二十一話 切なくてほろ苦い
いつもありがとうごじざいます!
前回予定時刻に更新できずすみませんでした。
これからは完結まで
ランダムな時に
乗せていきます。
明日中までには
完結します。
お姉ちゃんが忌み子だと国中に広まって数時間後。
ざわつきはあったものの、カイリ王子の言葉が広まり、騒動は収まったかに思えた。
しかし、お姉ちゃんの様子は落ち着かない感じだった。
「私、このままでいいのかな」
「お姉ちゃん?」
「今まで魔法を使う道具を授かって、それでこの国をどうにかしてきたけれど……ローラみたいにいるだけで幸福を運んでくる力なんてないのよ」
「それでも、お姉ちゃんにしかできないこともあるよ」
「しばらく、ローラの傍にいたい」
「……お姉ちゃん」
「今まで、姉妹らしいこともできなかったし。ローラから何か学べないかなって」
「お姉ちゃんと、あたしも色々してみたい……」
「ねぇ、カイリ。ローラたちをしばらく滞在させれないかしら」
「それぐらいなら、大丈夫だよ。なんたって、君の妹で命の恩人だからね」
「ありがとう、カイリ。色々負担かけてきてごめんなさい」
「僕だって、うまく支えれなかったところはあると思うし」
「……お姉ちゃん、カイリ王子と仲良くね」
「うん、ありがとうローラ。そっちもリン王子と仲良くね」
「言われなくても」
「じゃあ、今日は泊っていくといいわ。明日の朝、一緒に遊びましょう」
「わかったよ」
あたしはにっこり微笑んだ。
「もちろん、リン王子と同室にしておくわ」
「え?」
「は?」
あたしとリンは間抜けな声をあげた。
ちょっとまって。
それは少し問題なのでは……?
「結婚前提の関係なのでしょう? なんか問題あって?」
「……そうだな。問題ないな」
「リン!?」
「……いやか、ローラ」
「ええと」
嫌っていうか……恥ずかしいっていうか。
でも……。
「いいよ。リンだもん、一緒の部屋でも大丈夫」
「そうか」
リンも恥ずかしそうにはにかむ。
そうだよね、あたし達ってそういう関係なんだよね。
今までいかにもっていうデートらしいデートもしてないけれど……!
なんか急展開過ぎないかなって思うけど……!
「部屋に案内するから、ついてきて」
「うん、お姉ちゃん」
言われるがままにお姉ちゃんとカイリ王子の後を追う。
そして、待っていたのは……。
「ダブルベッド……」
「あら? 不満かしら。狭い?」
「……えっと」
「問題ない」
「リン」
「別に問題はない」
リンにそういわれると、何も言えない。
でも、なんかリンも緊張してる感じがする……すましてるけど、耳は赤い。
不安はない。けれど……。
「とりあえず、夕飯は運ぶから、ゆっくり休んで」
「ありがとう、お姉ちゃん、カイリ王子」
「お礼はこっちのセリフだから」
そう言ってお姉ちゃんはカイリ王子の腕を組んで消えてしまった。
取り残されるあたし達。
無言でただ、見つめあう。
「……夕飯を待つか」
「そうだね」
ぼんやりしながら、あたしはそう言って、味もわからないまま夕飯を食べ始める。
味がしない。そう思い、コショウをかけまくる。
そのうち鼻がむずむずしてきた。
「くしゅっ」
リンの顔に思い切りくしゃみをかけてしまう。
「あわわわ。リン、ごめん」
「近い……」
「きゃあ、ごめん」
「……まあ、これもまた俺にとっては幸運だが」
「え?」
「さっきからずっと視線をそらされていたからな、ローラに」
「だって、恥ずかしくて!」
「大丈夫だから」
「……うう」
「俺は、お前が嫌がることは何もしない」
「嫌とか、そういうのじゃなくて」
「全てを、いつか捧げあう日まで、何も手出しはしないよ」
「……リン」
「だから、安心して俺の腕の中で眠れ」
「……うん」
「さあ、食事が終わったらシャワーを浴びてゆっくり休むんだ」
「ありがとう」
その夜は、とてもリラックスして眠ることができた。
リンの腕の中で、あたしはリンとの幸せな夢を見た。
きっとその夢は、いつか現実になるとも思った。
***
「おはよう、リン」
目覚めれば、あたしを優しい目で見つめるリンがいた。
「起こしてくれればいいのに」
「幸せそうに眠っていたからな。かわいい顔で」
「もうっ」
「どんな夢を見ていたんだ」
「秘密っ」
「俺は、お前の夢を見ていたぞ」
「え」
「夢でも、現実でも頭の中はお前でいっぱいだからな」
「……リン」
「それぐらい、お前に夢中だ」
「あ、あたしだって……」
「はい、おはようローラ」
「……お姉ちゃん」
なんつータイミングで現れるの。
「おいで、ローラ。私の部屋に」
「……ご飯は?」
「二人きりで、女の子だけの話をしながら、いただきましょう」
「え」
「リン王子、ローラを借りるわね」
「ああ」
え、リン止めないの?
