IF(終)フィアナと結ばれる
目を瞑って、左方向から迫ってくるフィアナ。
待っていればその柔らかい唇が俺の頬へと来るのだろう。
俺は一歩下がり、左を向き、フィアナと対面するように体を向けた。
びっくりしたのか。フィアナは目を開ける。
「どうして……」
ショックだったのかフィアナは顔を強ばらせた。
断られたと思ったのかもしれない。
違うんだよ。
頬じゃダメなんだ。
もう、俺はとんでもなくフィアナを好きになってしまっているのだから。
腰を軽く落として、フィアナの両腕を掴み引き寄せる。
びくっとするフィアナの唇にとても不器用にキスをした。
「むぐっ」
フィアナが愛おしくてそのまま華奢な体を抱きしめる。好きで好きでたまらない気持ちをずっと込めた。
フィアナは驚いたのか少し体が震えたが、やがて収まりその身を預けた。
ぎゅっと体をだきしめて、その柔らかな唇に込める力を強める。
しばしの時間だったと思う。唇を離したきっかけは次のダンスが始まる音楽が流れたことだった。
やってしまった。勢いでやってしまった。
だがもう後には引けない。
「俺はフィアナが好きだ。本当に好きなんだ」
フィアナが離れ、困惑しているのか唇に手を押さえていた。
「前にフィアナは俺に内面を好きになって欲しいと言ってたよな。フィアナからすれば俺の内面の好きはまだまだなのかもしれない。でも……あんたを好きだって気持ちは本物のつもりだ」
どう取り繕ってもフィアナの外面は最高で最強。
好きになるきっかけなのは間違いない。
でもこの2ヶ月一緒に過ごして、たくさんのことがあって……幼い頃の思い出から、貴族と平民の格差までいろんなことがあった。
俺のために慣れない料理を作ってくれたり、人付き合いが得意じゃない俺を肯定してくれたり、勉強もいっぱい教えてくれた。
俺にはフィアナ以上の女の子は存在しない。
俺は内面でもフィアナが大好きなんだ。
それでも外見だけだと判断されるならそれでも構わない。俺がフィアナを好きな気持ちは本物だ。内面を好きになっていることをいずれは認めさせてやる。
「はぅ」
フィアナは顔を真っ赤にさせ唸った。
「嬉しすぎて何も考えられないしゅ……」
フィアナは夢心地な言葉を喋る。
「私……もう内面とか外面とかどうでもいいんです。レイジが私を好いてくれるならなんでもいい」
フィアナは笑った。
「レイジに好かれたい」
「あ……」
「私はレイジのことが大好きだから」
その言葉に俺はたまらなく嬉しくて……飛び出しフィアナを抱き寄せた。
ダンスの時間が終わるまで、俺とフィアナはお互いの想いを確かめ合った。
今日……フィアナと恋人同士になったんだ。
◇◇◇
それから少し時が過ぎ、6月月初の自宅に帰る金曜日となった。
日本部の部活が終わり、エゼルやクイーン、シェーンと学校の前で分かれ、最寄り駅でさくらとも分かれる。
そこで俺とフィアナは交際して初めて二人きりになった。
「……」
こんな時、何て言葉を出せばいいか分からない。
分からないけど何かをしなければならない。
だから俺は震えながらフィアナに手を差し伸べた。
もちろん顔も見れず、乱暴に手を出すだけだった。
でも……そんな手をフィアナはゆっくりと握ってくれる。
恋人同士となって初めての一緒は手を繋いで帰宅することだった。
それだけでもすごく幸せに感じた。
夕食はカフェテリアで取ったため家に帰った後は自由行動。
俺がトレーニングで汗を流している間にフィアナは風呂に入り、時間を見計らって俺も風呂で汗を流す。
部屋に戻って……ベッドの上でまったりしていると今日はもうフィアナと話すことはないかな。
そんなことを思っていた。
本当は話したくてたまらないけどどうやって声をかければいいか分からない。
武術関係なら饒舌になるのに何で俺はこう恋愛関係は不器用なんだ。
ふて寝しようと思った時、部屋の外を歩く足音が聞こえる。
「レイジ、ちょっといいでしょうか」
フィアナの声に体がびくりと動き、振動でベッドが動いてしまった。
落ち着け、落ち着こう。
「あ、ああ」
何でこんな緊張しているんだ。
初めて2人きりになるわけじゃない。今までだってずっと一緒だったじゃないか。
ガチャリと扉を開けて、フィアナが入ってくる。
寝間着のパジャマに着替えて、銀髪碧眼の姿は紛れもなくフィアナのそのもので。
そんなフィアナが俺のベッドの上、俺の横に腰かける。
狭いベッドにフィアナと2人きり……どうしても意識してしまう。
「こんな時間にど、どうした」
声が震える。何てかっこ悪いんだ、俺は。
「明日でも良かったんですけど……我慢できなくて」
「な、何がだ?」
「レイジともっとお喋りしたかったんです。……恋人同士になったからこそあなたともっと」
