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058 テストを乗り越えろ!③

 さくら先生の絶望的な言葉に愕然とする。

 全体的に無理なんだよ。王立貴族学院の授業のレベルがめちゃくちゃ高くて、俺はアホでも名前書けば受かる学校に通うほどの学力だぞ。

 やっぱり限界があったんだ。


「よく君はその成績で兄上にイキれたな」

「冷たい! さすがの俺も傷つくぞ!」


「フィアナちゃん、アホな幼馴染は結構ですって言ってええよ」

「そ、それは……」


 さくらもエゼルも厳しい声を上げるが2人は相当に俺の学習に手をつくしてくれた。

 正直、自分の勉強よりも俺の勉強を教える方が長かったくらいだ。


 1日でさじを投げて部室にこなくなったクイーンやシェーンとは違う。


「しかしどうしようか。このままやと本当に零児くん、留年やで」

「ぐ……」


「最後の手段を使おう。レイジ、君は努力家だな」

「ま、努力は嫌いじゃないけど」


「テスト期間全て一夜漬けするくらいの覚悟はあるかな?」

「やれると思う」


「でも一夜付けってあかんやろ。しっかり寝た方が記憶が……って寝たら全部忘れる零児くんに言っても無駄か」


 黒髪美少女の鋭い視線。いつもなら受けてもいい度量があるが、今回は耐えきれないかもしれない。

 エゼルはフィアナを手招きをして耳打ちをした。


「ええ!? それはちょっと!」

「だがもうそれしか方法はないよ。君がレイジを想うのであれば……受け入れるべきだ」


 顔を赤らめ拒否をするフィアナだったがエゼルはごり押しをする。

 いったい何をフィアナにさせるつもりなんだ。


「君達はいずれ結ばれるんだろう? 遅いか早いかの違いだと思うよ」

「そ……そうかもしれませんが」


 エゼルの説得に応じたのかフィアナはゆっくりと近づいてくる。

 いったい何をする気なんだ。

 フィアナは俺の側に近寄った。


「レイジ!」

「あ、ああ……なんだ」

「もし……赤点回避しできたら!」

「できたら?」


 フィアナは目がぐわっと開く。


「私の胸を触らせてあげます」

「あんた何言ってんだ」


「さくらさん、ここは若い二人に任せて……僕達は帰ろうか」


 お見合いみたいなこと言って逃げてんじゃねぇ。

 エゼルのやつ、フィアナに絶対余計なことを言ったな。


「え、でも……」

「じゃあさくらさんも触らしてあげたらどうかな。そしたらレイジももっとやる気を出すかも」

「む、む、無理無理無理! 零児くんがおっぱい星人なの知ってるけど、無理やって!」

「おい、大声でディスるのやめろ! 傷つくんだよ!」


「レイジ、夢を掴むんだ! 僕は君の努力を信じている!」

「おまっ、覚えてろよ!?」


 エゼルとさくらが部室から去っていく。

 あの時エゼルの奴にぶちまけたばかりにこんな事態になってしまうとは……。


「よいしょ」


 フィアナが部室の机、俺の横に来る。


「レイジのためなら……私、覚悟はできてます!」

「いや、いいって! 俺は別に望んでない」


 その時、フィアナが両腕を中に押し込める。

 胸が押し出され、セクシーな制服の胸元が弾けそうになった。


「……」

「見ましたね」

「はい」


 だめだ。自分の性欲からは逃げられん。

 でも……フィアナがここまでしてくれるんだ。

 胸がどうとか関係ない。そのフィアナの心意気が嬉しかった。

 そんなフィアナのために諦めるなんて弱音なんて吐くわけにはいかねえ。


「分かった。最後まで絶対あきらめない。絶対赤点を回避してやる」

「はい! その意気です!」


「明日の教科の試験範囲を全部まる覚えしてやる! 努力家を舐めんなよ!」

「すごい……やる気。レイジが生まれ変わった気がします」


「当たり前だ! 本気を出した俺にできないことはない!」

「そんなにおっぱいを触りたかったんですね……」


 別の意味でやる気出したのに全てをそこに終着させられ、俺はもうどうにもならん気がしてきた。




 ◇◇◇


 人間追い込まれたらできるもの。時間ギリギリまで部室で勉強をする。

 その後は寮の1階の軽食場が24時間灯りがついているのでそこで勉強を続けた。

 朝はここも騒がしくなるので明け方あたりで部室へ移動し勉強を進めた。

 一夜付けでとにかく詰め込む。

 朝6時。一人部室で勉強しているその時だった。


「おはようございます」


いるはずのない人間がそこに現れた。


「フィアナ!? な、なんで……?」

「レイジが頑張ってるんだから……少しでも手助けしたくて」

「でも……今、6時だぞ!? 寝ぼすけのあんたがありえねぇ、偽物か!」

