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四話 やんごとなき少年と神聖なる魔鳥


 ドキドキしながら、あたしはやんごとなき方と呼ばれる方の登場を待っている。

 どんな方だろう。やっぱりとても麗しいのだろうか。

 ああ、緊張する。唾をのむ音まで、すごく大きく聞こえる気がする。


「ローラ、そろそろですわよ」

「はい、ベリル様」


 あたしは、おっかなびっくり扉を開いた。

 そこにいたのは。


「可愛いいいいいいい!」


 小さな水色の髪の毛をした、愛らしい男の子だった。

 やんごとなき雰囲気をまとった……とてもキュートなお子様だった。

 生足を出して、レースの付いたシャツを着て……ああ、抱っこしたい。超かわいい。


「なんだ貴様! ボクに失礼な」

「す、すみませんつい本音が」

「……むっ、ボクがだれかわかっての発言か」

「し、知りません」

「……なら仕方がないな。寛大なボクは許してやろう」


 かーわーいーいー。

 偉そうだけど、なんだかんだでいい子っぽい。

 鼻を高くして満足げな顔もとってもラブリーだ。


 ああ、ギュッとしたい。

 うずうずしているあたしに、美少年は白い目を向ける。


「ボクの名前は、ミン。これから死ぬまで覚えておくんだな」

「ミン様ですね、よろしくお願いします」

「まさか、この国でボクの名前を知らぬものがいるなんて思わなかった」


 吊り目気味のかわいい目であたしをにらむミン様。

 そんなお顔も素敵です。

 ぷん、とすねてますその姿は天使ですか。


「まあ、いい。今日はこの村で取れた最高の食事をご馳走してくれるそうだな」

「はい、そうですわ」


 ベリル様は営業用笑顔でそう言った。

 お嬢様である、ベリル様が媚びるなんて、相当のやんごとなさなんだろうなぁ、ミン様は。動きもどこか気品あふれてる気がする。というかいい香りがする。


「楽しみにしてるからな、ボクの期待を裏切らないように」

「わかりましたわ。飛び切りのごちそうをご用意していますから、楽しみにしていらして」

「当然だ」

「とってもおいしい搾りたてのジュースもたくさん用意いたしましたの」

「ジュース……」

「? どうかなさいましたの?」

「……たくさん飲んだらおねしょしちゃう」

「え? 何かおっしゃいましたの?」


 あたしにも途切れ途切れにしか聞こえなかったけど。

 何を言ったのだろう。


「何も言ってない! ボクは、何も言ってない!」

「ですわよね。空耳ですわよねー、まさかミン様が……なんて」

「ふんっ」


 あれ、ミン様耳まで赤い……?

 どうしてかな?

 しかも若干涙目な気がするけれど……?

 うーん? なんだか可哀そうだけど理由がわからないんじゃ何もできないよね。


「と、とにかくボクはごはんまで待ってるから! 早くするんだぞ!」

「はい、もちろんですわ」


 そう言って、ミン様は客室へと消えていった。

 おつきのもの、って感じの人々が後を追う。

 なんだか豪勢な雰囲気ムンムンである。


「さぁて、ローラ。セッティングを手伝って差し上げて」

「はい、ベリル様。がんばりますっ」

「ローラの分も用意してありますからね」

「えっ、そんな、あたしは召使ですよ?」

「食材が余ってしまったらもったいないでしょう? おとなしくいただきなさいですわ」

「そ、それなら」


 食べるほうがいいに決まってるよね。もったいないもん。

 うんうん、廃棄よりは絶対いい。

 あたしはよだれが垂れるのを我慢しながら、支度に走った。



***


「うむ、おいしかった」

「ミン様に満足いただけてよかったですわ。特にジュースがお気に入りのようで」

「とてもマイルドでよかった」

「うれしいです。この村で大切に作った果物で作りましたの」

「これからも頑張るように」

「はい、ですわっ」


 満面の笑顔のベリル様。

 ほかのご家族もとてもうれしそうだ。

 そこで、ミン様があくびをした。


「ボク、眠い……寝ていい?」

「どうぞ、あたくしが寝室に案内しますわ」

「んー歩けないんだけど」

「だっこしてさしあげますわ」

「当然」


 可愛いやり取りを見ながら、あたしは微笑む。

 なごむなぁ……いいなぁ、かわいい子同士のふれあい。

 あたしとは遠い世界だなぁ。

 いろんな意味で、経験することない世界。


 お母さんもお父さんも、あたしには興味なかったから。

 嫌悪を通り越して無関心だった。

 ああ、考えるのをやめよう、せっかくおいしいご飯を食べたんだから。


「はあ……」


 そろそろあたしも寝ようかなぁ。

 後片付けはしないとだけれど……召使たるもの、仕事はしっかりやらないと。

 よしっ、おいしいご飯のお礼に頑張ろうっ。

 気合を入れて、あたしは後片付けを頑張った。


***

 

