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※カミュン視点

助けた以上は、責任が伴う。

最初は、行きずりだったとしてもだ。

それ以上も以下もない。

ギルドの依頼であれば、報酬は金で払われて契約を果たせばそこでおさらばだけど、今回は違う。


泥人形どもに襲われる彼女を連れて、クロスノスの待つ隠れ家に帰った。


時間が止まらなかったり、馬の筋力を上げる魔法効果を倍増させてくれたり、よくわからない女性。


妙に低姿勢なのが気になるが、それよりも手当が先だ。

結界に入れば追手が振り切れるし、具合悪そうだからな、彼女。


クロスノスのやつ、この女性が俺の彼女か何かかとからかいやがった。

ふざけんな、こいつ。

俺と付き合いが長いからこそ言える冗談なのだろうが、俺は、家に女を連れ込んだりしない。

ましてや、部屋に入れるとか・・・。


・・・て、え?

俺の寝台を使わせろ?

マジかお前。


嫌がってたら、彼女が床に寝かせろと言う。

・・・だめだ。

そんなことできねぇよ。


しゃあない、貸してやらぁ。

貸すだけだからな!


部屋に運んで寝台に寝かせたら、クロスノスのやつ、寝巻きまで貸せという。


恋人じゃねーんだぞ!

大体、男物・・・。

はぁ、しょうがねぇ。

いざって時は何度も洗濯すりゃあいいな。

出血してるみたいだし、治療が先だ。


俺もずぶ濡れだ。

風邪ひかねぇように隣で着替えてたら、またクロスノスが呼びやがる。


なんだよ、お前の薬でさっさと治せばいいだけだろ。


気を遣ってなるべく目を逸らしながら、部屋に入ると、クロスノスが真剣な声で独り言をぶつぶつ言っている。


「あぁ、これは痛いでしょう。

これは、何年にもわたって同じ傷を負わされてきてますね。

傷が深いので、皮膚が変色して周りの筋肉組織まで変形している。

私の飲み薬や傷薬だけでは、完全に治癒できません。

光の御手がないと。

あ、カミュンこちらへ。」


ようやくクロスノスが振り向いて、俺に傷を見るように手招きする。

昔から集中すると、周りが見えなくなるやつだからな。

しかし、治療とはいえ肌を晒した女性を無遠慮に見るのは気が引ける。


「でも、クロスノス。

彼女は・・・。」


「大丈夫ですよ。

ちゃんとあなたの貸したタオルで、肌を隠してますから。

それに今は眠っています。」


と、言われて近づく。


・・・ごめんな。

男にじろじろ見られんの嫌だろうに。

お、確かにタオルでちゃんと隠してるみたいだな。


傷というと・・・。

なんだよ!これ!!


「光の御手の治療をしてください。

彼女の傷は根本から治さないと、表面だけ治療しても意味がない。」


クロスノスの言葉に、俺はその背中の傷を凝視する。

鞭で打たれた傷だが、棘のようなものが食い込んだ痕がある。

その上雷撃を喰らった後のように、皮膚の上をはしるミミズ腫れの痕が皮膚を裂いて変色させていた。

さらにその周りには、びっしりと古代語で書かれた絶対服従の文字が何重にも刻まれている。

これは・・・この鞭は・・・!!


「『服従の魔樹』の鞭の痕!?」


「えぇ。

凶暴な魔物や動物を、服従させるときに使う『服従の魔樹』の鞭。

通常は、一撃加えれば十分服従させることができる。

それだけ威力の大きなものなのに、これは男性の力で何度も打ち据えられている。

死んでいてもおかしくない傷なのに、彼女はどうやら人狼のようです。

奇跡的な回復力で、もっていたのでしょう。」


「この傷は、初めてじゃないな・・・。」


俺は口の中が乾いていくのを感じていた。

こんなに深くて酷い傷を・・・。


こいつ、痛みも我慢してたんだな。

痛いならそう言えばいいのに。


いや、奴隷は泣いて騒げば暴力がより酷くなることを身をもって知っている。


だから我慢する癖がついているんだな。


「見てください。

これは何年にもわたって、日常的に鞭を打たれています。

皮膚の変色がひどいのが証拠です。

それに首の後ろに、焼印まである。」


クロスノスが彼女の髪をかき分けると、痛々しい焼印が現れた。


無意識に主人に怯え逆らえなくなる、非道の印。


くそ・・・!

