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050 あまのじゃくな女の子③

 王立貴族学園は敷地が広く、未だ俺も全てを探索しきってない。

 生徒の人数は日本の高校の半分以下のため余っている教室も結構あるらしい。

 でかく作りすぎてしまったんだろうか。お金が余ってるのかねぇ。


「それでどこまで連れていくんだ」

「もうちょい、もうちょい」


 人の少ない校舎のはしっこを歩いて行く。


 シェーン・プリズマー。

 若草色のショートヘアーの女の子。

 エレスポール公爵家に代々仕えるプリズマー子爵家の令嬢。

 領地は無いようだが公爵家とかなり強い結びつきがあるらしい。


 このあたりは全部昨日の夜にエゼルに聞いた。正直、クイーンよりもこの女の方が気になる。

 可愛らしい顔立ちをしている女と2人きりは意識してしまうものだが、どうにもこの女に対してそういう感情が浮かばない。

 個人的に警戒してしまうんだよな。


 てくてく軽い足取りで歩いているがその足さばきは普通の学生のものじゃない。

 もし俺がこの場でこの子を襲おうものならすぐに反応して向かってくるだろう。


 しねーけど。


「レイジくんはさ、不思議な存在だよね。さくらちゃんと同じ留学生のはずなのに平民扱いされている。ハーフってのがあるのかな」

「どうだろうな。考えたことねーや」

「サロンでは結構話題になってるよ。両殿下にフィアナちゃん、その3人と親しい関係にあるレイジくんの存在が」

「少なくともアルセスは親しくねーぞ」

「エレスポール家以外の公爵家も君のことを調べてるみたいだね」


 カマかけなのか、それとも忠告なのか分からないな。

 俺を調べた所で出てくる情報なんてたかがしれてる。

 国家転覆させるような企みなんてねーし、この世はそんなファンタジーなことができるもんじゃない。

 1人の高校生が出来ることなんて限られてる。


 今度は俺が声をかけてみた。


「なぁ、側付きって実際どんなことをするんだよ」

「んー。多種に渡るけど基本は身の回りサポートだね。クイーンちゃんは何でもできるから手軽だねぇ。ボクの方がサポートされてるくらいだよ~」


「あんな精神構造でか?」

「クイーンちゃんは素直じゃない点を除けばほぼ完璧な子だよ。ポンコツ感は拭えないけど」

「あんたは他の腰巾着に比べて上の奴らにも気安いよな」

「相手を選んでるだけだよ。クイーンちゃんもエゼル殿下もそんなことで怒らないからね」


 なるほどな。侯爵坊ちゃんとかプライド高そうだし、爵位とか気にしてそうだ。

 日本では先輩後輩の上下関係が厳しいけど、この国ではどっちかというと爵位の上下関係の方が厳しい感がある。

 これが国が違うことのギャップなのかも。


 シェーンの足が止まった。


「ここは……」


 そこは緑の畳が目立つ道場だった。

 空手もしくは柔道などで使われる場所か。


「数年前まで部活があったみたいだけど……今は部員がいなくてそのままの状態になってるみたい」

「へぇ……。そのわりに綺麗だな」

「この学院はお金をかけてるからね、業者に大掃除させてるみたいだよ」


 マジか。中学の時は生徒が大掃除をしていたのに……。

 でもここが貴族学院なら当たり前か。その大掃除費用も学費やその他から出ているんだろう。


「そんでこんな所で呼び出してどうするつもりだ?」

「本当に大したことじゃないよ。君がどういう人間なのか見定めてみたい」


シェーンは距離を取り、身構えた。


「つまり、腕試しでもしたいのか? 一応言っておくが俺は強いぞ」

「分かるよ。多分本気でやったらボクが負けるね」

「見立てでいい線はいくと思うが、今の状況化だと負ける気はしない」

「ふーん、さすが最強の傭兵、マキト・シジョウの息子だね」


 ここで親父名を出されるとは……。

 俺の親父、四条槙人は傭兵業をしている。その腕っぷしと指導能力を買われ、団を率いて世界中を飛び回っている。


「ところでレイジくんはお父さんの後を継がないの?」

「継ぐどころか傭兵業は時代遅れだから俺で終わらせる。おまえは普通に勉強して就職しろってよ。戦闘の才能だけ受け継がせておきながら勝手なもんだ」

「そっちもかぁ」


 シェーンも笑う。


「プリズマー家もそうなんだ。影からエレスポール公爵家を支えていてね、汚い手も結構使ったって親から聞いてる。でも……今の時代は必要されてなくてね。クイーンちゃんは優しくて有能だから側においてくれてるけど、それしか知らないプリズマー家は没落寸前なんだよ」


