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055 おっぱいが怖い(エゼル視点)

 僕が用事を終えて部室へ行った時、部員達がみんな沈んだ顔をしていた。


 聞けばレイジをからかいすぎてしまったらしい。

 前後左右で囲んでレイジを戸惑わせていたみたいで、4人の女の子達それぞれ異なった表情を浮かべていた。


 フィアナさんとさくらさんはやはりレイジに好意があるからか落ち込んだ顔をしている。

 シェーンはやりすぎたかなと若干の苦笑い。

 クイーンはこの程度で怒るなんてと苦言を述べていたが、彼女は嫌っている僕以外の子には心優しい。多分心を痛めているに違いない。


「この件は僕が預かるよ。君達は普段通りにしていてくれ」


 レイジは兄のことも含めて、いろいろ手助けしてもらっている。

 兄に恐れ自分の殻に籠もっていた自分に一歩進む手助けをしてくれたのはレイジだ。

 兄に真っ向勝負を挑み、僕でもやれると示してくれたからだ。

 親しい友人もいない僕を推してくれたレイジのために少しでも役に立ちたい。

 

 そんなレイジが心の内を話してくれた。


「おっぱいが怖い」


 うん、何か聞かない方がいい気がしてきたよ。


「レイジ、それじゃ意味が分からない。一から話してくれないかな」

「ああ、そうだな。悪い、俺もちょっと混乱していた」


 レイジはペッドボトルの水を口につけて、一度心を落ち着かせた。


「これは誰にも言わないで欲しい。俺とあんただけ。男同士だけに留めてほしい」

「ああ、もちろんだよ」


 そのために話を聞くんだ。

 異性には言えないこと、誰にだってある。


「俺は……フィアナのことが好きになっちまったようだ」

「……そうか」


 ついに自覚したんだね。

 昨日まではずっとフィアナさんのことを好きではないと言い張っていたけど、ようやく認めたようだ。

 フィアナさんはレイジのことが大好きだし、両想いなのは良いことだ。

 レイジに想いを寄せるさくらさんがかわいそうだが、さくらさんは恐らくその自覚はあるはず。

 負けヒロインという立場になるのかな?

 僕は負けヒロインが頑張る姿が大好きなので応援してあげたい。

 って妄想してる場合じゃなかった。


「明日フィアナさんに告白して、2人は恋人同士になるんだね」

「あ、いやそういうわけじゃないんだ」


 レイジが訂正するように手を振る。


「俺はその……フィアナが好きなんだが、あの……フィアナの全部が好きってわけじゃなくて、フィアナの顔と体だけが好きのようだ」

「ねぇレイジ。結構ひどいこと言っている自覚ある?」

「分かってる! 分かってんだよ! でも、どう考えたって無理なんだ! もしあいつがトロールみたいな顔と体でレイジ好きですなんて言ってきたら、俺は日本に帰るかもしれない」


