表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

カメラゼロ 

これは、とある人から聞いた物語。


その語り部と内容に関する、記録の一篇。


あなたも共にこの場へ居合わせて、耳を傾けているかのように読んでくださったら、幸いである。

 聞いたかい? つぶらやくん。うちの学校でもいよいよ来年度、ライブ放送を本格的に、導入するって話。

 朝礼で、わざわざ校庭や体育館に足を運ばなくてよくなる。運動会や学校行事も、リアルタイムで家にいながら観ることができる。お手紙、お知らせのたぐいも電子掲示板の形で、配信する形にしていくんだってさ。

 いまの校長先生、ハイテクなものに目がなさそうだからね。これらのことが、将来どのような形で役に立つことやら。

 

 技術の進歩ってすごいね〜。ひと昔前はビデオカメラってだけで、とんでもない発明だと思っていたよ、僕は。

 ビデオカメラは1980年にできたって話だから、まだ半世紀も歴史を積んでいない。それでもいまや、どのような形であれ、カメラを使ったことがない、という人はかなり少なくなっているんじゃなかろうか。

 大勢の人に引っ張りだこなのは、作者冥利に尽きることだとは思う。だが作られる側に関しては、どうなのだろうか?

 これは僕のおじさんから聞いた話なんだけど、耳に入れてみないかい?

 

 

 僕が生まれる前、おじさんは個人でコンビニを経営していたことがあったみたい。チェーン化していない、本当に単独の看板を掲げてね。とある大学の近くに腰を据えて、学生たちにとどまらない地元の人たちの需要に応えんとしていたとか。

 コンビニの武器は手作りお弁当。おじさん自身、若いころから料理が得意だったし、仕出しのサービスも行ったりして、あっちゃこっちゃに車を飛ばして届けにいった。

 それでも金銭的には厳しいことがほとんど。店舗は借りていたから、その分のお金をベースにもろもろの費用がかさむから、一日で家賃分前後は稼げないと、実質赤字計算だ。


 更に悪いことに、大学の敷地内に全国規模でチェーン店を持つ、有名なコンビニが出店する運びとなる。ベースとなる技術、商品開発の質で追い上げられ、おじさんのもの以外にもあった個人経営のコンビニは次々と閉店へ追い込まれた。

 おじさんは、大手に先駆けたイートインスペース導入など、新たな需要を生み出すための工夫を凝らすものの、ある時になって、ふと疑惑が頭をよぎった。


 万引きの疑惑だ。

 イートインスペース確保のため、雑誌売り場をなくし、店のレイアウトも換えたことでちょっと気が付いたんだ。

 おじさんは仕入れの量に関して把握しているが、買ってもらったものに対し、無くなっている量が合致していないときがある。破損や期限切れで処分したものを差っ引いてもだ。

 おじさんも始終、目を光らせられているわけじゃない。でも、野放しにしておいたら、更に被害を受ける恐れもある。


 そしておじさんは、とうとう監視カメラの導入を決めたらしい。

 維持費は重くのしかかり、いまの売り上げでは、ちかぢか店をたたむことになるだろう算段。それでも防止の役に立てばと、設置を行ったんだ。

 死角をおさえて置かれたカメラに、犯人も警戒を強めたらしい。ほどなく、万引きと思しき、数値の不一致はなくなった。おじさん自身も、時間を見つけては何度もモニターをチェックし、不審な動きをする客を確かめていったそうなんだ。

 おじさんのコンビニは朝7時から夜11時までの営業。しかし監視カメラは、都合で店を閉めなくてはいけない日をのぞき、ずっと稼働しっぱなしだったとか。



 万引きが鳴りを潜めて一年が過ぎた。

 その間、おじさんと監視カメラは共に、350日前後は働いていたらしい。VHSのビデオテープは、バックの棚にぎっしり並んでいる。店が稼働していた日の記録はすべてここに収まっていた。

