063 さくらと2人きり①
カフェテリアへ行くのが面倒だったので寮でカップ麺を食べて風呂も終わらせて外へ出てきた。
男子寮と女子寮の入口近くに広場になっている場所があり、そこにはベンチが置かれちょっとしたスペースとなっていた。
たまに夜、イチャついているカップルを見るので恋愛関係になった生徒達が忍んで会う場所でもあるんだろう。
今日は誰もいなかった。
「うーむ」
夜20時。いつもだったら各々の時間を過ごす頃だ。
エゼルはラノベを読んで過ごし、俺は外に出て夜のトレーニングをして汗を流す。
さすがに明日のこともあるので今日は止めておくが。
もう6月のため半袖でも寒くない時期だ。
サルヴェリアの夏は日本ほど暑くならないらしいが、それでも夏はそこそこ暑いと聞く。
王都からビーチは近いと聞くし、夏休みに日本部のみんなで海へ遊びにいきたい。
……日本部のみんなスタイル良い美女ばかりだからそれ目当てと思われそうだが、実際その通りといえる。
フィアナにクイーン、シェーン。そして。
「ごめん、待った?」
さくらだ。
「今、来たとこだ」
「そっか。じゃあ……えっと座ろっか」
2人、ベンチに腰かけて空を見上げる。
東京を離れれば満天の星空が見える。
そう思っていたけど、王都サルヴェリアもそれなりに明るい都市のため見える星は月以外にそう多くない。
だからこそ月が映えるってのもある。
「月が綺麗だな」
「ほわっ!」
「え、なにその反応」
「一瞬驚いたけど、零児くんの学力を考えると意味を知っていると思えないし……大丈夫」
「わけがわからんことを」
ちょっともじもじしているさくらを見つめる。
支給されている部屋着ではなく、夜でもよく見える色合いのシャツにスカートの組み合わせ。
風呂に入ってきたのか長い黒髪はしっとりしていて、風が吹くたびになびく。
「ふーん、零児くんって女の子の顔を見て、すぐに胸にいくのに……今日はいかないね」
「目線を突き付けるのやめろ。あの側付き女に言われてから結構気にしてんだぞ」
「あはは、男の子も大変だね」
なるべく見ないようにって思うんだがあのドスケベ制服はどうにもいかん。
普段はまだしも、屈んだりすると空いた胸元がより一層強調されてしまうのでどうしても見てしまう。
フィアナとか見てくださいと言わんばかりに強調させてくるもんな。
今のさくらの格好は胸を完全に隠しているため俺の目線も怖くないってところか。
だが……気づいていないのか着衣ですっきり型が見えているのも素晴らしいんだぞ。
このあたりの良さをどこかで語りたい。
「でもあの制服ほんとやべーよな。男子もあんなじゃなくて良かったよ」
「最近思うんよ」
さくらが言葉が力強くなったように思える。
「男子からの視線があるから、身なりに相当気を使うようになったかな。そしたら体重も減って、身が引き締まった感じがする」
「そういう効果もあるのか」
「中学の時はお肌とか髪とか気にしてなかったけど、相当手入れしてるよ。サルヴェリアの女の子ってみんな可愛いしオシャレやん。悪い方にだけは目立ちたくないって思ったの」
「あんたも努力してるんやな」
「ルームメイトが何にも気にせずお菓子バリボリ食べてあのスタイルやからね。あどけない顔でさくらも食べます? って言ってくるけどそれ食べたらわたしのお腹はヤバイことになる!」
「家帰ってもめちゃくちゃ食うからな。運動してないのにどこであのカロリーを消費しているのやら」
「代謝やとしたら大人になったら太るかもしれんなぁ。零児くん、早めに対処しておかないと愛せなくなるで」
何の心配だよ。
だが軽い筋トレくらいはしておいた方がいいのは間違いない。フィアナを何とかして動かすか。
「でも日本部のみんな……って本当可愛くてスタイルええよなぁ。フィアナちゃんは元より、クイーンちゃんもシェーンちゃんもスタイル抜群やし」
「さくらだってスタイルは良い方じゃないのか?」
「うん、日本におる時は友達から羨ましがられたって……男の子に話すことやない!」
「自分で言い出したくせに」
「人種の差やからしゃーないけどね。ま、零児くんは夢を叶えるために大きい方がええもんな」
「夢? 何の話だっけ」
「胸を触るのが零児くんの夢やろ」
ぐっ。確かに夢ではあるがあれは半分冗談込みだったんだ。
それをエゼルが無理やりフィアナを焚きつけたせいでテストの時はとんでもない目にあった。
「零児くんとフィアナちゃんを教室に残してエゼル君と帰った時さ。わたし言ったんよ。胸なんて脂肪の塊やでって」
さくらは続ける。
「そしたらエゼルくんがレイジの夢を汚しちゃだめだ。命をかけてるんだよ! って怒られちゃった。何言ってんのこの人って思ったけど……零児くんにとっては大切な夢だもんね。汚してごめんなさい」
「あんたわざと言ってねぇか」
「ふふふ、どうやろ」
俺がこんないじられキャラになっちまうとは……エゼルの野郎、いつか別口で仕返ししてやる。
始めは2人きりってことで緊張したけどやっぱさくらとは同郷だけあって……気安く話せるな。
会話してるのがすごく楽しい。眠くなるまで……話してもいいかもしれない。
話題はお互いの中学の時の話となった。さくらの中学時代の話、俺の中学時代の話。そして。
「本当はサルヴェリアの行く時に髪をばっさり切ろうかと思ったんよ。ショートにしたいなって」
「もったいねぇ。でもその髪の手入れすげぇ大変だろ。俺は少しでも伸びると邪魔くさくなるし」
「そうなんよ。でも友達からわたしは長い黒髪が一番似合ってるって押し切られちゃって。結局美容院に行きそびれちゃった」
「そしたらサルヴェリア人に大好評だ」
みんなさくらの黒髪に心惹かれてたもんな。あの七光り侯爵坊ちゃんもその中の一人か。
「フィアナにエスティ……王女まで食いついてたもんな」
「知らないと思うけど、クイーンちゃんやシェーンちゃんも顔を埋めてるよ。エゼルくんもお願いされたし」
「え、したのか?」
「さすがに断ったよ。そしたら美少女に生まれ変わる技術を探してまたお願いするって言われたわ」
「あいつ……その頑張りを別のことに出せないのか」
スマホでアニメ見ていて、今死んだらウマが美少女の世界に転生できるかなとか言うくらいだしな。
その内、異世界に行くためにトラックの前に出かねないから目を光らせておかないと。
しかし黒髪は本当に綺麗だよなぁ。
さくらの黒髪は背中の先近くまで伸びていて、夜空の中でもその黒さの魅力はまったく損なわない。
なんつーか。触れたい、顔に埋めたいと思う。
「零児くん、め・せ・ん」
「胸は見てないぞ!」
「知ってるよ! もう」
そうは言いつつ胸を両手で隠そうとするな。
「そ、そんなに……気になるなら髪、触ってみる?」
え、マジ!?




