039 強さの証明④(フィアナ視点)
そのまま顔をひょこりと突き出し、レイジはまるで助けに来るのが当たり前のような顔で微笑んだ。
「レイジ!」
「このクソガキ!」
助手席の男が零児に銃を向ける。
この距離なら絶対当たってしまう。
男は引き金を引く。
「だめぇ!」
私は叫んだ。でも無常な発射音がする。
でもレイジは体を反ることで射撃を回避した。
「おい、跳弾して二人に当たったらどうするつもりだ」
「こいつ……避けやがった」
「知らないのか。 銃口の向きと引き金の指の動きに集中していれば弾は避けられるらしいぞ」
レイジは左手で助手席の男の銃を掴む。
指を引き金に引っかかるように入れて次の発射を防いだ。
そのまま右手で助手席の男の額にコツンと拳を当てる。
「んごっ!」
男は気を失い、倒れてしまった。
「ウソだろ!?」
「おい、前を向いて運転しないと事故るぞ」
「や、やべぇ!」
前方がカーブとなっておりこの速度だと間違いなく曲がりきれない。
だけど不思議と怖くなかった。
「フィアナ」
「……はい」
レイジがゆっくりと私の体を抱えてくれる。
思い出すなぁ。5才の時もこうやってトラウマで怖がる私を抱きしめて守ってくれたっけ。
そんな彼の姿に恐怖をまったく感じない。
「さくら大丈夫か」
「あ……あ……」
さくらはまだ恐怖で混乱をしている。
無理もない、こんな状況に陥ることはほとんどなかったはずだ。
レイジはゆっくりとさくらを抱き寄せ、彼女の後頭部をポンポンと触れる。
「怖かったか? でももう大丈夫だ。あんたは俺が助ける。俺を信じてくれ」
「……うん」
日本語で語られた言葉は理解できなかったが、レイジはゆっくりさくらの体を抱えた。
「2人とも行くぞ」
レイジが私とさくら2人まとめて抱えあげて、車の上に手をかけて、外へ飛び上がる。
一度車の屋根に着地する。
「2人とも飛び降りるから黙ってろ。舌を噛むぞ」
ただの高校生とは思えないその驚異的な身体能力。
幼い頃、こんな誘拐とは比べものにならないほどの危機に陥った私を救い出してくれたレイジのお父さんのマッキーと姿が被る。
世界最強の傭兵であるマッキーの息子であるレイジだからできる芸当なんだと思う。
この前のスポーツテストで見せてくれた力もその片鱗の一部だ。
子供の頃言ってたもんね。絶対に強くなるって。
マッキーよりも強くなって私を守ってくれると昔、話してたよね。
今のあなたがあの時と同じように私を助けてくれること、それがたまらなく嬉しい。
地面に降り立つ直前に少し私とさくらを浮かせて、着地の衝撃を殺した。
そのままゆっくりと私達を地面に下ろした。
「錠を外す、じっとしてろ」
レイジは鉄の鎖を引きちぎり、私とさくらを離した。
「2人ともケガはないか」
「はい、大丈っ!? レイジ、車が!」
私達を誘拐した車がギリギリの所でブレーキで停止する。
そこで止まったままなら良かったのにバックして、転回して突っ込んできたのだ。
パトカーのサイレンの音を聞いて運転手の男が動転しているのかも。
「俺の前に出るなよ」
レイジは構えを取り、突っ込んで来る車に拳を向ける。
「れ、零児くん!」
「大丈夫」
さくらの声に私は声を出す。
「レイジは世界一強いんです」
「はぁっ!」
レイジは飛び上がり、車の直進を避け、そのままかかと落としで車のボンネットを破壊。
返す足でフロントガラスに強い衝撃を与えた。
フロントガラスに大きな傷がつき、車は停止する。
わずかに見えるガラス面からエアバックが作動し、レイジの蹴りの衝撃で運転手は気絶していた。
レイジは地面に着地し、傷一つなく私達に近づく。
「2人とも無事か?」
「はい、さくらも私も無事です」
「そうか……良かった」
レイジはさくらの方を見る。
「すまないな。まさかここまでのことになるとは……予想外だった」
「……あ……」
「怖い目に合わせてごめんな。もう大丈夫だ」
「……ぐすっ……」
さくらは涙を流してへたりと座り込んだままだった。
「よく頑張ったな。フィアナの側にいてくれてありがとう」
「……うん、フィアナちゃんが励ましてくれたから頑張れた」
涙ながらか細く出すさくらの声にレイジはポンとさくらの黒髪を撫でる。
その後、レイジは私の方に近づいてくれた。
「遅くなってすまなかった。……よく頑張ったな」
ありがとう。
遅いです!
強かった!
さすが私の幼馴染ですね!
そんな言葉よりも早く、私はレイジに抱きついていた。
「おいおい……」
そんな言葉を投げつつもレイジは私をしっかり抱きしめて、頭を撫でてくれる。
本当に優しくてかっこいい。
……愛しい気持ちがたくさん胸にこみ上がってくる。
「俺はさ」
レイジは突然言葉を投げかける。
「あんたと別れて10年経って、闇雲にトレーニングして、ついた力の使い所に悩んでた頃、親父からサルヴェリア行きを言われたんだ」
力強く抱いたまま、レイジは私を見てくれる。
芯の強い黒の瞳でまっすぐ見てくれた。
「始めは断ったんだよ。でも……親父がフィアナを守れるのは俺しかいないって。……それで思い出したんだ」
断るなんてひどい! でも10年ですもんね……。レイジにだっていろいろなことがあったんだってよく分かります。
「俺は今こうやってフィアナを守るために強くなったんだって。昔さ、5才の頃、めっちゃくちゃ強くなってあんたを守ってやるって約束したよな。正直、今の今まで忘れてたけど……」
レイジはくすりと笑う。
「でもあんたの世界一に比べたらちっぽけでまだまだ弱いんだよな」
そんなことないです。こんなにも強くなって……助けにきてくれたじゃないですか。
この前のスポーツテストであっと言う間に1年の知名度を勝ち取りましたし。
「まだまだ弱い俺だけど……少なくとも高校3年間、フィアナの側にずっと俺はいる」
レイジは私の手を掴む。力強くて温かて……でも優しく握ってくれた。
「俺が必ずフィアナを守る」