 すがすがしい朝が来た。空気がおいしい。

 あたしは清掃作業を終えて、深呼吸をした。

 働く場所があるって幸せだ。求められるって幸せだ。

 今、あたしは幸せだっ。


「んー、今日も一日頑張ろう」

「おはよう、ローラ」

「ベリル様おはようございまず」

「さっそくだけど、ローラお願いがあるんですの」

「なんですか?」

「ミン様に、目覚めのスープをお持ちになって。すごくしゃっきり起きれるの。冷製なのよ」

「わかりました、どこにありますか?」

「キッチンに、置いてあってよ」

「ありがとうございます」


 言われたとおりにキッチンに向かい、スープを運ぶことにする。

 濃い黄色をした、おいしそうなスープはひんやりとしているけれどすごく濃厚そう。

 味見したいけれど、我慢我慢。

 これは、ミン様のものなんだから。

 そう思いながら、あたしはミン様の寝室に向かう。

 扉を開けて中に入ろうとしたとき……すすり泣く声に気を取られて開けた瞬間にスープをぶちまけた。よりによって、ミン様のベッドに。


「ああああああああ」

「うわあああああ!?」


 悲鳴を上げるあたしとミン様。


「……大丈夫ですか!? ミン様」

「う、うん……」

「すぐお拭きします。ああ、下着までべちゃべちゃ……」

「それは……ボクのおね……ううん、さっさと着替えさせてよ」

「はい、それはもちろん」

「……助かった」

「? 何がです?」

「何でもない!」


 気のせいか。

 それよりも着替え着替え。タオルを濡らして、ミン様の体をふいてあげないと……。

 と、思いミン様の服を脱がそうとしたら拒否られた。何で!?_


「一人で着替えぐらいできるから、ボク、何歳だと思ってるの」

「え、おいくつですか?」

「十二歳!」


 あれ、見た目より意外と年齢高い……?

 十歳以下に見えるけれど……。


「何その目。ボクが幼いっていうの」

「いえ、めっそうもない」

「ふんっ」


 ご機嫌斜めなミン様に、あたしがあわあわしていた時だった。

 ガタン、と大きな音がして目線をやると、旦那様が蒼い顔をしていた。


「大変だ、ミン様が帰る手段が途絶えた……橋が、橋がサン族によって壊された」

「嘘でしょ!? ボクまだ用事たくさんあるんだけど」

「すみません、私どもでは何も……」


 あたしも思わず無言になった。

 その瞬間。

 ばさ、と窓のほうから羽音がした。

 そこには、この前見たピンクから水色へのグラデーションの大きな鳥がいた。

 いや、あの鳥よりだいぶでかい。


「……なんで、神聖なる魔鳥がここに!?」

「え、神聖なの!?」

「選ばれしものにしか仕えないといわれている魔鳥、リーチェだよ……そんなことも知らないの?」

「すみません、ミン様……あたしは無学なもので」

『ローラ、だったか』

「!? なんか、心に言葉が聞こえてくる」

「ボクには聞こえないけど?」

「あたくしにも聞こえませんわ」


 え、嘘。あたしだけなの?

 この低い、なんかまがまがしい声が聞こえるのは。


『我が息子がお前から薬草をもらい、我は命を救われた。だから、これからお前に仕えよう、ローラ』


 窓越しに、あたしに頭を下げるリーチェ。

 ぽかんとしていると、ひざまずくように頭を垂れた。


「リーチェが忠誠を誓ってるの、ボク、初めて見た」

「気性が激しい生き物ですのに……」

「え、え……薬草、偶然一本渡し忘れただけなのに……」

『それでも、そのおかげで我は助かった。お前の願いをかなえよう』

「願いをかなえてくれるの……? じゃあ、うーん……ミン様をお家に返してあげて」

『……そんなものでいいのか』

「ミン様はどうしても帰りたいの」

『欲のない娘だ。いいだろう。乗れ』

「乗れって、あたしも?」

『主なのだから、当然だろう』

「何話してるかボクらにはまったくわからないよ」


 ああ、なるほど。


「えっと、ミン様をお家まで送ってくれると言ってます」

「本当!? 今日お兄様の誕生会なんだよね!」


 それは大変だ!

 急いで帰らないと……。

 ミン様は慌てて着替え支度をして、外に走っていった。

 あたしもそれを追いかける。

 でも。


「あたし、召使いの仕事が」

「ミン様を送り届けるのも、召使いの仕事ですわ、ローラ」

「ベリル様……ありがとうございますっ」


 なんとお優しい。

 あたしはベリル様に頭を下げて、ミン様と一緒にリーチェにまたがった。

 そして、リーチェはばさりと大きな翼を動かす。


「きゃっ」


 あっという間に空の上に浮かんだ体に、あたしは悲鳴を上げた。


『すぐに、つくから、安心しろ』

「……は、はあ」


 おっかなびっくりでリーチェにつかまるあたし。

 ミン様もそわそわしている。

 高い空から見下ろす町は、絶景で。


「うわああ、キレイ」


 感動しているあたしをよそに、リーチェはどんどん進んでいった。


「そろそろ、つくよ。ローラ」

「! ここは……」


 ミン様の言葉にあたしは唖然とした。

 だって、そこは……。


「大きな、お城……?」

「当然でしょ。ボクは王子様なんだから」


 ぽかんとしたまま、あたしはミン様を見る。

 いや、たしかにやんごとなきお方とは聞いていたけれど。

 王子様? 嘘でしょ?

 そんな馬鹿な!? 

 ううん、改めてみれば、そういわれても納得がいく。

 立ち振る舞いのきれいさに、どこかエラそうな態度……。


「えええええええええ」

「ローラ、うるさい」


 あたしは、改めて絶叫した。

そうこうしていくうちに、リーチェはお城にどんどん近づいて行った。

 思わずあたし、息をのむ。


 ……そして、目が合ってしまったのだ。

 とても背の高い、優麗な雰囲気の気品あふれる美男子と……。


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