 そして鏡開きの翌日。休みをもらったおじさんは、この溜め込んだVHSを一日かけて崩すことにしたんだ。

 もちろん、すべてを見ることは時間的にできない。早送りをしつつ、自分が席を外さざるを得なかった時間を重点的におさえていった。そのうちの7割は異常なしで済んだのだけど、残りの3割におかしなものが映り込んでいるんだ。

 

 これが何も映らなくなるのであれば、物理的、電波的な妨害など、あれこれ予想はついた。

 けれども、途中で不意に切り替わってしまうビデオ映像が写したのは、真っ黒い背景を飛ぶイナゴらしきものの大群だったんだ。

 ゆるりと時計回りにアングルを動かしながら、イナゴたちの先頭を右から左へ横切るようにして、画面に入りきらない列の一部を、数十秒に渡って映し出す。

 しかも映像が動いている途中、カメラへイナゴがぶつかる様子は一切見られなかったんだ。

 当時のおじさんは、カメラそのものについて、詳しい知識は持っていない。ラジオみたいにどこかから混線したのかと、当時のテレビ番組欄を漁ったりもしてみたが、それらしい映画の放送などは行われてはいなかった。

 

「疲れたかな」と、おじさんは目と目の間を手で押さえる。

 すでに時刻は夜の10時を回っている。朝の8時から画面を見直し、すでに14時間は経過している。食事もトイレも何分もかけず、ひたすら画面とテープの入った棚を行ったり来たりしていた。


 外に出たおじさんの顔を、1月中旬の冷たい風がなでていく。

 目の前の国道は、もはや車通りがまばら。その向こう側に広がる公園の影も、ところどころに立つ照明柱の明かりがサークルとなって、限られた区域を明かすのみ。そのスポットに入り込んでくるのは、人はおろか犬も猫も、虫もいない。

 おじさんが空を見上げると、実家にいた数年前よりも星が見えなくなっている。実家に比べて都会よりの立地で、若干明かりが多いことにくわえ、自分の視力が落ちているのは確かだった。

 

 ――目が悪くなったなら、緑色か、遠くを見ればよくなる。その相手が星であるなら、なおさらよくなる。

 

 小さい頃から、親にいわれてきたこと。もちろん、続けないと効果は期待できないそうだけど、近くを見すぎて目が疲れると、おじさんは決まって星を眺めていた。

 わずかに確認できる星たちで、どうにか星座を結ぼうとするおじさんは、ふと思った。

 遠くを見ることが、目を休めることにつながる。もしそれが、人以外にも適用されるのなら、と。

 

 

 おじさんの想像は当たった。

 1月末、件の大学の界隈を、謎の窓割れ事件が襲い、一部の建物で大規模に窓が破損。更には内側をおおいに荒らされたうえに、窓とは反対側の壁にも無数の穴。密度によっては、人が余裕で通り抜けられる大きなものまで、空いてしまっている。

 一晩で嵐のように過ぎ去ったこの現象は、おじさんのコンビニも被害に遭っていた。窓、陳列した商品、奥の壁に至るまでさんざんに打ち砕かれ、経営にとどめを刺された形になる。

 このとき、すでに店は閉店していて、おじさんも急な用でその場にいなかったそうだけど、稼働していた防犯カメラは捉えている。

 ものの数秒だったが、道路に面する窓側から、一気に「川」のようなものが流れとなって突っ込んできていた。

 窓を割り、棚を倒し、おさまっていたものを蹴散らして、とどめに飲料が入ったリーチインショーケースを大規模かつ、派手に貫いていった。その裏の壁さえも壊し、「川」はそこから抜け出て、瞬く間に姿を消していたそうだ。

 

 その映像、ゆっくり回したところ「川」を構成するのが、数えきれない羽虫の集まりだというのが分かった。

 すでにかのテープは再生できなくなっているらしいけど、あれはカメラにときどき映り込んだ、イナゴらしきものの大群じゃないかと、おじさんは思っている。

 近場を見張りすぎた監視カメラが、ふと目を休めるために、ここではないはるか遠くへ目を向けたのだろう、とね。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