エピローグ 座敷わらしと呼ばれた少女は魔王にも溺愛される1
最近なんだか町が騒がしい。
「何かあったみたいだな、ローラ」
「うん、そうみたいだね、リン」
「魔王が出たそうだよ」「
「ミン、知ってるのか」
「そりゃ知ってるよお兄ちゃん。有名だもん」
「大丈夫なのか?」
「今のところは平和だけど……どうなるんだろうね? そろそろローラお姉ちゃんに依頼でも来るんじゃない?」
「お姉ちゃん……お姉ちゃんって呼んでくれた!」
「反応するところそこじゃないでしょ……ローラお姉ちゃんは……」
だって、うれしいんだもん。
今までローラだったのに! お姉ちゃんって!
「まあいずれお姉ちゃんにはなるからね? ローラお姉ちゃんは」
「そうだな。ミンの言う通りだ」
「今のうちに慣れておいてよ。お姉ちゃん呼び」
「うん、がんばるね! ミン!」
「がんばらなくてもいいけど……それより魔王はどうするの? 一応聖女でしょ? ローラお姉ちゃんは」
一応っていうか、そうだけど……あたし何も魔力があるわけじゃないし。
「ルーラさんは動いてるみたいだよ」
「えっ、お姉ちゃんが?」
「まあ、あの人は魔法使い慣れてるからね……戦闘力はわかんないけど」
「すごい……あたしも何かしないと」
「策はあるの? ローラお姉ちゃん」
「ない……」
「……ないの」
呆れるミン。 申し訳ない。
あたしには魔法の知識は少しはあるけれど……使えるのは魔鳥リーチェぐらい。
しかも移動にしか使ってないし……。
「そういえばリーチェって何か魔法が使えるの?」
「使えるだろうが、ローラが使いこなせるかは別だろう」
「うっ、確かに……」
「リスクを考えれば、最終手段にしておいた方がいい」
「そうだね、リン」
「そもそも、魔鳥の能力は魔王にはかなわない気がするけど」
「ミン、詳しいの?」
「詳しくないけど、魔王だよ? 魔の王だし……鳥ごときじゃかなわないでしょ」
「なるほど……」
そういう理屈もあるのか……なんか納得できるようなできないような。
「現実逃避に虫取りしてくる」
「なんで!? 何で虫取りなのローラお姉ちゃん!?」
「蜜を木に塗って寝る!」
「ちょっと!? さすがに奇行が過ぎるよ!? 止めてよお兄ちゃん」
「大丈夫だ、きっと幸運につながる」
「つながりようがないからね!?」
あたしもさすがにつながらないと思う!
だけど! 現実逃避して寝る事って大事だと思うんだよね!?
「蜜塗ってきまーす」
「ローラお姉ちゃああああん」
あたしはその日、一心不乱に木に蜜を塗りまくった。
***
「すっきりした目覚め……!」
あたしは前日の夜、グーグーと眠った。
疲れきるまで蜜を塗りいい感じの運動ができたと思う。
その後のシャワーの気持ちよかったこと!
爽快ってこういうこと言うのね!
はあ……たまには意味不明な行動もとってみるものね!
「ローラ、大変だ!」
「何が?」
「なぜかカブトムシの代わりに魔王が捕まった」
「は?」
「だからカブトムシの代わりに魔王が捕まったんだ」
「……?」
「俺も錯乱している。意味が分からない」
何が起こってるのー……?
