表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/33

三話 突然、座敷童と呼ばれても……!?

「ローラ様、お元気で」

「気を付けてくださいね、ローラ様」


 助けた村長たちに見送られ、あたしは今の村よりちょっと都会の村を目指した。

 せっかくなので、機嫌よく歩いていくことにした。

 なんか気分いいし、馬車を借りるのも申し訳ないしね。

 もらったネックレスをぶら下げ、鼻歌交じりに歩き出す。

 ああ、なんて今日はいい日。まるで人生の記念日だわ。

 なんて足取りが軽いの。なんて心が弾むの。

 こんなの初めて!


「ふんふんふんーるるん……ってあれ、かわいいお花!」


 視界に小さなお花が見えた。

 とっさにあたしはそれを拾うためにしゃがんで……それをつかんだ瞬間首を引っ張られた。何事!?


 呆然としていると、後ろには大きな鳥。なにこれ……魔鳥?

 ネックレスに惹かれたのかしら。鳥って光物が好きだもんね。

あれ? よく見ればケガしてる……。


 そして、なんかあたしのぶら下げてる袋をつついてるぞ。

 何か匂うのかなぁ……あたしは、あっちで湯浴びもさせてもらったんだけどな。

 袋……袋……。

 あ! わかった! 薬草だ。薬草、一本だけ袋に入れたままだったみたい。

 全部渡したつもりだったんだけどね。


「これが欲しいの? あげるわよ、鳥さん」


 ピンクから水色へのグラデーションのメルヘンな色をした鳥は、意味が分かったのかそれを持って消えていった。


「なんだったのかしら」


 ふと、手を見てみるとお花だと思ったのはかわいいペンダントだった。


「落ちたままだとこれ、踏まれちゃうし、そもそも、これに躓いて転んじゃうから……とりあえず拾っちゃえ」


 ぼろぼろなペンダントだけど……なんとなく、気になった。

 色も剥げてるし、高そうな感じもしない。

 おもちゃだろうとあたしでもわかる。

 だけど、どうしても放置できなくて。

 貧乏性なんだろうなー……。

 実際貧乏育ちだけど!

 本来はいい家の令嬢なのに! そう、悪役令嬢を名乗るだけの家柄なのに!