「……そうだな」
「レイジったら急に黙りこんじゃって。まぁ私も正直……緊張してましたけど」
「悪い」
フィアナも同じ気持ちだったんだな。
そりゃそうか。お互い……こういう関係になるのは初めてだし、どうしていいか分からない所がある。
でもフィアナはきっかけをつくってくれた。
次は俺が……動かないと。
「フィアナ」
「はい」
「その……もっと顔を見せてくれないか」
「ふふ、何ですか、お婆ちゃんみたいなこと言って」
確かに変な言葉だったのかも。フィアナの笑いに緊張が少しほぐれる。
でも……もっと近くでフィアナの顔が見たかったんだ。
俺がゆっくりとフィアナの手を掴むとフィアナの体がびくりと震える。
そのままフィアナを引き寄せた。
「抱いてもいいか?」
「ん」
フィアナは俺の想いに身を捧げてくれた。
フィアナの柔らかな体を抱き、そのまま横向きでベッドへ倒れた。
1つベッドの上でフィアナと2人でいるのに……心は和やかだ。
こういう状況はエロいことを考えてしまいがちだがわりと純粋にフィアナの顔を見ることが出来ている。
俺はフィアナの頬に触れた。
「フィアナは本当に可愛いな」
「え~。ふふっ、レイジにそう言われるのは悪い気がしませんね」
「顔も髪も体も全てがかわいい」
もう片方の手もフィアナの頬に触れる。
そのまま両手で動かしてふわふわの頬を伸び縮みさせる。
「どうやったらブサイクになるんだ?」
「んー。漫画で見たことありますけど、キス顔が綺麗じゃないキャラがいますね」
「そうか。じゃあやってみようか」
「は~い」
フィアナは目を瞑り、唇と閉じる。
これがキス顔でやつか。なんだ、可愛いのは変わらないじゃないか。
悔しいのでキスしてやることにした。
「へへへ」
恥ずかしそうにはにかんだ顔をするフィアナ。
そんな仕草に愛しさがどんどんこみ上げてくる。
キスをすればするほど俺はフィアナのことが好きなんだなと実感できてくる。
「ねぇ、レイジ。私、今すごく幸せなんです。あなたと2人きりの今が……本当に好き」
学校に行けば否応なしに侯爵令嬢フィアナ・オルグレイスとして振る舞わなくてはならない。
部活の中や寮であればマシかもしれないが備えだけはいつもしているように感じる。
だけど今は間違いなく俺と二人だけ。この空間は誰にも邪魔されない。
「俺も幸せだ。フィアナが好きでたまらないんだと思う」
「へへへ……もうにやけが止まらないですよぉ」
「俺も……正直だいぶ我慢している」
「我慢しなくてもいいんですよ。凜々しいレイジも大好きですけど……さらけ出したレイジだって愛してみせます」
「ほんとか? めちゃくちゃキスするかもしれないぞ」
「どんとこいです。というより……」
フィアナは両手を俺の首の後ろにまわす。
「もっとキスしてぇ」
もう取り繕うのはやめだ。10回でも100回でもフィアナと愛し合う。
自宅で二人きりでいる内は精一杯フィアナを愛すると誓う。
こんな時間がいつまでも続くどうか……分からないのだから。
「ねぇレイジ」
「ん? なんだ」
「私のこと……もっと好いてくれますか?」
フィアナの銀髪に触れて、フィアナの額にキスをする。
「世界一のフィアナを世界一好いてるよ」
俺とフィアナのこれからは……ずっと続く。
ここまで読んで頂きありがとうございます。
昔一緒に過ごした幼馴染と留学先の外国で再会したら名家の侯爵令嬢になっていた件 ~メディアに世界一と評されるほどの美貌とスタイルで滅茶苦茶グイグイ来るせいでいろんな意味で限界なんですが~
いったん完結となります。
この作品は書こうと思えばいくらでも伸ばせる構成となっておりますが、作者の書き溜めも限界を迎え、2章の最後を分岐しキリよく終わらせる形とさせて頂きました。
この先も構想はありますが文章にするには相当な体力が必要となるので休止とさせて頂きたいです。
もし、良いお話を頂く機会があれば本編の先を書く予定ですが現状はここで終わりとさせてください。
この後、レイジとフィアナとさくらでイチャイチャするIF話を用意していますが、なろうだと多分怒られるのでカクヨムのみの投稿とさせて頂きます。
3万文字分の追加エピソード、Hルート! ちょっとえっちなお話が好みであればカクヨムで投稿済ですので読んでみてください。
さて、最後となりましたが
【面白かった】【次回作も作者頑張れ】【この先も読みたい】と思って頂けましたら
ブックマーク登録や下側の「☆☆☆☆☆」を「★★★★★」にして頂けるとそれが一番の作者に対する応援となります!
もちろん強制ではありませんが完結の機会にお気持ちだけでも結構ですので宜しければお願いしたいです
それではこれからも宜しくお願いします!




