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021 貴族学院での現実②

「なんかよくわかんねー奴が遮ってきたけど、まぁ1年間宜しく頼むわ。」


 全員が呆然とした顔で俺を見ている。先生ですら……止まったままだ。

 この国ではあまりに理解できない行動だったのかもしれない。日本でもなかなかこういうことはしないけど。


 正直、無言じゃ困るし、お話しようか。

 一番近くにいる礼な生意気な声を上げた生徒に声をかける。


「あんたさっき何か戯言を言ってたよな。あんまよく聞こえなかったからもう一回言ってくれねぇかな」

「ぴくっ」


 カチンと来たような表情の変化が見てとれた。

 紫髪のイケメン貴族の表情が歪む。

 俺は今、両腕を組み、教壇の上から貴族様を見下ろしている。

 教壇って段差があるから無条件で見下ろせるんだよな。

 当たり前だが相当に煽っていた。


「調子に乗っては困るなぁ……平民」


 その貴族が前に出てきた。それと同時に後ろの席の男性生徒も立ち上がる。


「ヴァルターさん、こいつですよ。俺達の邪魔をしたのは!」

「黒髪の子をエスコートをしようとしていたのに横やりを入れたんです」

「あの子をサロンに連れてきてヴァルターさんを喜ばせてあげたかったのに!」


 紫髪の男子生徒の後ろから急に湧き出してきた男達。

 どこかで見たと思ったが、思い出した。入学式の後にさくらに絡んでいた奴らか。

 俺のことを随分と悪いように言っているが複数人で一人の女の子を取り囲んで相当怖がらせていたと思うが……。


「そうか。彼女との出会いの場を邪魔したのは君というわけか」


 紫髪の貴族生徒が前に出てきた。


「生意気だよ、おまえ。僕にひれ伏せ」

「そもそもあんた誰だよ。記憶にねーんだけど」

「さっき自己紹介しただろ!?」


 紫髪の男が大げさに手を出して対抗してみせる。

 あ、その声で思い出した


「もしかしてエゼルとフィアナの間に話してた奴か! あんまりにも長くてつまんない話だったから記憶から消えてたわ」

「なぁっ!?」


 このクラス的には王族のエゼルが一番。二番はこの男。三番目が侯爵令嬢のフィアナだ。

 とにかく自己紹介に10分以上使っていて眠気で意識とんでたわ。


「くっ、僕の名はヴァルター・ヘルヴェート。ヘルヴェート侯爵家の長男にしてアルセス派筆頭の貴族である。君のような平民とは本来口を利く爵位ではないんだが、君の失礼な振る舞いに遺憾の意を示したい。平民が堂々と貴族と話をするんじゃない、そんなこと分からないのか!」


 俺は頭をポリポリとかく。


「でもさ。このクラスで最も偉いエゼル王子は貴族、平民問わず仲良くやりたいって言ってたのに侯爵家ごときのあんたがそんな足並み揃えない発言していいのかよ?」

「侯爵家ごとき!? 貴様、不敬にもほどがある」

「知らねぇよ。正直どうでもいいし」


 ざわざわと教室内が騒いでいる。

 平民が貴族に物申すってのはそんなに不思議なものなんかねぇ。

 まぁ……この国の常識には疎いから仕方ない。


 ふと視線を外せばフィアナとさくらが並んで心配そうな顔をしている。

 二人に影響はないと思うがしゃーない。……穏便にすますか。

 俺は優しい性格をしているからな。 


「すまん。あんたがどれくらい偉いのか教えてくれ。本当に偉いなら俺も相応の態度を取るし、ひれ伏してもいい」

「い、いいだろう! 君にこの僕がいかに偉い存在であるか教えてやる」

「おう、教えてくれ」


 腕を組んでふんぞり返って仁王立ちしてみる。


「それは聞く態度か!?」

「うるせぇな早くしろよ」


「ぐぅ、僕の父、ヘルヴェート侯爵は国王陛下に深く信頼されており、王国の王都のカスケード区を任されている」

「ほうほう」

「以前のカスケード区は王都サルヴェリアの中でも人口の流失が大きく、治安も悪く荒れ果ていた。しかし父上が治めるようになってから抜本的な改革が 功を奏し、カスケード区は生まれ変わったのだ。幸福度は何と王都の全区でトップスリーに入るまでに成長、今や他の侯爵貴族から相談を受けるほどの大きな地区へとのし上がった」

「おお!」


「国王陛下から勲章を賜り、これだけの成果を頂いたのは侯爵家の中でも父上だけ! さぁ平民、跪くがいい!」

「へぇ……すげぇな。相当、頑張ったんだろうな。一人では無理だからたくさんの人を指揮して導いて、地道な努力があったに違いない。あんたの父親は尊敬できる人ってのは間違いないな」


「ふふん、そうだろう」


 自慢気に笑う侯爵坊ちゃん。腰巾着どももうんうんと頷いている。

 言葉だけでは伝わらないが実際すごいんだろうな。王都サルヴェリアのカスケード区って日本のニュースでやってるの見たことあるし。

 確実な成果を上げてるのは間違いない。


「で?」

「え」


「あんたのお父上が凄いのは分かったがあんたの何がすごいんだ?」

「聞いてないのか? 僕は偉大なヘルヴェート家の長男で、父は!」

「だから、俺が聞きたいのはあんたの成果だよ。もしかしてパパの成果は自分の成果とか言っちゃうタイプ? パパは偉いがその成果にあんたは別に関係ないだろ。手伝ったわけじゃなさそうだし」


