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二十四話 最後までのカウントダウン


「って……あまりにあっさり治りすぎじゃない?」

「それはローラが持っていた薬草のかけらのおかげね」

「お姉ちゃん、それはわかってるけど、たかがかけらで……」

「そんな重い病気じゃなかったからよ」

「の割には大騒ぎだったけれど」

「今まで健康すぎたからじゃないかしらね」

「なるほど、それはいいことなのか悪いことなのか」

「それにしても。さすがローラ。持ってるわね」

「えへへ」

「薬草のかけらがカバンの底に余ってるとか、なかなかないわよ」


 まあ、それは確かに幸運だなぁ。

 全部あげてきたと思ったんだけど。

 こんな風なラッキーもあるもんだね。

 お母さんは体調ばっちりだし、お姉ちゃんもご機嫌だし。

 召使いがレモンティーを入れてきてくれたので、ゆっくりとクッキーとともにいただく。


「そういえば、村人たちがローラをこの国に残そうと署名をしてるんだって」

「!? そうなの、お姉ちゃん」

「ええ。幸運が逃げるのが怖いみたい」

「……そっか」

「ローラは、リン王子についていくのでしょう?」

「うん。一番あたしによくしてくれたのは、リンだから」

「そうよね。聖女とわかる前からの付き合いだもんね」


 リンはあたしが聖女じゃなくてもきっと結婚する気だった。

 理由としてはだいぶでかい、けれど。

 何よりあたし自身がリンが大好きだって気持ちが一番だと思う。

 命を助けられたわけでもない。ただ、ずっとそばにいて支えてくれてそれだけでリンの性格の良さはあたしには伝わってきた。

 堅物で、純粋で、まっすぐで……。

 ほかの誰も変わりはいないのだ。リンにとってもそうであるように、あたしは頑張っていきたい。


「でも、大変なのよ。このままだとデモになるみたい」

「デモ!?」


 それは大変だ。大騒動すぎる。

 リンに相談しないと……。


「私に聖女としての力があれば」

「お姉ちゃん……」

「なくても、この国への愛は負けないもの。私が守って見せる」

「……強いね、お姉ちゃんは」

「今までさんざん聖女として幸せな日々を過ごさせてもらったからね」

「……お姉ちゃん」

「この国への恩返しぐらい、当然でしょ」


 そう言ってお姉ちゃんは笑う。

 この国が大好きなお姉ちゃんにとって、自分を否定されるような状況がつらくないわけがない。


「魔力が入るペンダント、お姉ちゃんしてたよね」

「これ?」


 お姉ちゃんがハート形のペンダントをあたしに見せる。


「あたしの幸運の力、分けたりできないの?」

「ローラ。気持ちはうれしいんだけど……ローラはリン王子の国を守りなさい」

「え」

「優しくしてもらったんでしょう? あっちの国で」


 確かに。おじいさんおばあさんベリル様……皆あたしにやさしくしてくれた。

 そのおかげで、気が付けばリンの傍にいた。

 あたしは、彼らを笑顔でいさせてあげたい。


「助け合うのは当然ありだと思うけれど……私は私を中心にやっていくわ」

「お姉ちゃんは、すごいね」

「生まれてずっと聖女として生きてきたんだもの。強くもなるわ」

「あたしもがんばるよ」

「ローラ……貴女は誰を幸せにしたいかを考えて動きなさい」

「お姉ちゃん」

「一番初めに、浮かぶ顔は誰?」

「……リン」

「でしょう? ならリン王子の傍にいないと」

「そうだね」


 あたしは一生リンの傍に添い遂げたい。

 愛されたいし、愛していきたい。


「対策は、リンと練る」

「行ってらっしゃい、ローラ」

「ありがとうね。お姉ちゃん」

「こちらこそ」


 二人で微笑みあいながら、あたしはお姉ちゃんと別れた。


***


数時間後。騒ぎは起こった。


「この国の聖女はローラ様だー」

「いや、ルーラ様だ」

「だって本物の聖女はローラ様だろう?」

「でも、今まで救ってくれたのは誰だ? ルーラ様だ!」


 村人がデモを始めたのだ。

 しかも、あたし派対お姉ちゃん派でもめている。

 最悪の事態だ。


「ひどい騒ぎね」

「そうだね、お姉ちゃん。……リン、行くよ」

「カイリ、行くわよ」


