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十七話 ピエローラ

 最近国にパレードがやってきてにぎやかだ。

 あたしには昔から一つの願望がある。

 それは、ピエロのコスプレをしてみるという夢だ。

 なんかかわいいし、皆に好かれているし、前世からあこがれていた。

 誰にも言えないけれど、人気者になりたくて。

 小さなころからの、夢だった。


「パレード、見に行かないか」

「リン」

「お忍びにはなるが……」

「また女装するの?」

「しない」

「えー」

「それはモーレンだけに任せておけ」

「むー」


 今、モーレンはこの国でほぼ暮らしている。

 王子の補佐をしながら、騎士団に指導をしてくれている。

 今では国の大事な仲間だ。

 お姉ちゃん的には、どうなのか知らないけれど……。

 まあ、モーレンが望んで動いた結果だから、いいだろう。

 誰にも、本人の意思を邪魔する権利はない。


「まあ、変装はいるか」

「じゃないと騒ぎになるよ。リンは王子様だもん」

「いつも大丈夫だろう」

「皆遠慮がちな感じになってるよ?」

「ああ、ならパレードを盛り下げないために眼鏡でもかけるか」

「めがねだけでいいの?」

「大丈夫だろう」

「……かなぁ?」


 まあ、服装も庶民のにすれば、大丈夫……かなあ?

 なじんでくれるといいけどね。純白を避けて、あたしも適当な服で行こう。

 今から、パレードが楽しみだ。出店もあるだろうしね!

 今度こそ、リンとゆっくりで店をめぐりたい。


***


 しばらくして、リーチェに乗って街についた。

 上空から見ても、明らかににぎやかな街は、楽しげな音楽が響いていた。

 ピエロに、踊り子に……。

 曲芸師があちらこちらで踊る、騒ぐ。


「うわぁ」

「すごいな、ローラ」

「うんっ」


 見ているだけで心も踊る。

 みんなが笑顔で、見ているだけで幸せになった。

 甘い綿菓子の匂いにソースの匂い。


「出店、行こう。リン」

「ああ」

「おじさーん、綿菓子下さい」

「はーい」


 あたしは綿菓子を買ってリンと半分こすることにした。


「ほっぺについてるぞ」

「あ」


 リンはあたしの頬についた綿菓子を取った。


「甘いな」

「リン……」


 むしろリンの行動が激甘だよ。

 とろけそうだよ、あたしが。


「次は何食べるか?」

「なんでもいいよ、リンが食べたいなら」

「……おまえを」

「え?」

「冗談だ」

「……もうっ」


 いくらなんでも刺激が強すぎるよ。

 リンったら。


「今日は、途中から別行動ね、リン」

「? なぜだ」

「ちょっとね」


 ピエロをやりたい、なんて言えない。

 どうにかして、ピエロの変装をさせてもらうんだ。

 こんな無茶な願い、かなうかわからないけれど。

 あたしは、ピエロになりたい。


「気を付けるんだぞ、ローラ」

「もちろん、大丈夫だよ」

「なら、よい」


 優しいリンの声に、あたしは微笑む。

 そして、リンとあたしは一時的に別れた。


***


「お願いです、ピエロの仮装させてくださいっ」

「……たしか、貴女は王子の婚約者様。まあ、仮装ぐらいなら」


 あたしは自分の立場を利用して、ピエロの仮装をすることに成功した。

 まるで性別すらもわからない。

 被り物の顔で、表情も読めないだろう。

 これで一つ、夢がかなった。


「不思議なことをおねだりする方ですね」

「いつか、やってみたくて」

「まあ、今日中はこの格好をどうぞ」

「ありがとうございますっ」


 あたしは満面の笑みを浮かべたけれど、きっと被り物でパレードの裏方の男性にはわからなかっただろう。とにかくご機嫌なままあたしは街を練り歩く。


「あーピエロだ」

「かわいいー」


 ちやほやされて愛想も振りまく。

 ああ、楽しいなあ。

 やっぱりピエロって、やってみてよかった。

 自分の身分を気にせず自由って最高だ。

 声はあえて出さないようにして、ご機嫌であたしは動く。

 そんな時、リンが出店を楽しんでるのが見えた。

 何かをおいしそうに食べている。

 思わず無意識で近づくあたし。


「……!?」


 びっくり顔のリンがあたし(ピエロ)を見た。

 愛想を振りまき手を振るあたしに、リンは笑う。


「なんだ、ピエロ。暇なのか」


 あたしは頷く。リンはピエロを撫でて、にこにこした。


「一緒に回るか」


 またあたしは頷く。

 あたしの前では見せないリンを見てみたいと思った。


「ついてこい、ピエロ」


 コクコクコク。

 あたしはひな鳥のようにリンの後を追う。

 気が付けば、人気のない林の隅っこにあたしたちはいた。

 切り株の上に座りながら、リンはあたしを見つめる。


「ピエロ、聞いてくれ」

「?」

「俺は、実は大好きな婚約者がいるんだ」

「…………」


 返事ができない。

 まさかのあたしの話題!?

