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009 フィアナと同棲生活⑤

 食事も終えた夜、風呂には先にフィアナに入らせて、俺は台所で片付けをしていた。


「フィアナか……」


 この家に居候に来たのは世界一の美少女だから? いや、それは薄いな。

 むしろそんなだったら厳重な警備が敷かれておかしくないところだ。

 なのにフィアナは他人の家に放り出されている。


 侯爵家ってことはそこそこでかい貴族階級のはずだ。

 それなのにこの扱い……か。


「まぁ追々聞くとしようか……」


 片付けを終えて、自室に戻った俺はベッドに寝そべる。

 風呂は明日の朝に入るとするか。何か今日はもういいや……。


 そのまま寝てしまおうかと思った矢先だった。


「レイジ、ちょっといいですか」」


 扉をノックする音と一緒に聞こえるフィアナの澄んだ声に俺の胸がざわつく。


「ああ……いいぞ」


 動揺を抑えて答えた。


「すみません」

「っ!」


 部屋に入ってきたフィアナは銀の髪を1つにまとめており、ピンク色の可愛らしい寝間着姿となっていた。

 風呂上がりなので、銀の髪はしっとりしていて、整った小顔は少し紅潮しているようにも見える。


 サルヴェリアのイチローの効果でこの国のお風呂文化は日本とまったく同じだ。

 浴槽に貯めたお湯にじっくりとつかる、温泉も大好きだ。


「何かあったのか」

「レイジともっとお話がしたくて」

「な、なんで?」

「何でって2人きりですし、寂しいじゃないですか」


 その2人きりってのが戸惑うんだよ。

 壁際に座っている俺の横にペタンと座った。


「っ」


 風呂上がりですっげーいい匂いがする。

 ちらりと横目で見るとフィアナと目が合う。

 世界一の美少女なんてパワーワードが似合う、ふとした笑みに心が響く。


 その可愛らしさに思わず口が滑っていた。


「あっ、かわ……んぐがぁ!」

「ええ!?」


 思わずかわいいと口に出してしまいそうだったので思いっきり後頭部を壁にぶつけて煩悩を破壊することにした。

 前頭部だと壁が壊れるのでしゃーない。


 女の色香に負けるわけにはいかんのだ。魅了のステータス異常などかかってはならない。


「すっきりした」

「頭から血が出てますよ!」

「気にしなくてもいい。今後も良くあると思うし」

「頭大丈夫ですか!?」


 それはいろんな意味での心配だろうか。

 だけどおかげで我を取り戻すことができた。

 やはり痛みとは大事だな。


「まったくもう。昔からやんちゃなんですから」

「やんちゃですまされるとは……あんたも意外に理解がいいな」

「レイジは昔からやんちゃな男の子でしたからね」


 やんちゃと言うが5歳の時のことなんてそうは覚えないだろう。

 フィアナらしき女の子と野原を駆けずり回った記憶があるが……。


「5歳の時の俺ってどんなだっけ。晴れた日は走り回ってた気がするけど」

「雨の日とかだと本とか読んでんですけど、レイジったらいつも私にちょっかい出してたんですよ」

「何してたっけ」

「私のスカートめくったり、くすぐってきたり、お尻をよくぺんぺんされました……」

「ただのエロガキじゃねぇか!」

「そういえばそうですね。まぁ私の反応を楽しんでた感がありましたけど」


 5歳のくせに随分と高等テクニックをしやがる。

 本当に俺なのか? 別人じゃないだろうな。


「5歳の時の写真ちょっとだけ残ってますよ」

「見せてみろよ」


 これで俺じゃなかった笑いものだな。

 ……いや。それはそれでだいぶ困るけど。


 フィアナのスマホの中にある写真フォルダ。

 5歳の頃はまだスマホもあるかないかって時代だったか。

 データだけ撮りだして保管してるってところか。


 フィアナの見せてくれた写真。フィアナに強く抱きついているクソガキがいた。随分とエロそうな顔をしているが本当に男女垣根とか関係なく遊んでたんだろうか。

 そしてそのエロガキは紛れもなくそれは5歳の時の俺だった。

 10年前にタイムリープして引っ叩きてぇ。


「しかし……フィアナは変わらないな」

「ええ!? そんなことないです。大人になりましたもん。たまに子供っぽいって言われますけど」


 ああ、そういう意味じゃない。

 5歳のフィアナがやばい。こんなかわいい5歳児を見たことないわ。天使か何かか?