眠い状況でとりあえず起きる。そして適当に着替えてリン達についていく。
慌ててたどり着いた森には……長い紫の髪を振り乱して蜜をなめる魔王らしき人物が……マジで……いた……。
「ナニコレどうなってるの」
当然のように捕獲されてる魔王らしき人。
それでも蜜はなめ続ける。
「俺にはよくわからない……」
「いや、あたしにも意味が分からないよ」
「一心不乱に蜜をなめ続けてるんだ……好物なのか……?」
「さあ……」
「とりあえず引きはがそう」
「そうだね……」
「な、何をする! 我の蜜ぅ、蜜ぅ」
「……あんた魔王だろ?」
「そ、そうだが、蜜ぅ」
「そんなに蜜が好きなのか……?」
「ああ、大好きだ! 魔界では超高級品なんだぞっ」
「ここではそうでもないが……この国に服従するならいくらでもやるが」
「本当か!?」
「……ええっ、そんなんでいいの!? 魔王退治」
「本人が満足そうだからいいんじゃないか……?」
「蜜がもらえるなら、和平条約を結ぼう」
「……ほら」
リンがあきれ顔で魔王を指さす。
金色の目に、大きな角。長身で筋肉質な体系に、豪奢な服。
明らかに魔王だ。絵にかいたような魔王だ。
「これを塗ったのは誰だ」
「あたしだけど……」
「惚れた! お前に惚れた!」
「へ?」
「こんなきれいに蜜を塗る女はほかにいない……」
「えええええ……?」
何この展開。意味わかんないんだけど。
蜜を塗る才能とか、あるの? そんなの聞いたことないけれど……。
魔王さん、顔近い……。
なんか迫りくる感じ……当然リンはご立腹なわけで。
「こいつは俺のだ」
「な、我はそんなの関係なく愛すると決めたのだ!」
「ローラは俺のだ!」
「おお、ローラというのか……魔界の姫にならないか?」
「なりません」
「……何故だ……」
「そこにいるリンが婚約者だからです」
「じゃあ、二番目の夫に……」
「そんなものはない」
「我の国にはある!」
「こちらにはない!」
「ある!」
「ない!」
「……何を言い合ってるの、二人とも」
そういう問題点じゃない気がするんだけど……。
第二の夫なんか、とる気ないし。
あたしはリン一筋だし。
何人夫が取れようが、どこの国の姫になれようが、リンしか興味ないし。
「とりあえず、我はしばらくここでローラを落とすために頑張ろう」
「おい、勝手に居座る気か」
「和平条約」
「……う」
「蜜もいただきたいしのぉ」
「お前にくれてやる蜜はないっ」
「いや、それはあげないとダメでしょ、リン」
約束は約束だし。
ねえ?
「ぐぬぬぬ……」
リンは悔しそうにうなる。
「魔王さん、名前は?」
「オウマじゃ」
「わかった。蜜をたくさん用意するから、この国からは遠のいて」
「いやじゃ」
「……ええ」
「蜜よりおいしそうなものがあるからのぉ」
「……?」
「ローラ、逃げろ!」
「何で?」
「……くっ、純情なローラに説明できるかあああ」
「おーまだ手を出してないのかのぉ」
「うるさいうるさいうるさいうるさい」
「リン、なんかわかんないけど落ち着いて」
「俺の後ろに隠れろローラ」
「何で?」
「これは愉快愉快」
にしし、とオウマは笑う。
きょとんとしているあたしを、リンが守るようにかばう。
何をしたいのだ、二人とも。
「あ、そうだ。皆でお茶会しようよ」
「何を言い出すんだローラ!」
「蜜を使って、お菓子作ってみようかなって。和平条約のお礼に」
「正気か!? こいつはお前を狙ってるんだぞ」
「仲良くなって、帰ってもらおうかなって」
「……うう。ローラがそういうなら従うか」
「おお、蜜を使った菓子か。楽しみじゃのぉ」
オウマは多分甘党っぽいし……第一あたしはリンにもお菓子をふるまいたい。
最近リンは忙しそうで、何もしてあげれてないから。
せめておいしいお菓子ぐらい、ご馳走してあげたいなぁって。
蜜もいろんな種類あるし……お茶に入れてもいいし、お菓子に練りこむのもありだ。
「リン、お菓子楽しみにしててね?」
「そりゃ、楽しみだが……」
「あたしがお菓子を作るのは、リンのためなんだよ?」
「……ローラ」
「最近、疲れてるでしょ?」
「ありがとう、ローラ……」
「いちゃついてるのぉ」
「うるさいうるさいうるさいうるさい」
「リン、落ち着いて……」
あたしを抱きしめながら叫ぶのやめて……リン……。
愛されてるのはわかるけれど!
