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七話 ローラ、お菓子作りに励む

 泥棒騒動後、今度はリンが仕事に追われている。

 王子といってもお飾りではない。結構多忙なのだ。

 どこかの国での集まりに、今晩向かわなくてはいけないらしい。

 それなのに、仕事が多すぎてすでにぐったりモード。

 明らかに顔色も悪いし、ため息も目立つ。

 かわいそうなので、あたしはお菓子を作ってあげることにした。

 あんまり作ったことないけれど……甘いものは人を元気にするから。

 よしっ、がんばろうっ。


「ふんふんふん」

「何歌ってるの? ローラ」


 そこに現れたのは……


「ミン様」

「お兄ちゃんは呼び捨てなんだから、ボクもミンって呼んでよ」


 ぷっくりと膨れるミンは、小悪魔っぽくてすごくかわいい。


「……そうだね。ミン。お菓子を作ろうと思って。場所借りれる?」

「どうぞ。ボクにも頂戴ね」

「はーい」


 さぁて。無難に食べやすいマフィンにでもしようかなぁ。

 チョコレートチップを入れれば、甘さも増すだろう。

 可愛くラッピングしてさ。メッセージでもチョコで書いて。

 うん、いいアイデアだ。

 

***


 じっくりとオーブンを見つめているとマフィンがいい色に焼きあがった。


「焼けた!」


 うん、見た目はいい感じ。おいしそうなにおいもする。

 やったね、大成功っ。これでリンは元気になるはず……。

 ルンルン気分でリンの部屋にむかうあたし。

 可愛い包み紙もいい感じ。


「リン、焼けましたよっっと」

「お菓子か」

「はいっ、チョコチップマフィンです」

「ふむ……ありがたい、いただこう」

「わーい」

「がんばれと、チョコで書いてある。嬉しいな」

「えへへ」


 あたしはきらきらした目でリンが食べるのを見つめた。

 これで少しは恩返しできただろうか……?

 わくわくした様子でリンを見るあたし。

 しかし、リンの顔はどんどん青くなっていった。

 そして、口元を抑えて……。駆け出した。


「すまない……っ、お手洗いに行ってくるっ」

「えっ」


 もしかして、失敗作だった?

 リンが体調を崩すほどに!?

 ガーン。ショック。

 そう思って材料を改めてみた。

 チョコチップだと思っていたら、それはとある丸薬だった。

 見た目は茶色いし丸いけれど……なんか、においがちょっと違う?

 薬のような、変なにおい。

 なので、材料の入っていた紙袋を見てみると……。


「……超疲労回復薬?」


 においからして明らかにすごく苦くてまずそう。

 それを見つめてると……召使の一人が寄ってきて言った。


「ああ、これは劇薬並みに効果のある、すごくまずくて苦いお薬ですね。副作用はないですし、まあ、飲むのは皆さん嫌がりますが飲み合わせとかも問題ないですし、大丈夫ですよ。リン王子トイレに駆け込んだのも、きっと味の問題ですね」

「なるほど」

「リン王子は激務なのに、お薬を飲まないんですよねぇ……ですから、飲んでいただいてよかったです」

「え、まずいものを食べさせて責められたりしないんですか?」

「それは絶対ないです。むしろ感謝ですよ」

「はあ……」


 なら、よかったにはよかったのか。


「大丈夫でしょ。リン王子は頑丈ですから」

「ほぉ……そうなんですね」

「きっと感謝してくださりますよ、リン王子も」


 うーん、別に感謝してほしいわけじゃないんだけれどなぁ。

 でも、無事でよかったとは思う。

 元気になってくれるなら、なおさら。

 しばらくして、リンが元気な顔で部屋に戻ってきた。

 少しは顔を赤らめて……おずおずとやってきた。

 トイレに走ってったことが恥ずかしいのだろうけれど。


「大丈夫、リン」

「なんだか気分が爽快で、疲れが取れた……」

「これ、実は体にいいお薬だったみたい」

「ほぉ……そうなのか……だからこんなにも元気になったのか。それをこっそり飲ませるとか……ありがたい。さすがローラ、俺のことを想ってる」


 いや、偶然なんですけどね?

 そう思ったとき、部屋に召使の一人が飛んできた。

 顔が青白い。


「リン王子! 行く予定だった国への道が雪崩と山賊で大変なことになったそうです!」

「は!? 本当か?」

「向かっていたらきっと、身動きが取れなくなっていたでしょうね……」

「さすが、ローラがそばにいるだけはあるな、俺は」


 そう言って、リンはあたしをそっと近くに引き寄せる。

 ああ、いい香りがする……。ミンと同じ香りのようで、どこか大人びた感じ……。


「え、あたし? あたしはっ」

「幸運の聖女、というか……な」

「いやいやいやいや」


 あたしにそのあだ名はちょっと、重いです!