 そんな天使をもみくちゃに抱きついている俺も相当やばいな。


「レイジと一緒に暮らした日々のおかげで……誰かを想う心を取り戻せたんです。……レイジと再会できて本当に良かった」

「今更ながら思い出の格差に申し訳ない感があるんだが……まぁフィアナが良かったならそれでいいか」

「それにレイジがこの時教えてくれたアレのおかげで……レイジとお別れしても孤独を感じずにすんだのですよ」


 フィアナはしみじみと思い出すように語る。

 フィアナとの別れか……どうせすぐまた会える、そんなつもりで明るく別れただろうなと思う。

 実際はこうやって10年経ってしまったし、きっかけが無かったら俺はこの国に来ることはなかった。

 10年は長いな。


「アレってなんだよ。俺は何かしたのか?」

「これです」


 フィアナはスマホを操作して、俺に見せてきた。

 そこに書かれていたのはサルヴェリア語で書かれた日本の漫画だった。


「私、日本の漫画と小説が大好きなんですよ。レイジが5歳の時に教えてくれたあの時から……たくさんの作品に触れてきました」


 漫画は俺もよく読んでたな。親父が好きだった漫画を俺が読んで、フィアナにサルヴェリア語で翻訳されたものを見せたんだっけ。


「今はライトノベルを良く読みますね。日本の作家さんが書くラブコメは崇高です。アニメとかも大好き」

「見事なオタクになっちまったわけか」


「最近のお気にいりはこれなんですよ」

「【同じクラスの天女様と何もない俺が一緒に暮らす話】。ああ同天か。中学の時の友人が好きだったよ」


「本当ですか! この作品を書いているお米炊子って作者さんの作品が本当に好きでどの作品もすごい愛情が込められていて楽しいです」


 そういえば中学時代のオタク友達もその作者を推していたな。あいつはファンタジーの話を推していた気がする。

 フィアナはそのラノベの良さをずっと語っていた。

 その勢いのある口ぶりから本当にその作品が好きで日本の作品が大好きであることが伝わってきた。


 俺が日本人だから嬉しく思えるな。


「あ」

「どうしました?」

「日本にいた時の友達が餞別でアニメのBD(ブルーレイディスク)をくれたんだ。見るか?」


「見たいです!」


 幸い、部屋にはテレビが置いてある。

 日本から送ったゲーム機はBDの再生機能があったはず。

 ダンボールを開梱し、さっそく取り付けてみた。


 後ろで期待に胸を膨らませてるフィアナの姿に笑みが出てしまう。

 俺にはそこまでオタク趣味はなく、友人の話を聞いて楽しむくらいだったが……、この日のためだった思うとありがたいな。


 さっそく電源を入れてみた。

 ゲームソフトも何個かあるし……フィアナを誘ってプレイするのはありかもしれない。


「あ、この作品、ネットで聞いたことがあります! サルヴェリアにはBDで展開されてなかったかな……」

「字幕でサルヴェリア語があるみたいだな。字幕を流すか?」

「お願いします!」


 日本では有名な学園ファンタジーアニメだ。

 俺は一回友達の付き合いで眺めているので話の内容は知っている。


 ……隣で嬉しそうに眺めているフィアナの顔を見ている方が楽しいかもしれん。


「この主人公、レイジに似てますね。黒髪で黒服で人を寄せ付けなさそうな雰囲気」

「おい、俺を陰キャにするんじゃない」

「違うんですか?」

「……」


 いや、陰キャだ。中学時代を思い出せばよく分かる。

 女慣れしてなさすぎて、フィアナを直視できないし……困ったもんだ。


 この作品は珍しく1クール分全てがBD1枚に入っていた。

 そのため全部見るにはかなり時間がかかる。

 2人でのんびりとアニメ観賞を始めた。時々、お互い感想を言い合い和やかな時間が過ぎていく。


 1クール12話全部見るのは時間的に厳しいか。明日は休みとはいえ、明後日の入学式の準備もしたい。

 なんて思い始めた頃に肩に何かが当たる。


「おい、フィアナ」

「すぅ……」


 俺の肩に無防備にも頭を乗せてきたのだった。

 可愛らしい寝息を立てている。


「おいおい……」


 寝顔もまさしく世界一だな。


「エロいことされるとか1ミリも思わないのか?」


 ゆるゆるの寝間着なんか着やがって……。

 豊かに育った胸元とか見えてしまいそうだ。

 俺のことを異性というより、ただの幼馴染としか見ていないのかもしれないな。

 結婚なんてやっぱ早いよな。


「ったく」


 さすがにこの部屋に寝かせるわけにはいかない。

 フィアナを抱っこする。あんなにメシ食ってるくせに軽いなほんと。

 

 フィアナの部屋へ入り、そのままベッドの上に寝かせた。


「レイジ……」

「っ」


 起きたのか。抱っこしたことやフィアナの部屋に入ったことどう言い訳するか悩む。


「いつか……一緒に日本へ行きたい。すぅ……」

「寝言かよ、紛らわしい」



 本当にフィアナが望むなら結婚とか関係なく……。

 高校卒業したら一緒に日本に来るか? と誘ってみてもいいかもしれない。


 いい寝顔しやがって。なんだか朗らかの気持ちになりそうだ。


 

 ◇◇◇


 そして翌日。


「フィアナ・オルグレイス。俺はとても怒っている。懺悔しろ」

「うぐぐ……も、申し訳ありませんレイジさま。フィアナが悪うございました。ぐすん」


 昨夜の優しい気持ちは翌朝に飛散した。

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