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エピソード 02

ラ・テルス魔法研究所の搬入口は、建物の裏にある。


私は一旦自分の部屋に戻ると、破れた服の上から羽織を羽織って、裂けた服を誤魔化した。

この一枚を洗濯しながら、使ってるの。

ムチで打たれた傷も、手当てしてる暇はないわ。

急いで靴磨きの道具箱を持ち上げると、搬入口へ向かった。


道すがら研究所のあちこちで、様々な魔法が開発されている様子が見える。


昔、人間は魔法を使うことはできなかったんだって。

でも、恐ろしい怪物との戦いがあって、人間も参戦しなくてはいけなくなったから、他の世界の種族から教えてもらったらしいの。


それ以来研究されて、魔導士がいなくても、魔法陣を特殊なインクで書き込んだ専用の呪符があれば、誰でも魔法を使えるようになったんだと聞いてる。


・・・呪符を買えばね。

つまり、お金はかかるの。


ノアム理事長は、いくらでも魔法は作り出せると豪語してる。


恐ろしい魔法も沢山実験するから、近くの土地は荒れ果てて生き物が住めなくなってるわ。


それでも、研究を立ち止まらせるのは愚の骨頂で、荒れた土地は知ったことかと言うのがノアム理事長の口癖。


本当にそうなの・・・?


考えながら廊下を走る私に、研究所員は冷たい眼差しを向ける。


「あれが人狼の奴隷なの?」


「近寄るな、いつ噛みつかれるかわからない。」


「そういえば、聞いたか?

あいつの髪の毛を、悪戯で少し切った奴がいたそうだが、あっという間に髪が元の長さまで伸びたそうだ。」


「あぁ、たしかそいつ、その毛を持ったまま呪符を使ったら、ただの微風の魔法が突風になったそうだ。

毛は消えてなくなったから、また欲しいとさ。

人狼の体にそんな効果あったか?

解剖すべきかもな。」


「ふざけて呪符を間違えたんじゃない?

それに、あの人狼は理事長の靴磨き専門よ。

理事長は靴に関して異常な潔癖症なんだから。

下手に実験や解剖に使ったら、追い出されるわよ。」


なんて、勝手なこと言ってる。

ちゃんと薬飲んでるし、ここに来てから満月の夜にだって変身したことないのに。


それに、人を噛んだことなんかない。


髪の毛だって、偶然のはずよ。


私は目を合わせないようにして、裏の搬入口へ向かった。


搬入口につくと、移動の魔法で先に着いていたノアム理事長から、


「遅い!

このグーズ!」


と、叱られた。


「すみません。」


と、私が頭を下げていると、搬入口がゆっくりと開いていく。


外が見えて、雨が降り出しているのがわかった。


その雨の中を、幌を被った大きな荷物が、ガラガラと荷運び用の台車の車輪を回しながら入ってきた。


荷物を押してきたのは、黒いフードを被った男。


「よく来ーた。

闇の商人ゴルボス。

これは頼んでいた例のものーか?」


と、ノアム理事長は嬉しそうに男に話しかけた。


ゴルボス!!

その名前に背筋が凍ってくる。


男はフードをとると、頷いてお愛想を言ってから私の方を見た。


「ふふふ、リタ。

久しぶりだ。

お前も、もう18歳になるな。

ノアム理事長様に、可愛がってもらっているか?」


そう言って近づいてくる。

私は思わず後ろに下がった。

壁に背が当たってそれ以上、下がれなくなる。

この人は、10年前に私を捕まえて、ここに売り飛ばした張本人。


「人狼の18歳は、もう月の力を借りなくても任意に変身ができる。

お前の毛皮はさぞかし高く売れるだろうな。」


「ひっ・・・!!」


背を縮める私に、ゴルボスは無遠慮に手を伸ばしてきて、髪の毛に触れる。


「素晴らしい。

汚れているが、この毛色は漆黒と見た。

ノアム理事長、こいつを手放す時はまた連絡をください。」


と、ゴルボスが言った。


やだ、やだやだ!!

気持ち悪い!!


必死に頭を振っていると、


「リタ、遊んでいないで、これを運ーべ。

ゴルボス、リタは薬で変身を抑えていーる。

換毛期に毛を落とされては困るかーら。」


と、ノアム理事長が言って、ゴルボスにお金の入った袋を渡そうと目の前に持ち上げた。

ゴルボスは私の髪から手を離して、袋を受け取る。


その隙に私は素早くその場を離れ、台車を押し始めた。

ムチで打たれた傷が疼くが、気にしていられない。


あれ?重いと思っていたこの荷物は意外と軽い。

中身は、なんだろう。

そ、それより、早く行こう!!


じっと見るゴルボスの視線から逃れたくて、急いで運搬用の昇降機へと向かった。


ゴルボスに触られたところが、気持ち悪くてたまらない。


泣くとぶたれるから、悲しい時は下唇を口の中に巻き込んで、上の歯で噛んで耐えるようにしている。


ボタンを押して開くのを待つ。

早く・・・早く!

背中にゴルボスの視線が刺さるの!

怖いの!


ようやく扉を開いた地下へ降りる運搬用の昇降機に、荷物を台車ごと押し込んで乗り込むと、下へ降りるボタンを押した。


扉が閉まると、ホッとした。

瞬きした途端に大きな涙の雫が、目から溢れて落ちていく。

思わず嗚咽まで漏れた。


いけない・・・すぐに止めないと!

そう思っていた時だ。


「悲しいのね。」


突然、幌のかかった荷物の中から声がした。



読んでくださってありがとうございました。

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