 釣り合わないですっ。

 けれどまあ、嬉しそうな顔をしているから、いいかな……。

 あたしはホッとしてため息をつくと、リンが嬉しそうな顔をした。


「では、仕事をしてくる。やる気がすごい出てきてな……疲れがまったくなくなったんだ。なあに。心配するな。戻してはない。ただ、めまいがしただけだ」


 実際はどうかは置いといて、まあそういう事にしておこう。


「よかった」

「本当に優しいな、ローラは」

「そ、そんなことは」


 ほめられたことなんかしてないし……。

 なのに、リンはあたしを撫でてくれた。

 うれしくて、顔がほころぶ。


「こういうのは素直に喜んでおけ」

「あ、ありがとう。リン……」

「じゃあ、また後で」

「うん」


 顔色もいい感じで、リンはあたしから離れていった。

 なので、あたしはお庭に出ることにした。

 許可をもらい、庭にあるお花に水をやってみる。

 なんとなく踊るようにくるくると水を撒く。

 すると、なぜかその花壇が光ってきた。


「!?」


 そして現れたのは貴族にしか見えない人々たち……。


「……何が起こったの!?」

「ああああああ、助かった。山の中で飢え死にするところだった」

「え? もしかして、例の話し合いに向かってた方々ですか」

「そうだ。そしたらそこのあなたが魔法陣で転送してくれて……」

「へ? 魔法陣? ……もしかして魔法陣って水で描いたこのくるくる?」

「たぶんそうですね! 魔力がなくても、複雑すぎて描きにくいけど効果が出るらしいですから」

「なるほど……」

「ローラ! 今のは何だ」

「リン!」

「!? リン王子!? ってことはここは……ティープ国」

「我が国だ。お前達はどこの国の……ああ、集まりに行こうとしてた隣と、隣の隣の国の王子か」


 うわああ、他国のすごいやんごとない方……。

 そんな人を召喚しちゃったの?

 やばくない!?

 青ざめてるとリンがあたしを抱きしめた。


「ありがとう、ローラ。彼らを助けてくれて」

「本当にありがとうございます!」


 ひええええええ……たくさんの貴族に頭を下げられてるううう。

 最近やたらそういう事多いけど、まだ慣れない……。

 あたしは元令嬢だけど! あくまで元だからね?

 だから、一般庶民なんだからね?

 ですからっ! 頭を下げる価値なんかないんですよおおおお!


「い、いえ……」


 心臓がバクバクするんだけど……。

 うわあああ、恥ずかしいよ。人前なのに……。

 思わず、リンの体に強くしがみつく。

 するとリンのほうもそっとあたしを抱きしめ返してくれる。

 そう、そうじゃなくてっ。バタバタして反抗すればするほど、リンが強く抱きしめてくる。


「さあ、皆俺の家でゆっくり休んでいくといい」

「ありがとうございます、リン王子、ローラ様」

「わわわ。あたしは呼び捨てでいいですよっ」

「そんな! 命の恩人ですし……」

「偶然ですってば!」


 あたしはただお花に水やりしていただけで!

 しかも適当に……。


「ローラ、お前もゆっくり休んでおけよな」

「リン……ありがとう」

「では、行こうか皆の者」

「はい、リン王子」


 そう言って去っていくリンにひらひらと手を振った。

 あたしはまた、ため息をついて部屋に戻ることにした。

 お花の世話はほかの召使の方に任せよう。

 ちょっと色々ありすぎた。疲れたもん。

 歩いていると、ミン王子がやってきてあたしの背中を叩いていった。


「元気出してーボクが遊んであげるからー」

「ミン」

「さっきおいしそうなマフィンを見つけたし、食べよう?」

「!? それはダメッ」

「あーん」


 ミンがあたしの作ったマフィンを口にして……ばたんと倒れた。

 あわあわしていると、ミンがパチンと目を覚ました。

 ホッとしているとミンがにっこり笑った。


「最近、色々あって不眠だったんだけどおいしすぎて元気になったよ! ありがと、ローラ」

「……は、はあ」

「今、ボクの定期試験があってね。これならすごく頑張れそうだよ」


 ミンが笑顔であたしに抱き着いてくる。かわいいなあ。

 やっぱり、リンと同じようなにおいがするし。


「そうなのがんばってね、ミン」

「うんっもちろん」

「緊張はしてない?」

「してないよっ」


 確かに顔色はすごくいいし、笑顔だし。


「よかった」

「きっといい点数が取れるね! ありがとう、ローラ」

「うんっ! がんばるっ! ボクがんばるよっ」


 元気よく喜ぶミンを見ていると、もうどうでもよくなってきた。

 まあ、理由はわけわからないけれど、皆が喜んでればいいかな……。

 そして、その結果ミンはすごい成績を出したと聞いた。

 結果、あたしはさらに崇められ、大量に果物を渡された。

 すっごーいおいしかったし、瑞々しくて感動したけれどね!

 なんで、あたしこんなにちやほやされてるんだろうね?

 何もしてないんだけど……あたし。


「ま、果物がおいしいからいいかな……」


 あたしは、果物をモグモグしながらそれを味わった。

 前世では味わえないようなすごい高級で、上品な味がした。


「んー……おいしい」


 果汁もたっぷりで……うーん……最高。

 とりあえずは、みんな優しいし幸せだし、いいかな。

 現世をできるだけ楽しもう!

 あたしはそう、割り切って果物を食べ続けたのだった。


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