 あたしとリン、お姉ちゃんとカイリ王子は手をつなぎ進む。

 そしてお城のバルコニーに顔を出した。


「皆、聞いて」

「ローラ様!」

「私たちから話があるの!」

「ルーラ様!」

「この国には、あたしは残りません!」


 あたしは目いっぱいの声で叫んだ。


「私が、この国を守ります!」


 お姉ちゃんも張り合うように叫んだ。


「あたしは、リン王子のそばで生きていきます。この国はお姉ちゃんが守ります!」

「悪いが、俺はローラをもらう。そして大切にする」

「そんな、リン王子……ローラ様はこの国の宝です!」

「俺の宝だ! お前らはローラにひどい言葉を散々浴びせておいて、聖女だとわかれば立場を変えて……はずかしくないのか!?」

「……!」

「ルーラ様だって頑張ってきたのを、お前たちは見ていないのか。誰のおかげで何とかこの国はやってこれたのか、考えてこい」

「それは」

「私の力不足はあったと思います。でも、私はこの国を愛しています。聖女ではなく忌みみ子であっても、この国を守るのは私、ルーラです」

「ルーラ様……」

「そして、それを僕がそばで支えるつもりだ」

「カイリ王子……」

「何かローラに文句があれば俺に言え」

「そうだね。ルーラに文句があるなら僕に、だね」


 ざわつくデモ隊。

 王子二人の発言には、さすがに何も言えないらしい。


「お前らを、見捨てるわけではない。ローラやルーラ様にも意思があるんだ」

「そう、あたし達は人間。聖女だからって心がないわけじゃないし、忌み子にないわけでもない」

「どんな立場でも、生きているんだ。お前らと対等にな」

「リンの言う通り。だから、私は私の意志で生きていきます」

「ローラ様……」


 村人が騒ぐ。


「いざとなれば、あたしはどっちの国にでもとんでくるから、ね? それに聖女だとか忌み子だとか馬鹿らしいこと、そこまで重要視しなくていいと思う。みんなで助け合おうよ」

「……俺もついてくるがな」

「私がそんな手間を与えないぐらい、この国を幸せにし続けるわよ」


 お姉ちゃんが茶目っ気あふれる顔で言った。


「僕もいることだしね」

「ねー?」


 いちゃつくお姉ちゃんとカイリ王子はキスをした。


「わあああああ」


 盛り上がる群衆。

 あたしたちも、吊られるようにキスをして……転んだ。

 そしてそのまま群衆の中へと転がり落ちた。


「!?」


 気が付けば、あたしたちは群衆の上に乗っていた。

 というか、担ぎ上げられていた。


「ローラ様! ルーラ様! ばんざいっ」

「リン王子、カイリ王子ばんざい!」

「……あらあらまぁ、お祭りわぎねぇ」

「お姉ちゃん、のんきな顔してないで助けて!」

「いやよ。みんな幸せそうだもの」

「えー!?」

「存分もまれてなさいっ」

「そんなあぁあああああ」

「うお、なんか変なとこ触られたぞ」

「リン!?」

「……抱き着け! ローラ」

「うんっ」


 そして、あたしたちは群衆の中に着地した。

 盛大な拍手が始まり、あたしたちの上には花びらがまかれた。

 いつ用意したんだというつっこみはあるものの、きっとロザリアあたりだろう。

 その日。夜はお祭りをやることになった。

 旧居ではあったものの、出店もあった。

 おしゃれをして、あたしたちはのんびり街を歩く。


「やっと出店でゆっくり食べれるな」

「夢だったもんね、リンの」

「ああ」

「イカ焼きがあるよ、食べよう」

「いいな、食べるか……ってソース、ついてるぞ」

「あっ……リン、なめないでよ」

「手が汚れるより、全然いいだろう」

「視線がすごいよ」

「かまわない。どうせみんな知ってるだろう」

「そうだけど」


 あれだけ大勢の前で宣言したから怖いものない、といえばそうだけど。

 はずかしくないわけではないんだからね?

 なめられたところが、絶対赤いよ。


「手を離すなよ」

「うん。言われなくても離さないよ」

「そうか……」

「ずっと、一緒にいるよ」


 そう呟いて、あたしはリンに抱き着いた。

 ソースまみれになりかけたリンが、悲鳴を上げて転びそうになり注目の的になったけれど、気にしちゃいけない。



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