 恥ずかしいんだけど!?

 でも、超聞きたいっ。

 こんな風にあたしへの本音が聞けるなんて、まさに棚ぼた!

 ラッキーだよ!


「皆の幸せのために、いろいろ尽くすいい女だ」

「…………」

「謙遜ばかりだが、ドジで、ほっとけなくて」

「…………」

「笑顔がかわいい、女だ」

「…………」

「だがな、俺はあいつの秘密を知っているんだ」

「!?」


 嘘!? 

 驚いてのけぞりそうになるのを、あたしはこらえる。


「あいつは、国外追放されてきたと、うわさで聞いた」

「…………」

「忌み子なのだと、聞いた」

「……!」

「それでも、俺には幸せを運ぶ天使だ」

「!」

「どんな肩書でもどんな噂を持っていようが関係ない。傍に置きたい。だが、事実を知ってると知っても、彼女は傍にいてくれるだろうか。俺なんかのそばに」

「…………」

「ずっと守って、やりたいと思った初めての女だ」

「……っ」


 気が付けば、あたしは声を押し殺して泣いていた。

 顔をぐしゃぐしゃにしながら大粒の涙を流していた。

 それでも被り物のせいで顔が見えないのが、救いか。


「ピエロ?」

「…………」


 ぶんぶんと首を横に振るあたし。


「……その被り物を、はずせ」


 また、ぶんぶんと首を振るあたし。


「ローラ」

「!」

「お前、ローラだな」


 さらに首を振るあたし。


「本当に、お前は……ローラ……」


 あたしを抱きしめるリン。


「ごめんな、俺。ローラの秘密とっくに知ってたんだ」

「……うん」

「それでも好きで言えなかった」

「あたしも、言えなかった」

「「好きだから」」


 二人の声が重なる。


「「好きだから、言えなかった」」


 あたしはピエロの被り物を外して笑った。

 きっと目は兎のように赤いだろう。

 顔もきっと、真っ赤だ。

 でもリンの顔も赤くて、ホッとする。


「詳しいことは正直知らない。だがお前が何者でも俺はお前を愛していく」

「リン……」

「立場なんか、初めから関係なかっただろう?」

「……うん」


 そうだね。リン。

 あたしは、余計な心配をしていた。

 リンが立場なんかに振り回されるわけがなかった。

 不安すぎてそれさえもわからなかった。

 優しくて、強くて、かっこいいリン。

 あたしはあなたにふさわしい女の子を目指そうと誓います。


「いつか、話したくなったら本当のことを俺に教えてくれ」

「……ありがとう、リン」

「いいや。話したくないことぐらい、誰にでもあるだろう」

「リン」

「好きだからこそ、思ってることすべてをさらけ出せないってのもあるだろう」

「まるで、恋愛を他にも経験したみたいな口ぶり」

「!? 違うぞ、俺はお前が初恋だ、ローラ」

「あたしもだよ、リン」


 生涯で初めて、愛したのはリンだけだよ。

 きっとこれからも、リンだけだよ。

 大好きなのは、貴方だけ。

 あたしはリンの手を取り、ぎゅっと握った。


「大好きだよリン」

「ああ」

「着替えて、最後のダンスを一緒に踊ろう?」

「そうだな。ピエロのままじゃなんだしな」

「……リード、してね」

「もちろんだ」


 優しい吐息に、あたしは涙を流す。

 ずっと、ずっと愛されたかった。

 自分に引け目をずっと感じていた。

 あたしは出来損ないで、忌み子で……そして前世でも、居場所がなかった。

 転生して、「また」繰り返すのだと覚悟していた。

 だけれど、あたしは今、心から幸せなのだ。

 リンが好きで。

 リンが大好きで。


「さあ、一緒に行こう、ローラ」

「うんっ」


 まだ、お姉ちゃんとの確執があるけれど……。

 考えたくない。でも、これはどうにかしないといけない問題だ。

 放置していては、結婚もできない。

 リンを巻き込んで、大騒動になるのは困る。

 だけど今は、それを忘れていたい。 


「踊ろうね、リン」


 あたしはそう言って、リンの手を引っ張り笑った。

 その日は、一生忘れられない一日になった。

 リンは、あたしのたった一つの宝物だ。

 ……絶対に、離れ離れになんか、ならないんだから。



いつも閲覧、ブクマ、感想などありがとうございます!

本当にうれしいです。励みになります(`・ω・´)

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