 表には出せないがその気持ちは分からなくもない。


「この前の土日での自宅でのことだ。フィアナがいきなりスマホを見せてきたんだ」

「うん」

「『今日の占い、レイジの星座は最下位です。でもラッキーアイテムはかわいいものをぎゅっとするです』そしたらあいつ何て言ったと思う?」


 レイジは思い出すようにワンワン震え始めた。


「『かわいい私をぎゅっとしていいですよ』なんて言うんだぞ! 可愛すぎて悶絶したわっ!」

「【先輩を好きにさせるための100の言葉】を参考にしてるのかな。あの漫画尊いよね。あ、もしかして抱きしめちゃった?」

「うっかり両腕を掴んでしまった。言うわりに怯えた顔するフィアナが可愛すぎて萌え死ぬかと思った」


 それは……きついね。

 世界一の美少女、フィアナ・オルグレイス。僕の好みの子ではないけど、やっぱりかわいいとは思うし、好意を抱いているレイジからすれば最高のスパイスといえるだろう。


「顔だけなら何とか耐えられるんだけどあの胸はだめだろ! 触りたく触りたくてたまらん、我慢できん!」

「そ、そうなんだね」

「押しつけてきやがって……俺がどれだけにやつきそうなのを耐えていると思っていいる。夢にまで現れるんだぞ! ムラムラしやがる!」

「だから時々夜中に外のトイレに行くんだね」

「フィアナと出会ってから90%はあいつなんだよ! なんであんな俺の好みの女になっちまったんだ」


 残りの10%はいったい誰だろう。まぁ予想はつくけど。

 でも冗談抜きでレイジはフィアナさんに容姿が好きらしい。


「あんたはあのエロ制服見てムラムラこないのかよ! よく平然としていられるな!」

「まぁ、子供の頃から貴族令嬢はみんなあんな格好だし、社交場のドレスの方が際どいからね。女性は部位というよりは全体を見て綺麗かどうか判断する方が多いのかもしれない。でも正直」


