免許を取っただけなのに
男は背中を見て育つ。
犯罪者感2割増しだなぁ…
青背景の前で見せるいつもより切れ長な目をした僕に軽くため息をつく。
何はともあれ僕、カミクは、いや、僕、カミクも今日から免許持ちだ。
思えば免許を取るまで長かったな…
周りの友達は18、遅くても19で免許を取り、
僕は学生だからって甘えて気づけば20歳を超え顎の長さも20cmを超えた。
これからは散々免許なしイジリしてきた奴らの前を免許片手に堂々とした顔して肩で風切って歩いてやるのさ。
学生生活も残りわずか。
このちょっと意味わからない音響やらなんやらの専門学校を卒業したら夢の音響マンになって可愛くて顎の短い彼女作って車でいろんな場所に出かけるんだ。
「仕事が…ない…?!」
急展開で僕は今日からニートだ。
片道1時間以上かけて数年通ったのは何だったんだ。
そもそも音響関係とかの専門学校って何だったんだ。
ただでさえ仕事なさそうなのに他人と関わるのが障害レベルで下手くそな僕が面接なんか受かるわけあるか。
ちくしょう。
「お前、仕事ないんだろ?父さんのとこくるけ?」
親父はしがない警備会社の下っ端社員。
警備会社か…
描いてた職業との差が凄まじいがニートよりはマシだ。
「僕…警備員になる…!絶対ぇ誰にも負けねぇ警備員になる…!文句あるか!船長!!」
なーんちゃって。
いざ働いてみると充実したもので、友達らに「明日仕事だから」とか「僕警備員」とか言うのが愉快痛快でたまらない。ついつい僕仕事してるぜ自慢したくなってしまう。
車も彼女もないけど、まぁこのまま人の運転で楽に仕事に通って性欲は愛用のテンガで鎮めるってのも悪くないかな。
「お前、車買え。金は出さんけど60万までな。金は出さんけど上限設定しとくぞ。金は出さんけど。」
な…。なに…!?
我が父ながら急なこと言いやがる。しかも何だ?!
金出すわけでもないのに何故上限設定?!
何の上限!?何で金出すわけでもないのにそんな偉そう!?
怖い…!怖い…!
「明日契約しに行くぞ。」
怖いー!!せめて金出せー!!
どんなとこに父の威厳見せてんの!?
「お前これで車買えよ(300万ポンッ)」じゃないの?!父の威厳ってそうじゃないの!?
「お前60万で車買えよ(金出さんけど)」
何それ!何で態度だけ威厳見せんの!?
息子に車買えよとか命令できる俺ってかっこいいだろーじゃないんだよ!
「買…買うよ…。」
くそぅ…。
次の日
『おい。早くしろよカミクー。』
『カミクまだー?』
「ごめんごめん。
車契約しに行ってた。」