【第1話】上級騎士昇格試合
ドォンッ!ガツンッ!
俺、クリス・コバーンは銀色の甲冑、フリューテッド・アーマーを身に纏い、両手で持ったロングソードを振り回し怒涛の攻撃をしかけている。相手はカイトシールドを構えて防戦一方だ。そのガードごと吹き飛ばしてやるぜ。しかし分かっているぜ。反撃のチャンスを狙っている。カウンターを狙っている。ここはあえて隙を見せてやる。俺が狙うのはカウンターのカウンター、ボクシングで言うところのクリスクロスってやつだぜ!
俺は少しだけ大振りでロングソードを振り下ろした。来た!やつのカウンターだ。大振りで少し流れた俺の胴体めがけて、相手はレイピアで突きを放った。お見通しってやつだぜ、ご馳走様!俺はロングソードを切り上げて相手のレイピアを弾き飛ばした。がら空きになった相手の胴体にロングソードで重い一撃を叩き込むと、相手はたまらず吹き飛ばされて天を仰いだ。
「とどめだ!チェックメイト!」
振り下ろした俺のロングソードが相手の喉元に達しようとしたその時、俺の手元はピタリと止まった。
「吹き飛べ!フォース・インパクト!」
相手はスペルを唱えると俺は後方に大きく吹き飛ばされた。相手が手をかざすとレイピアが浮遊しながら相手の手中に戻っていく。
「グハァッ……くそっ、魔法剣士だったか……」
俺は壁に激突して吐血した。朦朧とする意識をかろうじて繋ぎとめて起き上がろうとすると、俺の喉元に彼のレイピアが突き付けられた。ここは太陽の王国アルティナ。その決闘場、上級騎士昇格試験、敗北。
「勝てるとは思わなかったよ。君の剣技に敬意を表する。君はまだ若い。これからが楽しみだ」
倒れている俺に手を差し伸べる相手の名前は、アントニー・ローレンス。彼は今日から、上級騎士だ。
決闘場を後にした俺は、カイトシールドとロングソードを背負って華やかににぎわう街中を歩いていた。商店街を歩いていると果物屋があった。
「腹減ったなー。酒場までのつなぎに何かつまんでおくか。空きっ腹に酒は体に悪いって言うからよー」
「ヘイヘイ、そこの兄ちゃん。いろんな果実売ってるよー。毒に効く苔から、火傷に強くなる果実、さあさ買っとくれ」
「おいおい。苔は果実じゃあねーだろうよ。普通ので良いんだ。そこの林檎を一つおくれよ」
「細かいことは気にしないのー。そのうち欲しくなるよー。はいそれじゃ!毎度ありー!」
いったいどこに生えた苔を売っているんだ。カビの間違いじゃねーのかよ。この林檎も大丈夫かね、まあいいか。俺が林檎をかじろうとしたとき、背後から青く淡い泡のようなものがふわふわと飛んでいってはじけた。
「ネエネエ、コッチミテヨ!」
泡ははじけるとそこから声がした。
「何者だ!」
慌てて背後を、そして周囲を見渡した。誰もいない?物音もしなかった。なんなんだよまったくと、嘆息まじりに林檎をかじろうとするが……無いっ!
「やあ、クリス・コバーン」
背後から声がした。振り向くが……居ない。林檎だ!林檎が宙に浮いている!シャリッと林檎がかじられると、じわじわと人影があらわになった。透明化していた体が見えるようになっていき、両足首についていた青い輪っかも消えていった。コツコツと足音も聞こえるようになった。
「お前は……アントニー」
「今日は試合ありがとう。君に興味が湧いてね。後をついてきたんだ」
なんて趣味してやがるんだよと思いながら俺は尋ねた。
「この太陽の王国になんで魔法剣士がいるんだい?アントニー、君はどこの生まれなんだい?」
「月明りの国さ……。まあまあ、話は酒でも飲みながらで、どうだい?」
「酒かー……。悪くないな!むしろ、良い!」
俺はニコッと笑って答えた。俺もアントニーに、興味が湧いてきたのさ。なぜなら俺は……魔法や奇跡が使えないからだ。