あたしはお姉ちゃんにされるがままに連れ去れた。
そしてたどり着いたゴージャスなお部屋。
大量の洋服に調度品。魔法道具もあちらこちらにある。
「ローラ、服が地味」
「え。何、急にお姉ちゃん」
「大好きな人の前なのに手を抜きすぎ」
「でも、リンは何でも可愛いって……」
「そりゃ、そう言うだろうけど……もっと色気を出さないと」
「色気ぇ!?」
何それ。意味わかんないんだけど。
お姉ちゃんは朝食が運ばれてくるとそれをテーブルに置いた。
「さあ、早く食べて」
「え? え?」
「これ、お肌につやが出るメニューなの」
「すごい」
お姉ちゃん、美意識高い。
「私は、ローラに何できなかったし、今から作れる思い出も限られてるってわかってる」
だけども、とお姉ちゃんは続ける。
「せめて、リン王子に喜んでもらえるローラを、今から作ってあげることはできるわ。だって私はおしゃれに関しては詳しいもの」
「お姉ちゃん」
もぐもぐ、と料理を食べてみる。
どれもおいしいし、見た目も可愛らしい。
高そうな果物もあるし、カロリーも低そうだった。
サプリっぽいものも、渡された。
これは帰ってからも飲めとのことだ。
「ローラはかわいいのよ、本当は」
「お姉ちゃんのほうがかわいいよ」
だから、聖女に選ばれたわけだし。
「私は私。ローラはローラの良さがあるわ。見てなさい」
「え?」
お姉ちゃんはあたしの髪の毛にリボンを編み込み始めた。
黒い地味な巻き髪に赤いサテンのリボンがきらきら光る。
「きれい……」
真っ黒だからこそだろうかリボンがとても目立ってかわいらしい。
驚いていると、お姉ちゃんはあたしにメイクまで始めた。
何度も塗りこんでいるけれど、全然濃く感じられない。
まつげはバサバサに、唇はウルウルに。
華やかな雰囲気に合うように、服もふんわりとした白レースでできたワンピースに。
頭と同じ色のリボンでワンピースに編み込んだリボンはアクセントに。
「おおお……」
まるで、別人だと思った。
さえないと思っていたあたしが、こんなに化けるとは。
「お姉ちゃん、すごい」
「ほら、リン王子に見せておいで」
「うんっ」
あたしは部屋からうきうきして出ようとする。
が。
「うわっ」
「リン! 居たの!?」
「……気になってな」
「ってごめん、白い服にあたしの口紅が」
「いい。お前のキスマークなら、見せびらかしたいぐらいだ」
「ええ!?」
「俺はお前のものって、感じがするだろ」
「恥ずかしいから脱いで!」
「嫌だ」
リンの得意げな顔にあたしの顔が熱くなる。
「あら、さっそく効果があったみたいね?」
「お姉ちゃん、口紅落とす方法教えて!」
「嫌よ」
「いじわるー」
「あら、リン王子は感謝してるわよね? ローラをかわいくした私に」
お姉ちゃんは得意げに笑っている。
リンも真顔で頷く。
「恥ずかしいってば」
「どんなアクセサリーよりもいいと思うが」
喜んでるからいいの……? いいの……?
