056 テストを乗り越えろ!①
「ヴァルターくん、レイジくん。ちゃんと来てくれてありがとう~!」
ある日の放課後、ホームルームの後に1年1組担任のジェシカ先生から呼び止められ、教室に残るように言われる。
隣にいるのは紫髪のイケメン男子。
「はっ、この僕とクラスの問題児である傲慢な平民を呼ぶなんて、ジェシカ先生分かってますよ。僕を模範にしろって叱ることなんでしょう?」
「いや~少なくと親の栄誉に胡座書いてるあんたを模範にする気はねぇな」
「それだ! 僕は調べたぞ! 日本語の【親の七光り】の意味。余計なことを教えてやがって……さくらさんが僕を見るたびに一瞬笑いをこらえようとするんだぞ!」
「好意のある子を笑顔にできるなんてすごいじゃないか。さすがだな」
「そ、そうかな」
こいつ、マジちょろいな。
素直なお馬鹿さんだから腰巾着がついて甘い汁を吸おうとするのか。
素直なのはいいことだと思うけど。
「あのね。仲良くしてる所が申し訳ないんだけど……」
やりとりを待ってくれたジェシカ先生がオロオロし始まる。
「この前、学力調査テストをやったよね」
来週から始まる王立貴族学院のテスト。
年4回あるらしく、5月下旬に1回目の大きなテストがある。
そして先週、生徒達の学力調査するために本テスト前に同程度の難易度のテストを行うわけだ。
そこで成績の悪かった生徒を呼び出して、お話をするらしい。
つまり。
「1組でね。ヴァルターくんとレイジくんの成績がぶっちぎりで悪いの。多分2年生に上がれないくらい」
そうか……。
いや、正直分かってた。見ない振りをしていた。
この学園の授業は宿題が一切なく、勉強は自主性となっている。
あと授業中に当てられたりすることもないので……今日まで俺は逃げることができたのだ。
王立貴族学院の授業にまったくついていけてない事実に逃げていたのだ。
「ぼ、僕は……この男よりはマシですよね!?」
「うん、ヴァルターくんもかなり悪いけど、レイジくんよりマシかな」
「どやぁ」
「金の肩章してる奴が下から2番目の時点でやばいと思った方がいいと思うぞ」
「うっ!」
侯爵坊ちゃんが先生に詰め寄る。
「2年生に上がれないのはまずい! おい、何とかならないのか」
「え、ええ……」
「こんなこと父上に知れたら……! ぼ、僕は侯爵家の跡取りだぞ! 先生、何とか」
「これは無理だよぉ。進級は公爵家の校長先生が関わってるから……侯爵家の威光じゃ無理じゃないかなぁ」
俺は侯爵坊ちゃんの肩に手を置く。
「まぁ素直に勉強することだな」
「最下位の君が言うか!?」
言うな。現実逃避してるんだ、こっちは。
「それじゃ……来週のテスト頑張ってね。1つでも赤点があると留年確定だからね」
ジェシカ先生の無情な言葉に俺は立ち尽くすしかなかった。
そして即座に俺は部室へ向かい、フィアナを除くメンバーが揃っていたのを確認する。
「あ、零児くん。先生からの呼び出しなんやったん?」
「また問題を起こしたんじゃないの。あなた……よくつっかかるものね」
「まぁまぁ。レイジ、来週からテストになるし僕達日本部はどうしようかって考えていたんだ。フィアナさんが来たら……って」
一刻も猶予がない。
俺はこいつらに頼るため地に足をつけ、手を床に置いた。
もはやプライドなどない。
「すまん、留年しそうなので……勉強教えて下さい」
「写真とっとこ」
側付き女の無情な言葉も頭には入ってこない。
とりあえずみんなの様子を見るために見上げる。
「黒、縞パン……ピンク」
意図せずともその光景を目に焼き付けた。
うーん、これはすごい光景かもしれない。
俺の視線に気づいたクイーンの口が開く。
「あ、あなた……この状況でスカートの中を覗くなんていい度胸ね」
「やん、レイジくんのえっち〜〜」
クイーンは頬を引き攣らせて俺を見下ろす。
これはとてもよくない。恐る恐る桜色を履いていたさくらの方を見ると……。
その瞬間さくらが制服のスカートを押さえる。
「なんでスパッツが乾いてないから履かなかった日に限って覗くん!? わざとなん!」
「ち、ちげーよ!」
顔を紅くして睨まれてしまい、慌ててしまう。
王立貴族学院の制服のスカートの丈は短く、下方向から除けば簡単に中が見える構造になっている。
さすがに現代ではやりすぎなのでスパッツ着用OKらしいが。
「みんなスパッツ履かないのか?」
「ボクはめんどくさいだけだけどねー」
「公爵令嬢たるもの下着を見せずに立ち振る舞うことも重要なの。意識を持たないといけないから」
「そっか。でも……黒の下着は派手すぎないか」
「サルヴェリア男子はわざわざのぞいてくるような下衆はいないから問題ないのよ」
「そうか」
「……。いつまで覗いてるのよ変態!!」
クイーンが足を振り上げ、そのまま俺の顔面に強烈な蹴りを繰り出してくるのであった。
ちなみに蹴られる瞬間までずっと下着を見続けていたのは言うまでもない。