 僕は自室の嫁を見上げた。


「僕は嫁がいるし、正直二次元にしか興味がないんだ」

「そうか。すまない。ほんとすまない」

「何でそんなかわいそうな目で僕を見るんだい?」


 この場合どっちがかわいそうなんだろうね。


「フィアナの奴は内面で好きになってほしいと望んでるから、外面だけで好きになるわけにはいかねぇんだ」


 どういうことか詳しく聞いて見るとフィアナさんの恋愛感はわりと複雑だということが分かった。

 確かにレイジが今、フィアナさんに告白したとしてもフィアナさんの外面を意識しての告白にしかならないだろう。

 フィアナさんがぐいぐいいくたびにレイジはフィアナさんの外面を好きになる悪循環が起こる。


「再会して1ヶ月で内面まで好きになるわけないだろ!」


 思わず好きになってしまうほどのイベントが必要だね。

 誘拐事件でレイジに好意を抱いたさくらさんみたいに……フィアナさんの内面を好きになるイベントが必要だ。


 そんなものはなかなかないと思うけど。


「じゃあ……レイジは告白もせずに我慢し続けるのかい?」

「そうだ。それがお互いにとって一番いい。それで俺がフィアナの顔がトロールになっても好きだと言える日が来たら告白する」

「レイジ、熱でもあるのかい?」


 まともに見えて、レイジはまともじゃないのかもしれない。

 相当鬱憤が溜まっているんだろうなと思う。


 だけど……レイジがここまで思い詰めるようになったのは最近な気がする。

 部活が始まった頃は穏やかだったと思うし。

 フィアナさんがこの間の休みで吹っ切れたのは一つのポイントだと思うけど。


「あと困ってるのが他の女どもだ」

「へ?」

「フィアナだけならまだしも……他の3人も見ているとイライラしてくる!」


 そのイライラってのは頭なのか、股間なのか僕はあえて聞くのをやめた。


「まずクイーン。あいつもイライラする」

「彼女は公爵家の華だからね。頭脳、容姿、立ち振る舞い、全てに秀でいて……理想の女子とも言えるだろう」


「まったく……。

 フィアナに劣るけど、顔も可愛らしいし

 フィアナに劣るけど、胸もでかいし

 フィアナに劣るけど、色気もある」


「それ本人に言ったらすごく怒るから止めた方がいいよ」


「次はあの側付き女!」

「シェーンか。彼女は人をからかうのが好きだからね」

「あの女、俺と目があったら制服の胸元をズラしてきて、レイジくん見てる~~~ってバカにするんだぞ!」

「見なきゃいいんじゃないかな」

「見るだろ! 胸の谷間は見るために存在するだろ!」


 日本人の胸の執着心は創作だけかと思ったけど実際にすごいんだなって思った。

 あのレイジがあれだけ翻弄されるんだ。日本人のおっぱい好きは予想以上だね。


「一番イライラするのはさくらなんだよ!」

「彼女はよく胸元を手で隠しているじゃないか。奥ゆかしい日本人らしさが出ている」

「それは分かる! でもな……隠しているからこそふいに手が胸元から外れた瞬間を見てしまうんだ」


 ああ、隠されると見たくなるってやつだね。気持ちは分かるかもしれない。


「それで見てしまって……さくらがそれに気づいて、ばっと胸元隠して……赤い顔をしてレイジくん、もう……えっち! って言うんだぞ」


 いいね。彼女の言動を想像できてしまうよ。


「あんたのその顔の方がえっちだよ! 意外にスタイルよくて、谷間が良い感じ柔らかそうなのがぐっと来る、早くドレス姿を見てみたいんだよ」

「レイジ……」


 レイジは再びペットボトルの水を飲みほした。

 あの水は酒が入ってるんじゃなかろうか。

 こんなことはとてもじゃないけど女性陣には話せないな。レイジも相当ため込んでいたみたいだし……。


「あいつらほんとマジで俺の股間をいじめやがって……! EDになったら訴えてやるからな!」

「君は男には強いけど、女の子にはとことん弱いね」

「女って何であんた手強いんだ。男よりもよっぽどこえーよ」

「それはね。君が女好きだからだよ」


 多分僕よりも遙かに女の子が好きで性的に見ている。

 性的要求は個人差があるから仕方ないと思うけど。


「そんなに溜まってなら頼み込めばいいんじゃないか。日本の漫画で見たよ。頼み込んで見せてもらったたり、触らせてもらう作品」

「なにを言ってんだよ……。あのなエゼル、おっぱいは夢なんだ」

「え?」

「夢は掴むもの。おっぱいは掴むんなら高い頂きに到達した時じゃなきゃ意味がないんだよ!」

「かっこいいけど、絶対に異性に聞かれては駄目な話だね」


 ちょっと呆れもあったけど、僕も男なので言いたい気持ちは分かる。

 レイジはすっきりしてきたのか完全に落ち着いた。


「あの4人には悪いことをしちまったな。あの程度で爆発してしまうとは情けない」

「特にフィアナさんとさくらさんは落ち込んだよ。明日にはいつもの姿を見せてあげた方がいい」

「そうだな。まぁ……本音をぶちまけられたし、だいぶスッキリした」

「それだったら良かったけど……。本当に大丈夫なのかい?」

「大丈夫だ。こんなこともあったわけだし、しばらくからかってこないだろ」


 シェーンやクイーンは煽らなければ大丈夫だろう。

 フィアナさんとさくらさんについては今まで通りになると思うけど。


「でも……あんたに話せて良かったよ。あんたが男で本当に良かった」

「ふふ、もしかしたら女かもしれないよ」