うーん、きっとリンはこれも俺にとっては幸運だって言うんだろうなあ。
……あきらめよう。
「ローラ私ね、本当はずっとローラと仲良くしたかった」
「お姉ちゃん」
「こんな風に、一緒に好きな男の子の話とか、してみたかった」
「……あたしもだよ」
「立場を気にして、自分がちやほやされなくなるのが怖くて、酷いふるまいしてきたけれど……」
「もう、昔のことだから」
「ローラが、生まれてきてくれてよかった」
「え?」
「一時期ね、私が忌み子だってわかって、一人で生まれれば私が聖女だったのに、とか思ったことあるの」
お姉ちゃんは悲しそうに言った。
「でも、ローラが生まれて、出会えて、今こうして一緒に笑えて、本当にうれしいもの」
「……お姉ちゃん」
「色々あったけれど、私は私がやれることを精一杯やって、この国を守り抜くわ」
「!」
「もし、国民が認めてくれなかったら、認められるように頑張るまでよ」
「さすがお姉ちゃん」
「だって、一人じゃないし」
「……うん」
「ローラも、カイリもいるし」
「そうだね。これからは助け合って行こうね」
「うん……」
あたしたちは手を取り合いながら頷く。
これからお姉ちゃんは、聖女じゃないとバレて苦労するかもしれない。
それでも。お姉ちゃんはこの国を守ると決めたから。
つらい思い出なんかに引っ張られていてはいけない。
それよりも、前を向くんだ。今、お姉ちゃんは変わろうとしている。
だから、あたしはそのお姉ちゃんを応援して、信じていこう。
「よかったな。ローラ」
「うん、リン」
リンはそっとあたしを抱き寄せる。
そして優しくなでてくれた。
暖かな手のひらで包まれて、とてもきゅんとする。
そう、あたしも一人じゃない。
誰だって……本当は一人じゃないんじゃないかなって思う。
見えないところでつながっていて、支えあっていて。
人と人の関係は、入り組んでるからわかりにくいけれど……。
「リン、大好き」
「なんだ、急に。俺も大好きだが」
「えへへ、言いたくなったの」
「そうか」
「ラブラブね。私もカイリとはいい夜だったわ」
さりげなくのろけるお姉ちゃん。
「今までで一番彼が近くに感じたの」
「よかったね。お姉ちゃん」
「ええ。これからカイリのためにも頑張らないと……」
「うん、そうだね」
「あと数日、泊っていきなさいね。パーティもするから」
「パーティ?」
「ローラのおかえりパーティよ。カイリとこっそり昨日の夜計画してたの。絶対参加していきなさいよ」
そんな、いいのかな……。
「お父さんもお母さんも、ローラに謝りたいって言ってた。本当は、ずっと前から気にはしていたのよ、二人とも」
「……え」
「立場上、優しくはできなかったけれど、愛していなかったわけではないのよ」
「そうなの……?」
「忌み子を大切にすると、親でも罰を食らうから」
「……そっか。そうだったんだ。あたしは嫌われていたわけではなかったんだ……」
「私ばかり、お父さんとお母さんを独り占めして……ごめんなさい、ローラ」
「ううん、仕方がなかったんだよ……でも……泣いちゃうね。やっぱり」
迫害され、拒絶されてきたという記憶しかなかったから。
本当は、愛したかったという事実に涙が出てしまう。
「私も、隣にいるから、一緒に会ってもらえないかしら」
「……うん」
「きっと二人も喜ぶわ」
お姉ちゃんがあたしを抱きしめてくれる。
あたしは、家族にとっていらない存在だと思っていた。
忌み嫌われ、邪魔なのだと思っていた。
でも本当は想われていた。
不器用な形で知ることにはなったけれど……とても、うれしくて。
うれしいのに、どうしていいかわからないこの複雑な気持ちは、なんだろうか。
泣きながら、笑ってしまう、この気持ちは。
とても、切なく甘くほろ苦い。