 この世がファンタジーの世界であればこの才も使い道があったんだろうけど、銃一発で死ぬ世の中だ。

 力じゃなくて頭が良くなきゃお貴族様も生きていけないんだろうな。


「ボクもクイーンちゃんを守れってことでいっぱい訓練したんだけどね~。最近は護衛よりも子爵令嬢らしくして上位貴族の嫁になれーって今更だよ」


「俺にそれを何とかしろなんて言わないよな」

「そんなこと言わないよ~。子供の頃から主を守るために鍛えてきたのに時代にそぐわないからいらないって寂しいじゃん。プリズマー家って王族の守護職に任命された時代もあったんだよ」


 お互い才能はありながら時代が合わずに燻ってしまっている系か。

 シェーンは靴を脱いで、道場の真ん中に足を運ぶ。


「さっきも言った通り、手合わせお願いできないかな。この学園でボクより強い貴族は多分いないと思う。だから腕試しをしてみたかったんだ」


 シェーンの目的は力試し。

 同年代相手に自分の実力を測りたくなった。そんな所か。

 面白い。俺もサルヴェリア人がどれだけやれるのか……見たくなった。


「ボクが勝ったら一つ言うこと聞いてもらおっかなぁ」

「サルヴェリア人って罰ゲーム好きだな。じゃあ俺が勝ったら」

「分かった。ボクのことむちゃくちゃにしていいよ。初めてで怖いから優しくしてね……」

「しねーよ」


 道場の中央で距離を置き、間合いを測る。

 シェーンは女でさらに小柄だ。力任せな攻撃はしてこないだろう。

 あるとすれば何か武器を使うに違いない。


 シェーンは俺の側まで走り込み、飛び跳ねた。

 ふわりと学院制服の際どいスカートが揺れて、中の下着が露出する。


「……し、縞パン」

「隙ありだよ」


 手に持つのはスタンガン。

 ばちっと音がして、振りかぶる。

 当てさえすればいいその攻撃をギリギリの所で回避する。


「惜しいなぁ」

「あんたわざと飛び跳ねただろ」


「もう~レイジくんのえっちぃ。ボクのパンツ見られちゃったぁ」

「スパッツ履けよ!」

「対人戦だとスパッツ履かない方が気を引けるからね。大丈夫。見えてもいいの履いてるし」


 面倒なことを……。男ゆえに女の下着にはどうやったって目がいってしまう。


 武器はやっぱスタンガンか。

 ちょっとファンタジーチックな武器を使うことを期待したけど、そりゃ利便性の良い武器を使うわな。

 シェーンはもう片方に手を制服のポケットに入れる。


「えい」


 シェーンは銃のようなものを取り出し、何か撃ってきた。


「あぶねっ!」


 俺は引き金と射出方向さえ分かればだいたい避けられる。

 突然の射撃攻撃にも動じない。


「あれ避けるんだ」


 飛んできたのは針のようなものだった。


「テーザー銃かよ。学生のくせに何を持ってるんだよ」

「主を守るためには仕方ないからね~」


 スタンガンにテーザー銃って電気の申し子かよ。

 日本じゃ間違いなく銃刀法とかで捕まると思う。

 この国……そして公爵令嬢の護衛だから所持を許されてるのかもしれない。


「今度はこっちからいくぜ」


 シェーンの動きはさっきので分かった。

 この手合わせはさっさと終わらせよう。


 一歩進み、シェーンの体に向けて手を伸ばす。

 腕試しとはいえ打撃を与えて傷をつけるのは気持ちの良い勝利とは言わない。

 相手の逃げ場を全部を塞いで拘束する。

 それが本当の勝利というものだろう。


 シェーンは身軽だが、動きは読みやすい。

 訓練はしているようだが実戦経験は少ないみたいだな。


 ……それは俺も同じか。

 だから俺は世界最強にはなれない。


「むっ……」


 掴まれたら負けと分かっているのかシェーンもステップを踏んで俺の掴みを避ける。

 隙をついて、スタンガンを押しつけてくるが動きを読んでいるので当たるはずもない。

 そのままスタンガンを持つ手を掴んで、足をかけて、一本背負いでシェーンの体を担いで道場の床にたたき落とした。


「いたっ!」


 そのまま手と足でシェーンの体を押さえつける。


「俺の勝ちのようだな」

「……ま、勝てるとは思ってなかったけど強いねぇ」

「あんたも悪くねぇ。俺が相手なのが悪い」


 シェーンは強かった。

 さすがそういった戦いに長けたサルヴェリアの貴族なだけはある。

 プリズマー子爵家か……。大人で強いやつがいるなら手合わせしてみてぇな。


「ねぇレイジくん」

「あんだよ」

「この状態でもまだボクが勝てる見込みはあると思う?」

「ないな。この押さえ込みは大人でも解くことはできねぇ。俺が相当に油断しない限り、あんたが勝つことはない」

「じゃあさ」


 シェーンのスタンガンの持っていない手が俺の腕に掴む。