「んぐっ!?」


 図星を突いてしまったのか言葉は止まる。


「侯爵家の長男様が何も成果がないわけないだろ。俺が跪いてしまうようなすっげー栄誉を教えてくれよ。なぁ!」


「……っ」


 侯爵坊ちゃんの目が泳ぐ。これだけ堂々と平民差別をするんだ。よっぽど凄い実績があるんだろうよ。せっかくなので後ろでハラハラしている腰巾着にも聞いて見る。


「あんた達もこの男のすごい所を一つずつ挙げてやれよ。この男に仕えてるんだろ」


 ヴァルターの腰巾着どもは完全に黙り込んでしまった。

 多分無いんだろうな。目立った実績がないからお父様の栄光を自分の手柄にしてしまう。

 お家柄が良い以外に何の取り柄もない。


 それはただの親の七光りだよ。


「ヴァ、ヴァルター様に逆らって親がどうなってもいいのか!」


 腰巾着の一人が絞り出すように声を出す。


「怖っ! あれ、もしかして侯爵坊ちゃんってパパにおねだりして自分に刃向かうやつを退けんの? 侯爵家の長男ってちっせーのな」

「ぐっ、おまえ! 余計なことを言うなァ!」

「す、すみません!」


 実際、親のスネかじりまくる高校生なんて山ほどいるだろうがそれを表に出すことは相当にかっこ悪いことだ。

 侯爵坊ちゃんにもメンツはある。他の貴族を代表して喋ってる手前……姑息な手は堂々と仕えまい。


 そして焦っているのか侯爵坊ちゃんの口が非常に悪い。

 もしかしたら予想以上に小物なのかもしれない。 


 エゼルやフィアナには感じる人としての器、この男にはそれがまったく感じられない。

 侯爵家の威光だけで生きてきた薄っぺらい人生観が見えていたんだ。

 平民差別なんかに走らなければ……、俺を敵に回さなければこんな目に合わなかったのにな。


「悪いけど何か成し遂げたら声をかけてくれ。偉大な侯爵家の跡取りさん?」

「ぐぅぅぅうううう! 貴様ぁぁぁ、僕をバカにしやがってえぇぇ!」


「ヴァルターさん落ち着いて下さい!」

「さ、さすがに学内で暴力はまずいです!」


 今にも飛びかかってきそうな将来の侯爵様に鼻で笑ってしまう。

 腰巾着ともが坊ちゃんを必死に宥めていた。

 ま、飛びかかられた所で俺をどうこうできるはずもない。


 侯爵坊ちゃんの目が呆然と立ち尽くしている先生に向く。


「おい、担任! この男を警備兵に突き出せえええ!」

「ええええ!」


 後ろで丸まっていたジェシカ先生が涙声を上げる。


「僕を侮辱したこの男をどうにかしろ!」


 もうなりふり構ってられないなこの男は……。


「早くし」

「ヴァルター、落ちつくんだ!」


 暴走する侯爵坊ちゃんに大きな声を上げたのはエゼルだった。


「エゼル殿下……。そうだあなたがいた。この平民は僕達貴族をバカにした! さぁ殿下……あなたの手でこの男に制裁を!」


 俺とエゼル。

 目線が合う。


 ……ここでエゼルがどのような言葉を話すかでいろいろと状況が変わってくる。

 エゼルは一呼吸を置いた。


「レイジの言動はともかく、最初に手を出したのはヴァルター……君だろう。サルヴェリア貴族であるならばやり返される覚悟を持って発言をするべきだ」


「……え」


 侯爵坊ちゃんは期待した言葉でないことに愕然とした表情を浮かべる。

 追い打ちをかけるのも面白いが……俺は優しい男だからそんなことはしない。


「一応言い訳をしとくけど別に貴族をバカにしたわけじゃないんだ。あんたのお父上は本当に立派だと思うし、すげぇと思う」


 そしてもう一言。


「立派なお父上みたいになれるようにまぁがんばれよ」

「ぐぅっ!」


 侯爵坊ちゃんが親の敵みたいな目で俺を見てくる。


「レイジ、煽りすぎだ」

「さーせん」

「っ! ふざけるなぁぁあああ!」


 また侯爵坊ちゃんが怒り始めた。なぜだ俺はこんなにも友好的だというのに。


「ヴァルター、落ち着くんだ」

「エゼル殿下ぁぁ、あなたはこの平民の味方をするのか! そんなんだから第一王子(アルセス)様に遠く及ばないんですよ! この燃えカス王子が!」

「―――っ」


 エゼルの顔が俯く。

 第一王子と第二王子。まだ出会って間もないから詳しくは知らないが……貴族中では大きなことなのかもしれない。

 そうとはいえ、侯爵ごときが王族にそんなこと言っていいのかよ。

 標的が俺からエゼルに移りそうだったので方針を変えることにした。


 しゃーねぇ、煽った責任として強制的に黙らせるか。


 そう思った……その時だった。


「騒がしいな」

「あぁん!? ひっ!」


 頭に血が昇っていた侯爵坊ちゃんが振り返った途端、血の気が引いたように静まってしまった。

 野次馬のように見ていた他の生徒達の顔つきも変わる。


 突然教室の扉が開いて一人の男が入ってきた。


 エゼルかと思ったが、エゼル本人が言っていた赤髪に付けられている銀飾りはその男の髪にはない。

 ……ゴールドの肩章の中に王家の象徴を制つけているその男は。


「余はアルセス・フィラル・サルヴェリア。1組の民よ。余を称えるがよい」


 このタイミングで来るなんて狙ってやがるのか。

 そしてさっそく気にくわねー行動をしやがる。 


 第一王子はフィアナを見ていた。


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