暗闇の中、一の光明
真っ暗な道をただ闇雲に駆けた。自分の側には何一つ無い。そんな虚無感を感じながら。
「目を開けて…!」
僕はハッとして目を開けた、いや違う。僕は目を開けていた、目を開けていても目を閉じていると錯覚するような暗闇。
前から聞こえた声は中学生の頃の君の声だった…
僕はいつのまにか君に手を取られ、導かれるように君の後を追いかけていた。背後から何か迫ってくる、そんな恐怖に身を蝕まれる。
「もう大丈夫だよ、ほら…建物が見える!」
僕は高鳴る鼓動と不規則な呼吸を整えながら、君の指差す方向に目を向ける。そこには窓から光の漏れる建物があった。人の気配のする暖かな光だ。
あぁ…これでもう安心だ…
そう思った時、
「そっちに行っちゃダメだよ」
背後から聞こえた声に、僕は反射的に振り向いていた。僕の身の内から聞こえる、耳障りなほど大きかった鼓動の音は不自然に音を消し、身体全体が耳になったかのように感覚が尖った。
息を飲んで元来た道を見つめる…何か、何者かが近づいてくる、けどその姿は見えない。
「心配しないで、大丈夫だよ」
僕の手を握る声にギュッと力がこもった。それは、意志の強さを感じさせる強いものだった…けれど、その手に温もりは無かった。あるのは、この世の者とは思えない程の冷たさ。
そうか、そうだったのか…こんなにも一生懸命で、
「心細かったのか…」
暗闇の中、永遠と思える程の時間を走り、手を引く少女を追いかけていたのは確かに夢だった。でも、心の中でそれは確信へと至った。そう、アレは僕だ。そして、僕を導いてくれたのが…君だったんだ。
こうしちゃいられない、僕は布団を剥いですぐ様出かける準備を始めた。行先は勿論君の元、目的は夢の続きを聞くために…
何でこんな大事なことを忘れていたんだろう、君と僕はただの友達じゃない。幼馴染だったんだ。忘れていたのは僕だけで、君は覚えていた。だから、僕が思い出すように、子供の頃を懐かしむように、あのぬいぐるみをくれたんだね。
そうに違いない、僕は自分の中で出た答えに満足して浮き足立った。ぬいぐるみをくれてから数日も経ってしまったけれど、僕は漸く君の想いを汲めた。
君の家へと向かう道、町行く人々の視線が無ければスキップをせずにはいられなかっただろう。それだけ僕は歓喜し、狂喜していた。こんなに喜んだのは、こんなに走ったのはいつ振りだろう。いや考えるのも馬鹿らしい、そんなことは決まってる、君の温もりを感じたあの時以来だよ。
まだまだこの喜びは噛みしめきれていなかったけれど、僕は君の家の前まで着いてしまっていた。残念な訳じゃない、寧ろ幸福だよ。
「迎えに来たよ、さぁ夢の続きを始めよう」
なんて、忘れてたヤツが言えた言葉じゃないけど言わずには居れなかった。
逸る気持ちを抑えて呼び鈴に手をかけた…
次に続きを投稿する日は未定です。
やっとネタを仕込めたので推量してもらえます、ヤッタネ。
推量してくれる方がいるとは言っていませんが…
評価&コメント頂けたら頑張れます。