「さくらにも同じこと言われました」


 まさか6時は夜中と言い張るフィアナが俺のために来てくれるなんて……嬉しさで眠気が吹き飛んだ。

 フィアナはカフェテリアでサンドイッチを買ってこちらに来てくれたようだ。

 一緒に朝ご飯を食べて、分からない所フィアナに教えてもらう。


「かなり勉強時間が稼げたとはいえ……やはり厳しいな」

「でも前に比べたらかなり出来ていると思います。あと体力は大丈夫ですか? 一夜漬けはしんどいと聞きますし」

「トレーニングで山ごもりした時に一夜付けは何度か経験してるからな。頭をここまで使ったことはなかったけど」


 勉強も言えば反復練習。

 何度も何度も繰り返せれば頭に入っていくもんだ。

 基礎はさくらがみっちりと教えてくれたからな……。だいぶ頭から抜けてったけど。


「とはいえやっぱ疲れたな。30分くらい休むか。そんで起きたら全部見直しすりゃ……1日は持つだろ」

「じゃあ……ここへ」


 フィアナが部室のソファに腰掛ける。

 いつもの俺なら断ったかもしれないが……疲れと安らぎたいという気持ちに抗えず、フィアナの膝の上に寝転んだ。

 ベッドで眠る以上にそこが一番安らげるって本能的に想ったんだろうな。


 今ならいつもより素直になれそうだ。


「今日のレイジは素直ですね~」

「ああ……マジ、疲れた」

「30分経ったら私が起こしてあげますから」


「……」

「……」


「あのレイジ、何でずっと目を開いてるんですか?」

「何かさ。目を瞑るよりフィアナの顔を見てる方が安らげるっぽい」

「え!?」

「何でだろうな。綺麗だからか」

「~~~~~~~っ!」


 フィアナは顔を紅くして俺から顔を背けてしまった。

 綺麗な顔が見えないじゃないか。


「おーーい」

「ごめんなさい! もう……絶対レイジ変なテンションになってます。お眠りなさい」

 

フィアナに瞼を閉じられ……そのまま落ちた。






◇◇◇


 テスト期間が終了した。

 その全てを一夜付けで凌ぎきった俺は気絶するように眠ったらしい。

 テストが終わった瞬間から記憶がねーだもん。仕方ない・ 


 後日テスト結果がまとめて返されて、それが書かれた紙を持って部室の方へと行く。


 俺を除く部員5人が見守る中、俺はその紙を開いた。


「ひどい点数ねぇ」

「わー、全体35位のボクより低い」


「でも……調査テストの頃に比べたら断然上がってるね」

「うん、零児くんは頑張ったと思うよ」


「レイジおつかれさまです」


 5人の各々の言葉にふぅとため息がつく。

 俺はもう一度テスト結果が書かれた紙を見た。


「ああ……みんなのおかげでギリギリ赤点は回避できたよ」


 ああ、良かった。

 でも数学とか英語はやばかった。あと2点足りなきゃ赤点だったからな。


 ジェシカ先生も結果の紙をくれた時頑張ったねと褒めてくれたよ。

 ちなみに侯爵坊ちゃんもギリギリ赤点回避できたらしい。

 留年すればよかったにといらんお小言もらったがな。


「これにこりたらもっと地道に勉強するんやで」

「次は夏休み前。7月末だから……すぐとも言えるよ」


「もうしばらく勉強したくねーわ」


「しかし、あの絶望的な成績でよく行けたわね」

「ほんとだね~。さじ投げたボクとクイーンちゃんからすればわりと奇跡だと思うよ」


「あのレイジ」


 フィアナがそっと近寄ってくる。


「あの……約束の件なんですけど」

「ん、約束?」

「みんな前では恥ずかしいので……今度の帰宅日にお願いできませんか?」

「え……何の約束だっけ」


 フィアナの口が大きく開き、声が出る瞬間思い出した。


「赤点回避できたら私の胸をもませろって言ったじゃないですかぁぁぁ!!」

「ちょっ!」


 その通りなんだけどさ。

 何でそんな俺を悪みたいな言い方に変えちゃうの。

 触っていいですよって言ったのフィアナの方じゃないか。

 あの時いたさくらとエゼルはいいけど、いなかった奴もいるじゃん。


 そう……。今机を持ち上げて怖い顔をしている公爵令嬢とかさ。


「この……女の敵ぃぃ!!」


 その痛みは勉強の苦しみよりよっぽどマシだったけどな。


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― 新着の感想 ―
[一言]  アホな幼馴染は結構ですって。。。。。。 って、「これで彼氏はゲットじゃー」とか さくらが思ってたら立ち直れない。  でも、なんだか、さくらが不憫で、贔屓しちゃう。 フィアナは共同所有しま…
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