064 さくらと2人きり②
「い、いいのか!」
「ま、まぁお風呂入ったばかりだから綺麗にしてるし。……に会うから整えたわけだし」
「何か言ったか? まぁいいや、じゃあさっそく」
何という幸運。エゼルに自慢しないといけないな。
さくらの肩に触れ、引き寄せる。
「ひゃわっ! なんなん!」
「後ろ向いてもらわないと触れないし」
「口で言いなさい! 日本語喋れるんだから」
ちょっとがっついてしまったかも。
これは反省だ。
眼前にさくらの長い黒髪が広がり、むくむくと欲情が広がっていく。
俺は髪フェチだったのか。でも女の髪が嫌いな男なんていないだろ。
一生触り続けたい。
毛先の先端を手に取り、手をなじませるように黒髪をとかしていく。
ちょうど風が良い感じに拭いてきて、ふわりと優しい香りがする。
「いい匂いがする。さすが風呂上がり」
「そ、そ、そう? あはは、照れるかなぁ」
さくらが妙に慌てているが俺の心はわりと無心だ。
黒髪が風を受け、光の波がうねりをあげる。
黒髪の川はまさに純度100%、縮れ毛1つない……完璧なものだ。
「さくらの髪……すごく綺麗だな。まるで黒髪の一級河川って感じか。四国の方にある日本一の清流と呼ばれる川を思い浮かべる」
「零児くん、四国行ったことあるの?」
「ないけど」
「何、アホなこと言ってんの!?」
「やばい、何か我慢できなくなってきた」
僕はさくらの髪をすくい上げて自分の顔に押しつけた。髪量が多くて実に良い。
手を外して、背中を支えに自分の顔をさくらの黒髪に埋める。
女どもがやってたように俺も全力でさくらの黒髪を味わおうと決めた。。
風が頬や顎に当てるように髪を流していく。
「こ、こらぁ……もう」
拒否されてないってことは続けていいってことか。
これっきりの可能性もあるし全力で味わっておこう。
しかし、こうなってくるとフリーの手の行き所が無くなってしまう。
エスティや王女は胸に走っていたが、さすがに男の俺がそれをやるわけにはいかない。
どこに手を置くべきだ。さくらの後ろの姿を見て……思う。
そしてたまたまか最近フィアナが言っていたことを思い出した。
確かさくらなら許してくれる……だっけ。
俺の両手は自然とさくらの脇腹に走り、ぐにぐにと指を動かした。
「っっ!?」
びくんとさくらが大きく体を震わせた。
髪も大きく動いたためその甘い香りが鼻の中に広がる。
指を動かすとびくんと体が動くため、黒髪の濁流が大きく流れてとても心地良い気分となる。ついうっかり指をぐにぐにと動かしてしまった。さくらは声を出さずびくびくと震える。
そのまま気にせず髪を味わっていると髪がいきなり遠ざかってしまった。
そこでさくらがベンチに横たわってることに気づいた。
指を動かしたまま……おそるおそる上からさくらの顔を見る。
「ふぐぅ……んぐぅ……」
顔を真っ赤にして涙目で沈んでしまっていた。
これはどういう感情だろ。さくらの口がゆっくりと動く。
「……ゆ……ゆび、とめ……て」
「あっ」
さくらの珍しい顔を眺めていて、指を止めるのを忘れてしまっていた。
慌ててさくらの脇腹から手を外し、ゆっくりとさくらを起こす。
「だ、大丈夫か?」
「……」
さくらはこくんと頷いた。
なぜか大きく体力を消耗させてしまったようだ。
さくらが落ち着くまで待っていると……ゆっくりさくらは声を上げた。
「わ、わたしは……脇腹のツボを攻められると力抜けて……動けなくなるんよ」
「え? そんなことがあったのか、すまん」
「……。って何で脇腹なん!?」
さくらの体力が戻ってきたみたいで言葉に力が入る。
「胸は触ったらだめだと思ったんだ。だから脇腹で我慢した。駄目だったか?」
「意味がわからんよ!? わたしの脇腹はフィアナちゃんと違ってぷにぷにやから駄目なんやって」
「そうか? 良い感じの柔らかさだったぞ」
「……」
さくらにギリっと睨まれる。多分いろいろと間違えた。
さくらが腕を組み、俺を見下ろす。
「さぁわたしの脇腹を揉んだ言い訳を聞こうか」