 まあ、いいわ。そんなこと考えても意味がない。


「村が見えてきた」


 花々が咲き誇る、鮮やかな村だった。

 明らかに木造建てしかなかった前の村とは違い、しっかりとした家が目立つ。

 裕福な村、というのが見てすぐわかるレベルだ。

 村人の身なりにも余裕を感じる。


「うわああ……」


 思わず感嘆の声が漏れた。なんか、絵本の中の世界のようだと思った。

 確か昔は、もっといい村に住んでいたのだろうけれど……残念だけど記憶にないのよね。

 ララ家は本当に裕福で、権力もある。その設定はあたしも頭では理解している。

 だからこそ、その家を失ったゲームの中のローラが悪役令嬢になってしまったのだけど。


 正直あたし自身の設定には同情してしまう。忌み子に生まれただけで、人生がダメになるなんて。実際かなりつらかったもん。そりゃ、やさぐれる気持ちもわかるけど……。

 どうせ、復讐なんか無駄だし。何よりあたしはそんな能力ないし。

 実は、最後までゲームしてないんだよねぇ、ラスボスになぜ、ローラがなったのかあたしは知らないのだ。自力で復讐劇を繰り広げる頭もないし……それに意欲もない。


「ローラ様、ですね。お待ちしておりました」


 また、新しい案内人だった。

 今度は初老の男性だった。かなり、紳士な感じがする。

 細かいしぐさにいちいち気品を感じた。


「わたくし、この村をまとめるルーリック様のご命令で、レーン様のお家にご案内するために参りました。ローラ様は、とても素晴らしい方だとか……」

「いや、あたしは何もしてない……」

「まるで、聖女を通り越して、遠くの国で言う座敷童みたいだと。あちらの村長さんはおっしゃっておりました」

「……はあ」


 それ、日本だよね。絶対日本をもとに設定された国だよね。

 あえて口には出さないけれど……さすが日本人が作ったゲームだ。


「座敷童とは、素敵な魔物だそうですね」


 いや、魔物じゃないですけど。と、突っ込む気力も無くあたしは苦笑い。


「さあ、向かいましょう。ローラ様」

「はい……あの、その様付け本当やめてください」

「いえ、ローラ様はローラ様です」

「おうふ」


 もう、あきらめるしかないのだろうか、この呼び方。

 かなりむずがゆいんだけど……。かなり、そわそわする。

 ゆっくりと村を案内してもらいながら、あたしはこれから住む家へ向かった。

 果たして、どんな家なのだろう。楽しみだなぁ。

 そう思ってフワフワしていると、あたしは何かに躓いた。


「うわっ」


 その拍子に、ポケットからお花のペンダントが飛び出た。


「あわわ」

「これは……」

「! ご存知ですか!?」


 あたしは思わず食いついた。


「ゴミですね」

「え」

「まごうことなくゴミでしょうね。こんなぼろぼろで安そうなもの……」


 で、ですよねぇ。


「ダメェ、それを捨てちゃダメぇ」


 そう思ったとき、長い手が伸びてきた。

 フワフワの色素の薄い髪の、いかにも上流階級の女の子だった。

 スカイブルーの吊り目が、あたしより見た目だけなら悪役令嬢だった。


「これは、あたくしの大切なものなの! そこのお姉さん、ひろってくださってありがとうですわ」


 ……しゃべり方も悪役令嬢だった。


「ベリル様。この方はこれからこの村の仲間になるローラ様です」

「まあ、そうなの。あの噂の!?」


 どんな噂か超気になるんですけど。


「あたくしの、小さなころこっそりいただいた、宝物を拾ってくださりありがとう」

「え、貴女のものなんですか」

「そうですわ。小さなころ、遠くの村で迷子になった時であった男の子にいただいたの」

「お嬢様!? そんな話わたくしは一言も」

「秘密だったもの。絶対捨てられると思ったから、に決まってるじゃなくって」


 確かにゴミって言い放ったもんなぁ、老紳士。

 隠したくなる気持ちもわかる。


「本当にありがとうですわ!」

「い、いえいえ。偶然拾っただけで……」

「これは、お礼をしなくては……ねぇ、あたくしの家に貴女が住むのはどうです?」

「そ、そんなの無理です! 大げさすぎます」

「だぁって、これはあたくしにとって命の次に大切なものよ?」

「そんな、大げさな……」

「うーん、困ったわ。あたくしは、何かしてさしあげないと気が済まなくってよ」


 そう言われても。

 困っていると、老紳士と目が合った。


「……では、お嬢様。この方を屋敷の召使として働かせてみては……」

「そんなの失礼じゃなくって? 恩人よ?」

「……それでお願いします!」

「!? こんなお礼でいいんですの?」

「何もしてないのに、お家に住まわせてもらうより全然気持ちが楽ですっ」


 うん、何かをしてそのお礼に住まわせてもらうのなら、気持ちよく受け入れることができる。それに、召使いなら様付けもされなくて済むだろう。最高じゃないか。

 よくやった、老紳士。最高だ、老紳士。あっぱれ、あっぱれあっぱれ老紳士。

 ベリル様は、不満そうに首をかしげている。

 けれど、あたしのごり押しで、あたしはベリル様に仕える事になった。


 うん、あたし一番上よりこういう位置のほうがお似合いだと思う!

 身の丈に合ってるっていうか……ねぇ。


「では、あたくしの家に案内しますわね。……えーとローラ」

「はい! ベリル様っ」

「なんだかすごく違和感がありますわ……恩人に様付けされて、こちらが呼び捨てなんて」

「気のせいですベリル様!」


 全然問題なんかありません!

 ニコニコ顔のあたしに、ベリル様は不思議そう。


「ベリル様、お荷物お持ちします」

「そんな、いいですわよ」

「召使ですから」

「……ん、もうっ。仕方がないですわね……」

「るんるんっ」


 あたしは両手にベリル様の荷物を持って、鼻歌を歌う。

 なんてやりがいのある仕事を手に入れたのだろう。

 こんなあたしでも、人の役に立てる立場になれるなんて!

 めちゃくちゃ嬉しい!

 しばらくして、大きなレンガ造りの屋敷が見えた。

 定番のようにバラ園がある。甘いいい香りがした。


「うわあ、豪邸」

「貴族にしては質素だと思いますわよ」

「ええ……貴族のお家に仕えれるなんて……あたしってラッキー」

「……その、貴族のお家でのんびりすればいいんですのに、何で嫌なんですの? 変なローラ……」


 だって、そんな権利あるようなこと何もしてないし?

 それこそ当然なんじゃないかな。

 あたしは老紳士に案内されて、荷物を置いて着替えに行く。


「うわあ、似合う」


 それは、いわゆるメイド服だった。

 なんてあたしに似合ってるんだろう。

 自分で言うのもなんだけど、ぴったりだ。


「ローラ。早く出てらっしゃい」

「なんですか、ベリル様」


 初仕事? 初仕事ですか?

 わくわくわく。


「もうすぐ、やんごとなき身分の方がこの家にお泊りに来られます。どうか、その方のお世話をお願いしたいんですの。ちょっと、ほかの召使が多忙で」

「が、がんばりますっ」


 ちょっと荷が重いけれど、衣食住がいただけるんだから喜んで!

 がんばって、あたしにできる限りの最高のおもてなしをしないと。

 おっとその前に、本でも読んでお勉強だ。


「ベリル様、書庫ってどこですか?」

「あちらよ」

「ありがとうございます」


 言われるがままに書庫に向かう。 

 しかし、古臭い本しかない。

 けれどきっと、ありがたい本なのだろう。あれ、でもこの本のほうがかわいいな。

 そう思って手に取ったのは、レシピ本だった。

 結局、気が付けばそのレシピ本をたっぷり読んでいた。

 もちろん、慌てて礼儀作法の本を読んだのは言うまでもない。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