「絶対におまえには渡さないからな、オウマ」
「ほぉー、どうかのぉ。我も自信があるからのぉ」
「俺だってローラに愛されてる自信はある!」
「の割に余裕がないのー」
「うるさいうるさいうるさいうるさい」
「まあまあ、二人とも落ち着いて……」
あたしは二人をたしなめて、お菓子を作ることにした。
二人きりは不安なので、護衛を呼び出しておいたけれど……大丈夫、だよね?
***
「ふんふんふーん」
上機嫌でお菓子を作るあたし。
それなりにおいしそうなバウンドケーキができた。クッキーも焼けた。
あとは紅茶に蜜を入れるだけだ。
さあ、運びに行こう。
そう思って飛び出していった時だった。
「きゃああ」
あたしは蜜まみれになった。
「ローラ!」
「おおお!」
とっさに飛んできたリンと、オウマ。
オウマ……何故か顔が嬉しそうだ。
少しおびえていると、オウマはあたしをぺろりと舐めた。
「ん、甘いぞ」
「おい!」
リンがブチ切れた。
「俺のローラに何するんだ!」
「舐めただけじゃ」
「それがおかしいだろって話だ!」
「蜜があったからのぉ」
「ローラは木ではない!」
「ふふ。それぐらい我もわかっとるわ」
「ローラ、拭いてやる。来い」
「あ、うん……」
リンは召使いに濡れたタオルを持ってくるように命じた。
そしてゆっくりとあたしの顔を拭いていく。
顔が近い……近い……。
なんか、リンを見てるとぽわんとしてくる。
「よし、拭けたぞローラ」
「ありがとう、リン」
「どちらの顔も真っ赤じゃの」
「うるさいうるさいうるさいうるさい」
「余裕がなくてかわいらしいのぉ。リン王子は」
「ほっといてくれ!」
本当。こんなに余裕のないリンは初めて見た。
いつもは澄ましてるのに……あたしの事本気で好きでいてくれてるんだなって思う。
とられると思うと、こんなに余裕がなくなるぐらい、愛してくれてるんだ。
……嬉しすぎる。
「あーつまらんのぉ。やっぱり和平条約をやめようかのぉ」
「!? なんだって!?」
「ローラを嫁にくれないなら、この国を爆破しよう」
「……そんな、ひどい」
「もちろん猶予はやる。すぐにとは言わんよ。それに第二の夫でもよい」
「できるかっ」
「リン王子、この国はいらないのか?」
「いるに決まってるだろう! 俺が守る国だ」
「じゃあ、答えは一つだのぉ」
「……っ」
リンが焦った顔をする。
あたしには、何もできないのだろうか。
悔しくて、あたしは歯を食いしばる。
大好きなのに……何もできないのは嫌だ。
でも、リーチェを使うのは何かが違う気がする。
「とりあえず。対策を考えよう。リン」
「ローラ……」
「猶予はあるんだからきっとどうにかできるよ」
「……そうだな。とりあえず落ち着いて考えれば……」
「あるのかのぉ」
にやにやするオウマを無視して、あたしたちは部屋を出た。
この部屋にいれば、リンがどんどんヒートアップしそうだから。
とりあえずは、オウマから距離を取ろう。
「聖女について調べてみるってどうかな」
「ローラについて、か」
「お姉ちゃんが詳しいと思うから、連絡を取って」
「そうだな、すぐ手紙をリーチェを使い、出す」
「きっと魔法ですぐ返事が届くし、お姉ちゃんも飛んできてくれる」
「それは心強いな……」
「だから、大丈夫だよ。それにあたしも頑張るし」
「ああ。お前がいれば百人力だ」
「リンがそばにいるからだよ。だから、リンもあせらないで」
「……でも、ローラは魅力的だから……とられないかとヒヤヒヤしてしまうんだ」
「リン……」
そんなこと言ってくれるのはリンぐらいだと思うけど。
思わずうれしくて、微笑んでしまう。
「ありがとう、リン」
必ず、あたしはリンだけを選ぶから。
安心していて、ね?
完結まで読んでいただいた読者様に愛をこめて!
エピローグその1を更新させていただきます。
続きは気まぐれな速度で行きます……!
エピローグはまだ、別の種類も書くかもです♪