「フィアナがさ。最近、脇腹チャレンジをしかけてくるんだよな」
「脇腹チャレンジ!? ちょっと前に流行ったたわわチャレンジみたいなやつ!?」
「今日こそは耐えてみせますって両手を上げてさ、煽ってくるんだよ」
あーいうことされるとさ……構ってやりたくなるじゃん。両手を上げたときに見えるおへそとか横腹がたまらなくセクシーでついつい揉んでしまう。
ツンツンするとにやけた顔でヘロヘロになるのも可愛らしい。
「どうなったん?」
「だいたい1揉みで即落ちする」
「そうやろ。小指つつくだけで飛び跳ねる敏感肌やで……」
「でもさ。苦手なことをチャレンジするって……立派じゃないか?」
「多分零児くんに構ってほしいだけやと思うよ。……それフィアナちゃん以外にはしてないよね?」
「ああ、フィアナにも私以外にはやっては駄目と言われた。でもさくらだったら多分許してくれるって言ってたからちょうどいいかなって思ったんだ。こういう結果になると思ってなくて」
「……あの子はもう! 明日帰ったら脇の下を徹底的に攻めて泣かせたる」
「でも何でさくらだったら許してくれるってなったんだろうな」
「それは……まぁ……わたしが零児くんのこと……。フィアナちゃんは知ってるから」
「どういうことだ?」
さくらを赤くしてそっぽを向いた。
この件は掘り下げるなってことだろうか。
「レイジくん、こちょこちょ上手すぎやよ。どれだけフィアナちゃんの脇腹揉んでんの。えっち、変態、脇腹マン」
「人聞きの悪いことを……。あんたもそんなに弱いとは思わなかった。動けなくなるとか致命的じゃないか。フィアナの場合は大笑いして暴れる系だし」
「ほんとツボのとこは駄目なんよ。この前もフィアナちゃんをこしょばしてたらカウンターでツボに指入れられて敗北しちゃった」
「負けたのかよ」
この二人毎朝バトってるみたいだしな。しかし同性同士よくやるもんだ。俺は絶対エゼルとやりたくないけどな。男とやりたいなのは殴り合いだけだ。
「フィアナちゃんの笑いはわたしの朝の活力やもん。例え自分がやり返されても……フィアナちゃんを攻め続ける!」
「あんたも結構……フィアナが好きだな」
「そうやよ。じゃあ……もってことは零児くもフィアナちゃんのこと好きなんかな? 恋愛対象として」
「それは」
「ん~~?」
さっきの件もあったし何だか弱みを握られてるような感覚に陥る。
もうエゼルには言ってしまってるし……言うしかないな。
「ああ、好きなんだと思う。正直、フィアナのいない生活なんてもう考えられない」
「そっか……」
さくらはちょっとだけ寂しそうに笑った。
「で、フィアナちゃんの内面はだいぶ好きになれそう?」
「そうだな。テストの時だいぶ世話になったし、本当にありがたかった。ってその話、あんたも知ってるのかよ」
「フィアナちゃんが教えてくれるからね。あ、でもテストの時やったらわたしだっていっぱい勉強教えたもん」
そうだったな。
さくらにもいっぱい教えてもらった。
フィアナとさくら……この2人が中心で今の俺があるんだなって思う。
「そういう意味ではさくらも俺にとっては特別な相手なのかもしれないな」
「ふぇ!? そ、そうなん」
「だからフィアナにとっても俺にとって大事な友達に間違いねーよ」
「友達……。わたしと零児くんは友達、そう友達やもんな」
「さくら?」
「何でも無い。うん! 同じフィアナちゃんを好きなもの同士……仲良くいこっ!」
その好きってのは友情と恋愛で違うんだろうけど応援してくれるのはすごくありがたいなって思う。
さくらには本当に世話になりっぱなしだ。
「仲良くするならぁ」
さくらがじりっと近づいて後ろにまわってくる。何をしてくるかと思ったら……後ろから脇腹あたりをワシワシとされた。
「復讐に零児くんもいっぱい笑って……! ってあれぇ?」
多分笑わされたのが相当悔しかったんだろうな。
悪いが俺にくすぐりは効かない。前、唯一裏をかかれた耳裏も対策はばっちりだ。
「もしかして効かない?」
「さくら」
「ちょ、何で……手を掴むの」