人狼だからなのか?


「闇の商人が、人間以外の種族の子供を攫う時に使う、服従の焼印、『イドレチ』か。」


「えぇ、これがある限り、無意識に主人をひどく恐れて逆らえなくなる。

カミュン、私は光の精霊の力は使えません。

お願いします。」


「わかった。俺がやる。」


待ってろよ、今楽にしてやるからな。

こんなもの、跡形もなく消してやる。


俺はクロスノスと場所を代わると、彼女の背中に手をかざして、目を閉じる。


「光の精霊よ。

その御手によって傷を癒やし、血、肉、骨、皮、あるべき姿に戻したまえ。

ユチェラ・セ・ピュアラ。」


詠唱が終わると、俺の手元が光り輝いて、彼女の背中の傷が次第に消えていった。


「イドレチも解呪しときますか。」


クロスノスが俺を見ながら、顎をしゃくる。


「そうだな。

隷属の精霊よ・・・。

この者、誰も所有せず。

この者、何者も主となるなかれ。

速やかに解き放て。

ダム・リー・フリージュ。」


俺が詠唱を終えて、彼女の首の後ろにある焼印に触れると、脆く崩れて焼印は跡形もなくなった。


「お見事。」


「プルッポムリンを呼べよ。

俺の寝巻きを着せてやれ。

こいつの服は俺が洗って・・・。

!!

おい、なんだよこれ!」


「どうしました?

そんなに怒って。」


「見ろよ!

羽織の下の服がこんなに裂けてやがる。

こいつ、主人に乱暴されてるんじゃないのか!?

おまけに、これは子供服に布を継いで作った服じゃねぇか。」


「彼女は奴隷と言ってましたからね。

・・・カミュン、悲しいことですがありきたりといえば、ありきたりのことですよ。」


「ふざけんな!

こいつが何をした?

人狼だから・・・獣だから、何をしてもいいとでも!?」


「落ち着いてください。

確認が先です。

プルッポムリンを呼びましょう。

彼女に乱暴の痕があれば、相手に相応の報いを受けさせるんです。

いいですね、カミュン。」


こめかみに青筋を浮かべる俺を、クロスノスは静かな声で宥めて俺たちは部屋を出た。


そしてすぐにクロスノスは、世話好きで押しかけ女房の妖精プルッポムリンを呼び出す。


彼女は、クロスノスにぞっこんで、奴の『研究こそ恋人』と言う方針にもめげずにそばにいる稀有な性格の持ち主だ。


俺が恋人なら、辛くてたまらんだろうな。


件のプルッポムリンはすぐに来て、彼女の体を確認してくれる。

数分で部屋の外で待つ俺たちに、彼女は乱暴されていないと教えてくれた。


俺はほっとして部屋の中に入ると、プルッポムリンは彼女に寝巻きをきちんと着せていて、寝台を整えた上で寝かせている。


仕事が早くて力持ち。

いい伴侶だぜ、クロスノス。


俺の寝台で眠る彼女の顔を覗き込むと、穏やかな寝息を立てている。


辛い環境にいたな。

よく耐えられたものだ。

俺ならとっくに逃げ出してるか、世を儚んだかもしれない。


年頃とは思えない汚れと、身体中からひどい臭いもするが、それは彼女の過ごしてきた日々を言葉よりも雄弁に語っている。


俺もかつてガキの頃は、このくらい酷い臭いだったよな・・・。

クロスノスがいなかったら、俺はのたれ死んでいただろう。


俺は彼女の頭をそっと撫でて、


「ここは安全だ。

誰にも手出しさせないからな。」


と、呟いた。

















〜次話、ノアム視点に切り替わります。

秘書テルシャに付き纏っていたら、女性物の洋服屋で、主人公の服を買いに来ていたカミュンたちと遭遇するエピソードです。〜

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