんか、いつもより静かですね」
「…はい、なんか、寂しいです…」
「そうですね…。それに、いつもと違う雰囲気を感じます」
ヴィヴィさんも似たことを考えていたようだ。
少し時間が気になったので
「コール」
と呟く。すると、システムウィンドウが開き、『4:37』の文字を映し出していた。
都市の中央大広場から二時間かけて移動してたんだなとぼんやり考えた。少し息苦しさを感じたので深呼吸をすると、吸い込んだ空気が冷たく感じた。ゆっくりと吐き出すと、吐き出した息が空中で真っ白になったのを見て、
「あぁ、今冬でしたねぇ」
「あ、本当だ。吐息まで再現されている」
「ここまでリアルにする必要があるのでしょうか? というかよくできましたね。もう現実と見分けがつかないですよ。ここまですると」
僕とヴィヴィさんはそんな話をしていた。
広場のウッドデッキに備え付けられているベンチに二人で座り込み、ぼーと遠くを見る。
たまに僕は立ち上がって、ウッドデッキに備え付けられている木製のフェンスを越えない程度に身を乗り出して下をのぞき込むと、そこからの眺めはすごかった。まるで一度乗ったことがある飛行機からの眺めのようで、大きな山々を上から見下ろしていた。
だが、そのような眺めもかれこれ一時間も見ていると飽きてくる。
そろそろ何か連絡くらいは来ないだろうかと思っていると、
「のぉ、こんな朝から何をしているのだ?」
と声が掛けられた。
声がした方を見てみると、見知らぬ老人がいた。
「えっ、あぁいや、こんなことになっているんで友人とここでボーっとしているんですよ。強制ログアウトも出来ないですしね」
と、僕は簡単に話した。
すると、老人は
「ん?こんなこととは?それに「きょうせいろぐあうと」とは何かな?」
と聞き返してきた。
僕は最初、このプレイヤーは何を言っているのかわからなかった。
こんなこととはこのゲームの世界に閉じ込められたことだが、もしかしてさっきログインしたばかりで状況が分からない人かなと思い、説明する。
「えっとですね。あなたは先ほどログインしたばかりだと思うのですが、今このゲームから出ることが出来ないのですよ。運営の仕業だと思うのですが。で、今どうしようもないのでこうやって状況が動くのを待っているんです」
「ふむ。…君が何を言っているのかわからないが、困っているのならフレイ神様に相談してみてはどうかな?」
「はい? フレイ神様ですか?」
僕は、何か話が嚙み合わないなと思いながら、とりあえず聞いてみようと思った。
「そうじゃ、お主もエルフならわかるじゃろう。我らが王であり讃えるべき神であるフレイ神様のことじゃ」
「は、はぁ」
「それじゃあな。若いの」
と老人は言いながら歩いて行った。
「…変な人でしたね。何かのロールプレイヤーですかね?」
「そうですねぇ。それか、もしかして…」
「はい?」
「…いや、気にしないでください。そんなことあるわけないですから」
「…はぁ」
ヴィヴィさんは怪訝そうな顔でこちらを見ていたが、少しすると別なことを考え始めたのか、解放してくれた。
ヴィヴィさんの方を見ながら愛想笑いをしていると、遠くの方から光が差し込んできたのを感じた。
朝日は遥か遠くからこちらを照らし出し、その光は僕らの足元を徐々に満たしていった。
「おー、なんかすっごく綺麗ですねぇ。こんな時間までゲーム内に居たことなかったので初めて見ましたが、こんな光景を見られたんですね~」
ヴィヴィさんはその朝日を見て、感動したように言った。
そう、9年間このゲームをし続けた僕でさえも初めて見た光景を見て。
「ねぇヴィヴィさん、もしかしたらの話をしてもいいですか?」
「はい? なんでしょうか?」
「もしなんですけど、ここがゲームの世界じゃなかったらとしたら、どうしますか?」
「…えっ? 何を言っているんですかユグさん?」
「…いえね、どう考えてもおかしいんですよ。今の状況がゲームの中と考えようにも、ゲームでは片付けられないことが多くてですね」
「…」
「これって、現実なんじゃないかなと思ってしまうんですよ」
「でも、ゲームをしているんですよ? 私たちは」
「僕もですよ。でもいつもと違ったでしょう? ログインするときも、してから今も」
「…じゃあ、ここがゲームの中ではなく、ゲームに似た世界っていうんですか?」
「かもしれないってことです。そしたらこれからどうしようかなっていう話なんですけど」
ヴィヴィさんは悩まし気に顔を歪めたと思ったら、頭を抱えて俯いてしまった。
「ちょっと待ってください。確かに今は変な感じになっていますけど、まさかそんな…」
「いや、僕も自分の頭がおかしいんじゃないかと思ったんですが、どちらにせよ、これからの事を考えないとなと思いまして、とりあえず提案なんですが」
僕がそう言うと、ヴィヴィさんは顔を上げ、不安そうに僕の言葉を持った。
「…どこかで何か食べませんか? お腹減ったので」
「…はい、いいですよ。私もちょっと落ち着きたいですし」
と言って、少し気が抜けたような笑顔で頷いてくれた。
「今ちょっと焦り過ぎているような気がするので、後で改めて話をしましょう」
「そうですね。それじゃあ、どこ行きましょうか?」
「とりあえず、都市中央の大広場に戻りましょうか。そこで何かつまみながら話しましょう。僕のアイテムボックスの中にあるお菓子をあげますよ」
「うわぁ、ありがとうございます! それじゃ、行きましょうか!」
と、重苦しい雰囲気を霧散させ、アイテムボックスの中のお菓子に胸を膨らませながら、大広場へと向かった。
読んでくださり、ありがとうございました。
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