俺が効かないってのフィアナからは聞いてなかったようだな。
俺はさくらを手元に引き寄せる。
「やったらやり返すのが俺のポリシーだ」
「さっきやったやん! ちょっ、まっ! ごめんって」
さくらの両手を片手で掴んで、苦手と言っていた脇腹のツボを指でグリグリと押しつける。
大丈夫だ。ほどほどで許してやる。本当に効くのか試してみたかったのもある。
「っ! んぐっ~~~!」
力が抜けるってのは本当のようで途端に抵抗が弱々しくなった。
さっきも思ったがいい脇腹している。フィアナみたいな余分な肉の無い腹もいいが、適度な脂肪も弾力の一つとなる。
ここ攻めるだけならフィアナより弱いんじゃなかろうか。
力が抜けきって手を押さえる必要もないので、もう片手の方を外す。
するとバランスを崩したさくらはこちらに倒れ込んだので片手でさくらの体を支える。
むにゅっと柔らかいもの手のひらに感触として残った。
なんだこれっと思ったが位置的に完全に胸のあたりだった。
「やばっ!」
慌てて手を外す。胸が触ったことがバレないようにさくらのもう片方の脇腹の弱点をぐりぐりと攻めて忘れさせる。
「むぐっ!」
さくらは新たな刺激にビクンと震えるが、声も出せず震えていた。
手のひらに入るちょうど良いサイズ……。まさかうっかり触ってしまうとは。
もう一回くらい揉んでみたいがそれはさすがにヤバイ。さっきのは不可抗力だし、バレてないはずだ。もうちょっとしっかり脇腹揉んで忘れさせよう。
フィアナも忘れたっぽいし、きっと大丈夫。
「~~~~~っ!」
そのままぐりぐりと指を動かして参ったと言わすまで……。
あ、言えないんだったな。手を放してあげることにした。
「……ハァ……ハァ」
汗だくで息を切らす、さくらをベンチに寝かせる、もしかしてやりすぎたかな。
フィアナの場合は限界が来ると泣いて叫ぶから分かりやすいけどさくらの場合は黙り込むから効いてるかどうかわからないのでついつい長くグリグリやってしまった。
しかし色っぽい。
息が切れ、呼吸するたびに胸が揺れ、服やスカートが乱れて、白い肌が見えてるこの状況。
恥ずかしがり屋のさくらがこんな無防備な恰好をしているのがぐっとくる。
友達なんだけどな。俺とさくらは友達。だけど……こういう姿が魅力的に写ってしまうのはやっぱ彼女を友達以上の存在として特別視してしまっているのかもしれない。
フィアナが好きだってのにバカか俺は。
「れ…零児くん」
息を切らしたのさくらは言う。
「はい」
「ちょ、ちょっと膝かしなさい」
「えっと……」
「じゃなきゃフィアナちゃんに体をまさぐられたって告げ口する」
「はい」
それを言われてはどうにもならず、さくらの体力が戻るまで、膝に乗せて休めさせるハメになってしまった。
さらに頭を撫でろと言われたので……言われるがままその黒髪を撫でる。
……意外に気持ち良さそうな顔をするさくらを見つめながら残る時間も過ごすことになった。
これはある意味弱みを握られてしまったのかもしれん。まぁいいか。
「さくら、気持ちいいか」
「うん」
「そりゃ良かった」
「ねぇ、レイジくん」
「うん?」
「わたしの胸を触った件は……別途お話しような」
「はい」
だめだ……覚えていた。
◇◇◇
「じゃあ、また明日ね」
「ああ、また明日」
結局このまま肌寒く感じる時間になるまでこのままのんびりと過ごすことになった。
言葉少なめのままさくらと分かれて自室に戻り、身支度してベッドに入る。
王族は今日、寮には戻らないって連絡が来ていたので一人でのんびりと眠りにつかないとな。
「なんつーか……。良かったな」
黒髪美少女の魅力に心奪われそうになってしまった。
それでも俺は……。
「うん、なんか……発散したくなってきた」
女の子に触れるとムラムラ来ちゃうんだけど俺だけかなぁ。
ルームメイトもいないし、今日はたっぷり……。
そして翌日。
「レイジさん、起きなさい!」
怒声に思わず飛び起きた。
「うわっなんだ!?」
ベッドから飛び起きるとフィアナのお世話係であるカレンさんが俺の部屋の中にいた。




