067 俺と一緒に踊ってくれないか⑦
「寝坊しちまったよ」
「このパーティで寝坊ってよっぽどだよ~。むしろ寝れないって人の方が多いと思う」
「テストよりも重要視されてるって聞けば当然だろうな」
シェーンのドレスもよく似合っている。髪色や肌に合わせているんだろうな。
いつもはそこまで引き付けられないのに魅力を感じてしまうじゃないか。
それにシェーンは日本部で一番小柄で童顔だが……スタイルは良く、胸も大きい。
オタク友達が言ってたロリ巨乳ってやつか。ロリではないかもしれんが。
「レイジくん、またおっぱい見てる~~」
「うっ」
「もう好きだなぁ。もっと見てもいーよ」
見ろと言われると視線を外したくなってくる。
胸を強調させんなコラ。昨日めちゃくちゃ発散したのにまたいろいろこみ上げてくるじゃないか。
話題を変えよう。
「さくらを知らないか?」
「さくらちゃんならこの中にいるよ。あ、ちょうど団体さんがいなくなるみたい」
シェーンの言うとおり、令嬢子息の一団が離れていく。
そしてそこにはクイーンと……恥ずかしそうにしながらも蛍光色の目立つドレスに身を包んださくらの姿があった。
「レイジくんが来たよ~」
「えっ」
「あらっ」
シェーンにトンと背中を押さえて2人の前へ出る。
「いいタイミングに来たわね。みなさい、わたくしの美しさに跪く権利を上げるわ!」
びしっとクイーンを指をさし、姿を強調させる。
これはお世辞抜きでマジで美しいな。
さすがあまのじゃくでも公爵令嬢。宝石とか付いているドレスなんて初めて見たわ。
まじで1000万越えてんじゃねぇかってレベルだな。
「さすがだな。マジで頂点って感じがする」
「当然よ。今年はわたくしが女子生徒の中で最も爵位が上だからね。おっほっほっほー!」
「今年? ああ、そうか来年は王女が入学するのか」
「ええ、ロザリー王女殿下が入学されるわ。さすがに王女殿下を差し置くわけにはいかないわ」
なるほどな。結婚式で新婦より派手な格好が不躾であるのと同じで、王族より派手に振る舞う公爵令嬢はよくないってことか。
なので唯一頂点になる今年に全力を尽くしてるってことなのかもしれない。
「わたくしの美しさに見惚れてもよくてよ!」
「いやまぁ……いいよなぁ」
「あなた、胸だけじゃなくてドレスを見なさい」
見てるって! でもボリュームのある胸部につい目がいってしまう。
ちょっと強調させすぎじゃないか。
いや、しかし……でかい。
「ごほん。で、エゼルには見せたのか」
「な、なんでそこでエゼルが出てくるのよ」
「いや、出すだろ。まぁ俺もエゼルとは会ってないから場所はわかんねーけど。後でダンスもあるんだし、誘ってみればいいんじゃないか」
「む、む、無理! 誘う勇気があるならとっくに素直になってるわよ!」
そんな怒鳴らなくても……。
こういう姿を見せてる方が正直可愛らしいと思うけどな。
「だ、だから……勇気出ないし。レイジ、わたくしと踊る権利を上げるわ」
「何で俺が踊るんだよ! 別にいいけどよ」
ったく……本末転倒になってないか。
さて……さっきから無言を貫いているこの子に触れるとしようか。
「あ……うん……。さくら」
「は、はい!」
何だそのウブな反応。
「どうかしら! 公爵家の着付け隊によりさくらさんを究極に可愛くしたわ。日本らしい和をベースに桜の名をイメージしたら桜色のドレスよ」
正直マジで綺麗だ。さくらの黒髪によく似合っており……ウェンディグドレスと言わんばかりに美しい。
「皆さくらさんの美しさを褒めていたのよ。おっほっほー! 日本向けにブランドを立ち上げようかしら! さくらさん、イメージキャラを頼むわ」
「ええ! 困るよぉ」
クイーンの奴、相当力を入れたっぽいな。さくらのため以上に商業価値を感じたのかもしれない。
日本はこの国ほどドレス文化はないけど、ゼロでもない。
さくらのような日本人らしい子に着せると注目されそうだ。
「本当に……似合ってるかなぁ?」
恐る恐るさくらが聞いてくる。
昨日くっつき合ったこともあり若干意識してしまうが素直に答えることにした。
「ああ、とても良く似合ってる。見違えた」
「ほんと? あはは……嬉しいなぁ」
照れて頬をかく仕草がまた可愛らしい。
本当によく似合っている。桃色のドレスから出る白い肌は瑞々しい。
そして何よりはやっぱあの黒髪だろう。昨日も良かったが今日も良い。
昨日ちらっと触ってしまった。胸も……実に。
「零児くん。め・せ・ん」
「みんな俺の目線を読むのやめろ! しゃーないだろ」
「え~レイジくんが胸を見てる時って熱入ってるもん」
「食い入るように見るわね。頭の中どうなってるのかしら」
「じとー」
さくらが背を向けて胸を隠してしまう。
「さくらさん。隠すのはダメよ。ドレスを着る時は胸を張って堂々としなさい」
「うっ」
クイーンに注意されて、さくらは向き直り、胸を張る。
再び俺の目線はどうしてもそこにいく。
「零児くん。め・せ・ん」
「すまん」
「むぅ」
「でも……そのドレス本当によく似合っている。他のサルヴェリア人にまったく見劣りしていない、さくらはすげぇよ、とても綺麗だ」
「あぅ」
さくらの顔が真っ赤になっていく。
俺も恥ずかしい発言に顔が赤くなりそうだ。
「あ、ありがと……。でも綺麗とかは慣れてないから、うぅ!」
「悪い……」
しまった。この国にいると可愛いとか綺麗とか素で出てしまいそうになるけど、日本人感覚だと恥ずかしい言葉だよな。
しかしまわりを見るとさくらに注目している人が増えている。
注目度だけで言えば他のサルヴェリア人よりも上なんかじゃないかって思う。
「フィアナ・オルグレイスだけでなくさくらさんまで狙っているなんてね」
「レイジきゅんも好色ですなぁ」
言いたい放題いってくれる。
「ね、ねぇ」
「ん?」
さくらが俺の燕尾服の袖を優しく引っ張ってくる。
「あとで……ダンスパーティあるよね。その……踊ったことないし、わたしと踊ってくれる?」
「お? おお……でも俺は社交ダンスなんて踊れないぞ」
「大丈夫だよ~ん。音楽に合わせてステップを踏むだけでいいからね。ちゃんとした社交ダンスは貴族だけが出来ればいいんだよ」
そういうものなのか。だったら……踊ってもいいか。
「じゃあ、まぁ……踊るか」
「うん!」
ったく、可愛いな。くそっ照れてしまいそうだ
「それでフィアナ・オルグレイスの所には行ったのかしら」
「いや、場所が分からなくてな」
「たぶん、あっちの大きな集まりのとこやと思うよ。さっき、公爵家の先輩に囲まれてたし」
「……フィアナ」
「うん、零児くん。フィアナちゃんのとこ行ってあげて。一人で不安やと思うし」
「分かった。また後でな」
3人に手を振って、フィアナがいると思う場所へ向かった。
「行かせて良かったの?」
「さくらちゃんは優しすぎるよ」
「うん。でも零児くんはフィアナちゃんが好きなの分かってるし、フィアナちゃんの名前を呟いた時の彼の顔が……」
「一番かっこええんよ」




