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一話 悪役令嬢は国外追放される

 いやだ、あたしは無能だけど、いらない子じゃない。

 あたしだって、幸せに生きたい。

 そう願ったのは「どこの誰」だっけ?


「ローラ、あなたは存在自体が悪なの。だから、私の手で殺さなくちゃいけないの。ごめんね」

「おねえちゃん」


 魔法の鎖で、お姉ちゃんがあたしを縛る。ぎりぎりと、体に鎖が食い込んでくる。


「そうだ! お前は生きる価値がないんだ!」

「この疫病神」

「とっとと消えろ。聖女ルーラ様に従え! このクズ」


 あたしは忌み子。お姉ちゃんは神の子。

 そう、言われて十五年間育ってきた。

 だから、あたしはずっと反抗してきた。

 そして、今あたしはお姉ちゃんに魔法で殺されかけている。

 ……で、そんなときあたしは思い出したんだ。

 あたしは悪役令嬢。ローラ・ララ。乙女ゲームの主人公であり、聖女ルーラ・ララの双子の妹かつ、ラスボスだ……。


(そんなの、あたしにはどうにもできないじゃん……)


 何かあたし悪いことした?

 生まれ持った運命で、こんな風に責められないといけないの?

 そんなの、ひどくない?


「ローラ・ララを国外追放にする!」


 絶望した。

 あたしが何したっていうんだ。

 忌み子だっていうから、辺鄙な村でひっそり暮らしてきたじゃないか。

 高望みだってしてない。

 平凡に、のんびり生きられればいい。

 そう思っていたのに……あんまりだっ。


「お姉ちゃん……」


 ……お姉ちゃんも、お母さんも、お父さんも、大好きなのに。

 それでも、皆あたしを「忌み子」だから受け入れてくれない。

 何をしても喜んでくれない。

 むしろ、かかわることすら嫌がる。

 どうして、あたしは、忌み子に生まれたのだろう。

 同じ家に生まれた双子なのに……何でこんなにお姉ちゃんと差があるんだろう。

 お姉ちゃんは何もしなくてもちやほやされる聖女。

 あたしは何しても意味がない、忌み子。


 ……まるで、前世のあたしみたいだ。


 何しても意味ないから、もう、あきらめていた。

 そんなとき、突然交通事故で死んだんだ。

 なのに、よりによって生まれ変わる先が乙女ゲームの悪役令嬢とか。

 ついてないにもほどがある。

 そんなの、ウルトラスーパーハードモードじゃん。

 今現在、もうバッドエンドに来てるときに思い出しても手も足も出ないじゃん。


「聖女様万歳! 聖女様万歳!」


 飴色の長い巻き毛をきらきらとなびかせて、お姉ちゃんは笑う。

 真逆の真っ黒の巻き髪を泣きはらした顔に張り付けたあたしは、お化けみたいだ。

 同じ青い目を持っているのに、お姉ちゃんの青い目は希望の色で、あたしの青い目は、まるで冷たい空虚の色だ。容姿だって、お姉ちゃんのほうが明らかに美人で。

 ……あたしはかわいくないから、聖女なわけがないってそうすぐに判断されたって聞いた。能力も、顔も、立場も。全部お姉ちゃんに持ってかれて生まれたんだと思う。あたしは残りかすなんだ。


 断罪からだって、もう逃れられない。

 だって、そういう運命なのだから。


 生まれ持ったスペックが、あたしはお姉ちゃんとは違うんだ。

 ううん、普通の人とも違うみたい。

 涙が出た。どうして。どうして。

 あたしだって、聖女に、せめて普通に、生まれてれば……。

 嘆いたところで現実は残酷で。

 順調にあたしは、国外追放の準備をされていた。

 縛られたまま兵士に囲まれて、国民の前を去っていく。


「あはっはははは、これでこの国は平和だ! 忌み子がいなくなって聖女様が残るんだからな!」


 国民たちがあたしに石を投げつける。中には生卵や生ごみも混じっている。


「痛」


 痛みや、生ごみの腐った匂いに吐き気がした。

 あたしは、周りが見下すために、生まれたんだ。

 きっと、それだけが存在理由なんだろう。


「しかしまぁ、隣国もかわいそうに。忌み子が来るなんて思ってないだろうからなぁ。これで我が国は幸せに、隣国は不幸になる」


 兵士がぼそりとつぶやいた。


「おい、ローラ。お前は自分が忌み子だということは隠して生活しろよ」

「……わかりました」


 本当はすごく後ろめたい。

 だけど、きっと……それを伝えれば生きていく場所すらも失ってしまう。

 ……だから質素に、最低限に、生きていこう。

 あたしはその誓いを胸に、ほぼ何も荷物を持たずに馬車に乗った。

 