「おいおい、勘弁してくれ。これ以上女はこりごりだ」


 僕は男装女子が好きなのでそういったシチュエーションは憧れるけどね。



 ◇◇◇



 叫びつかれて一足先に眠ってしまったレイジを部屋に残して、僕は寮の屋上のテラス席へ行く。

 この時期は過ごしやすくて良い。夏になると暑くなるんだよな。


「ん?」


 スマホに着信が入る。

 相手は……ああ、あの子か。


「どうしたんだい? こんな夜更けに」

「今、大丈夫でしょうか?」

「ああ、いいよ」


 澄んだ水面のような声、電話の先の彼女と話せると分かったら学校中の誰もが期待するだろう。

 彼女の前では僕は自分を出せるし、偽らずに言える。


「それでどうしたのかなロザリー」

「はい、お兄様」


 ロザリンド・フィラル・サルヴェリア。

 姫殿下でという言葉で親しまれている。僕の一つ年下の血の繋がった妹だ。


 兄上のアルセスと僕、エゼル。そして妹のロザリーは3兄妹となっている。

 王国の至宝、王国始まって以来、最高の美姫と言われたロザリー。

 中等部の年齢ながら世界で最も美しい女性100選に入っており、上位に名を連ねている。

 まぁ、圧倒的一位がすぐ側にいるから大目立ちはしない。


 フィアナさんが世界で一番人気のある美少女なら。ロザリーはサルヴェリアで一番人気のある美少女と言えるだろう。

 庶子の噂で影のあるフィアナさんに比べて、妹は王族ということもあり一番注目を集めていた。


 僕とロザリーは仲が良い。

 兄上もロザリーを可愛がってるはずなんだけど、圧の強い兄上とは波長が合わず、僕の方によく連絡をかけてくる。


「というわけで……。お父様がそんなこと仰ってました」

「そうか、分かったよ。ありがとう」

「今日は学校でどのようなことをされたのですか?」


 要件を話すとロザリーが学校の様子を知りたいのか聞いてくる。


 ロザリーは王族なので貴族学院の中等部には通わず。宮殿で家庭教師をつけている。学校に憧れを持っているのでよく話してほしいとせがまれるんだ。

 来年はこの学院に入学予定なので兄として手伝ってやらないとな。


「ふふ、そうなのですね。お兄様ったら最近レイジ様のことばかりですね。ロザリーも早くお会いしたいです」

「そうだね。レイジもきっとびっくりすると思うよ」


 今日あったことを差し支えなく妹に伝えることにする。おっぱい話はさすがに話せないけど。

 レイジの学園で働きは宮殿で籠もる妹の楽しみを与えているようだ。


「画像で見る限り、黒髪で凜々しい顔立ちの方でしたね。この前宮殿に来られた時にお会いしたかったです」


 兄が急遽呼んだからそれは仕方ない。


 もしかしてロザリーもレイジのことを好きになったりする可能性はあるんだろうか。聞いてる男の好みに合致しているし。

 それはそれで楽しくなりそうだ。フィアナさんにさくらさんに妹、もっとハチャメチャになればいいなって思う。


「あ、お兄様。昨日、ZOOMでエレスポール地方の私立中学の方々とお話しました!」

「そうか。今はそんなことができるんだね」


 ビデオコミュニケーションツールを使い、地方の学校と映像通信をすることができる。

 ロザリーは宮殿にいながら公務として各学校とコミュニケーションを取ることができるんだ。

 体の弱いロザリーは遠出ができないため本当にありがたいツールだ。


「ZOOMは一人でやるのかい?」

「いえ、エスティに手伝ってもらいました。本当にいろいろ知っていて、ロザリーの大事な親友ですね」

「エスティさんか。えっと……やばいド忘れした。どちらの方だっけ」

「もう! オルグレイス侯爵家ですよ。エスティ・オルグレイス」


 ああ……そうだ、思い出した。

 エスティ・オルグレイス。侯爵家の次女で妹と親しくしている。

 来年この学院に妹と一緒に通うらしい。


 そう……フィアナさんの異母妹で、正当なオルグレイス家の血筋の子だ。

 フィアナさんとの仲はさすがに分からないな。


「あとお話しした中学の生徒会長さんがとっても可愛らしい方で……来年、ケスフェルニスに入学予定なのですよ」

「へえ、平民なのかい?」

「はい。でもお母様が元貴族らしくて……暫定貴族扱いで入学されるようです」

「結構高位な貴族だったんだね」


 ケスフェルエス王立貴族学院に入学の際、平民は基本平民のまま入学するのだが三親等内に高位貴族がいた場合、低位貴族扱いとして入学することができる。

 なぜ平民になってしまっているかは多種多様あるので何ともいえないが孫娘を平民扱いするのは耐えられないという子煩悩な貴族がいるためそんなシステムはあるのだ。


「シャロンさんという方ですけど……ふふ、来年の入学の時にいっぱいお話しようと約束したのです」

「そうか、良かったね」


 それからも妹とたくさんお話をして今日という日を終えたのであった。


 明日も楽しい学校生活を送りたいな


 そう思っていた。

 だけど……日本部始まって最初の危機がすぐ側まで迫っていた。


 僕達日本部の全員が戦慄するのである。


 そう、それは部員の柱でもあるレイジ・シジョウの土下座から始まった。


「すまん、留年しそうなので……勉強教えて下さい」


 これがジャパニーズ土下座。この目で初めて見たよ。


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