 何をしようとしているのか。ここからの逆転の手がどんなものか興味があったのでそのままシェーンの動きをじっと見ていた。

 掴まれた俺の腕を動かされ、俺の手のひらが。


 シェーンの胸をむにゅっと鷲づかみする。


「にゃぁん」


 その手に感じる柔らかな弾力に……俺の思考は吹き飛んだ。


「隙あり~。タマタマキック」

「ぐほっ!」


 思考が吹き飛んだことにより、対応が遅れシェーンの蹴りが俺の股間を直撃する。

 その男ならではの強烈な痛みにさすがの俺もうつ伏せで悶絶する。


 その痛みに耐えつつもゆっくりと見上げると……立ち上がったシェーンが笑った顔でスタンガンを俺に向けていた。


「こ、これは俺の負けだな」


 バチッと電撃を喰らう最中、体勢的に可憐な女の子の下着を覗きながら敗北するのも悪くない。

 そう思った……。縞パンって良い。



 ◇◇◇


「おまっとんでもねーことしてくるな」

「スタンガンを受けて30秒で復活ってレイジくん、どんな体力してるの」


 シェーンから呆れた顔をされる。

 残念ながら柔な鍛え方はしていない。

 車に轢かれても軽傷で済むんだ。当然だ。


「ボクのおっぱいどうだった。柔らかかった?」

「うるせぇ」

「フィアナちゃんやクイーンちゃんほどじゃないけど……ボクも胸はある方だからね」


 シェーンは胸を張る。確かにコイツ、制服から見える胸の谷間がくっきり見えるくらいにはあるんだよな。

 あの手の感触が未だ忘れられない。

 制服と下着越しではあったが確かな柔らかみがあったのだ。

 小柄なくせに意外に胸がある。欧米系の女だからスタイルいいんだろう……。


「レイジくんって部室にいる時にみんなの胸ばっか見てるからもしかして好きなのかなって思ったんだ」

「おいやめろ」


 違うんだよ! 全てはこの貴族学院の制服が悪い。

 こんな胸の谷間を露出する服を四六時中着てたら見てしまうだろ! これは仕方ないんだ。


「いいデータが取れたね~。レイジくんは戦闘能力は突出してるけど、ハニートラップに凄く弱い」

「くっそぉぉぉ……」


 ここに来て女慣れしてない所をつかれるとは……。

 だが不思議と悔しい想いをしないのは胸揉んだり、パンツ見せてもらったりしたからだろうか。


「変なこと考えてない? 股間膨らんでるよ」

「うるせぇな! 言わなくていいんだよ!」


 この女、やっぱり油断できねぇ……。

 シェーンは小悪魔っぱい笑みを浮かべた。


「レイジくんへの罰ゲームは別の時にお願いしよっかなぁ」

「性格悪いな……あんた」

「にししし。クイーンちゃん共々、宜しくネ!」


 やっぱり女ってこえーわ。

 心から思った。


 その日の部活が終わりを告げる。

 クイーンとシェーンは一足先に帰り、初期メンバーだけが学内に残る。


 部活が終わった途端雰囲気を出し始めた女がいた。


「ねぇレイジ。今日は自宅に帰る日です。……私がたっぷりご奉仕しますので楽しみにしてくださいね」


 フィアナが艶めかしく笑う。そんな姿も可愛らしく正直ドキドキする。


 今日は金曜日であるが帰るのは寮ではなく、自宅に帰る日である。

 学校というかこの国の文化で月初の金曜は家族とのんびり暮らすために自宅へ帰ることを推奨されている。

 もちろん家庭の事情で戻れない生徒もいるので申請式で土日も寮で暮らすことはできる。


 ドスの聞いた低い声で世界一の美少女は語る。

 そのオーラに冷や汗をかいてただ頷くしかない。


「さて……僕はもう帰ろうかな! 来週も頼むよ!」

「わ、わたしも今日は寄るとこあるし一人で帰るかな!」


 エゼルとさくらはそそくさと帰っていく。

 きっかけを作って場をかき回した元凶のくせになんてやつらだ。


「よし、俺も帰るか。たまには一人で」

「レイジ」

「……」

「一緒に住んでいるのに一人で帰る必要はないですよね」

「ですよね」


 圧倒的な迫力、この俺が逆らってはいけないと感じてしまうほどの強者。

 世界一は伊達じゃない。



【後書き】


ただレイジとフィアナがイチャイチャするお話。

明日は7時、12時、20時の3話投稿します。

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― 新着の感想 ―
[一言] レイジも年頃の男子だったかぁ(笑)。 第50部分達成おめでとうございます。 これからも楽しいお話を待っています。 くれぐれもお身体にはお気を付けて。
2022/01/21 15:13 退会済み
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