***


 乗っている馬車から、急にあたしは降ろされた。


「もう、隣国には歩いていけるだろう。どうせ国境には迎えが来る。お前のために馬車を使うのは無駄だ」

「えっ、そんな」

「もっと乗せる価値のある人間が、国にはごまんといるんだよ」

「…………」

「大丈夫だ。お前が飢え死にしようが、餓死しようが泣く人間はいないからな」

「はい……」


 ああ、やっぱりあたしはこういう扱いなんだ。

 この、草木だらけの森の中を、ぼろぼろの服で歩くんだ。今、結構肌寒いのに。

 もう、いつから着ているかわからないワンピース。

 そもそもが、誰かのお古。ゴミ捨て場にあった、ワンピース。

 あたしにはまだまだ使えるし、かわいいお花模様がとても輝いて見えた。

 ほかの人には、もう着れないぐらいボロイものでも、あたしにとっては宝物で。


(お姉ちゃんはいつも、キレイな服を着ていたなぁ)


 華やかな顔立ちに、豪勢なドレスはまるでお姫様のようで。

 ああ、それならあたしは、迎えの来ないシンデレラか。

 そんな時、おなかが鳴った。


「何にも食べるものないな……」


 ふと目についたのは草木。

 みずみずしい、草にあたしは目がいった。

 飲み水だけはあるし、これをかじってみようか。

 もし食べれなくて体を壊しても、もうここまで来れば何も怖くない。

 とにかく何か食べたかった。

 この、怖いほどのひもじさは、たぶん空腹だけのせいじゃないのだろうけれど、何かで満たされたいと思った。

 気が付けば、草をがむしゃらに食べているあたしがいた。

 味は苦い。でも、食べられないことはない。


 気が付けば、あたしは涙を流していた。


「っ……」


それは、生まれて初めて、おなか一杯になるまで食べたごはんだった。

たまに食べるご飯は、苦さすら感じない、味のないものだったから。

 食感も、何もない、味のないスープに、煤けたパン。

 よくて、野菜の切れ端を寄せ集めた炒め物。

 そんなものしか、与えられてこなかったから。


「おなか一杯って、こんなにも幸せなことだったんだ……」


 お代わりをねだっても誰も怒らない。責めない。

 なんて、あたしは今幸せなんだろうか。

 あたしは、ぼろ袋にその草をたくさん詰め込んだ。

 


***


 フラフラになりながら、歩き続けた。

 歩きなれないあたしはすぐに疲れてしまった。

 けれど、気づいたのだ。

 国にいた頃よりは、あたしは自由だと。

 少なくともあたしは今「忌み子」ではなく、ただの「ローラ・ララ」なのだから。

 隣の国へ行けばあたしの名前なんか知る者はいない。

 だから、もう、どこにでもいる人間になれる。

 それは、ずっと夢見たことだった。

 周りにとっては生まれた時から与えられる権利かもしれない。

 だけどあたしは、それだけでもとてもうれしかった。


「ああ、国境が見えてきた」


 そこには、事情をどこまで知っているのかはしらない、案内人らしき若い女性が立っていた。

 いかにも仕事ができそうな、眼鏡をかけた黒髪の女性だった。


「貴女がローラ・ララ様ですね」

「……はい」

「これから、貴女はとある老夫婦の養子になっていただきます」

「! 家族ができるの?」

「……? 前も、家族がおられたのでは?」


 ああ、なるほど、この人もあたしの事情は詳しくは知らないんだ。

 そう思うと心からホッとした。

 よかった。本当に良かった。


「……存在だけ、していました」

「はあ。とにかく、村に案内しますね。それにしてもその葉っぱはいったい……」

「気にしないでください」


 まさか、食料だとは思うわけないか。

 そうだよね。葉っぱなんか、大切な食料だと思うのはあたしぐらいだよね。


「とりあえず、貴女がすることは、老夫婦の世話です」

「お世話、ですか」

「伝染病という説もあるので……気を付けてくださいね」

「心配してくれるんですか!?」


 なんて、優しい対応。


「……貴女に厄介者を押し付けてるんですよ、我々は」 

「でも! 心配してくれるなんて、人間扱いされてる!」

「貴女は人間でしょう?」


 何を不思議なことを、という顔で案内人は首を傾げた。

 あたしの世界の常識からしてみれば、今のあたしはかなり幸せだ。


「ありがとうございます!」

「はあ……」

「がんばります!」

「……そうですか」


 意味が分からない、という様子で案内人はポカンとしている。

 まあ、無理もないかもしれない。

 初めから人間、として生きてきた人にはわからないだろう。

 こうして、あたしはとうとう「人間」にランクアップすることができた。

 しかも、人間としての役目まで手に入れた、生きがいを手に入れたのだ!

 そりゃ、思わず笑顔にもなるってもんでしょう。


「とりあえず、老夫婦の持っている伝染病が悪化し貴女にうつれば、貴女もそのうち殺されるかもしれないですけどね」


 ボソリ、と案内人が言っている言葉は、あまり気にならなかった。 


「そうなんですね!」

「……ローラさん、そうなんですねって……そんな、軽く」


 案内人はため息をついてあたしを見た。


「本当、不思議な方ですね、ローラさんは」


 あきれたような声で案内人は苦笑いをしていた。

 そりゃ、はたから見たらあたしは奇異な生き物だろう。

 でも、そんなことよりもあたしは、新しい「人間」としての生活に対して、期待を膨らませ浮かれていたのだった。そのあとの出来事なんか、考えもつかないまま……。


 


頑張って書くので、応援してくださるとうれしいです。

評価、コメントなどいただけると励みになります。

がんばりますので、よろしくお願いします。

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