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Long time…

 ぬば玉の夜霧の立ちておほほしく…


 月明かりが照らす小屋の中、君は笑顔を絶やさない。

 いつからここにいるんだろう、いつになったら帰れるんだろう…

 僕はそんなことを考えながら君を見つめる。勿論答えは返ってこない、僕が考えてることなんてお見通しのくせに…僕の思いを汲まないまま、君は徐に語り始める。でも、その声は段々と遠くなっていった…



「可愛いよ。」

 そう言うと彼女は喜んだ。少し頰を赤らめて、照れっ気混じりに言葉を返す。ありがとう…そんな空っぽの言葉に、僕はもう飽きていた。

 今日の学校は終わり、帰路に着いたところ。いつもと変わらず隣には彼女、違うのは十メートルほど離れた先にあの子がいること。あの子と僕らは帰り道が同じと言う訳…では無い。今日は彼女がプリクラを撮りたいと言ったのでそれに付き合っている。僕らが向かう先はゲーセン、この時間は付近の学生達が多くいることだろう。前のあの子もお目当はそこ、趣味がゲーセン通いなんて少し変わってる、僕は勝手にそう思ってる。


 住宅街の中を歩いていた時感じた穏やかな陽の光と鳥の囀りは、目的地に近付くほど薄れ、気付いた時には喧騒に掻き消されていた。無機質な光を眩しがりながら僕らは自然と喧騒に包まれた。


「良く撮れてるね。」

 うん、と元気の良い返事。また来ようねと声を交わしつつ、ゲーセンを後にする。けれど、外に出たとこで気付いた、

「カバン忘れてきた、取りに行ってくる。」

 そう彼女に伝えると僕はもう一度中へと戻っていった。別にカバンはわざと置いてきたのだから慌てる素振りをするのもちょっとナンセンス。そう思いながら僕は動悸を感じつつあの子の居るクレーンゲームに向かう。


「白雨、調子はどう?。」

 突然声を掛けられ、少し動揺しつつもあの子…白雨は僕に応える。どうやら可愛いぬいぐるみを取りたいようだが、上手くいかないようだ。

 こんなのが欲しいのか…と思いながらも代わりに取ってあげた。白雨はクレーンが苦手なのに何故か拘る…僕は得意だけどね。

「はい、どうぞ。」

 そう言いながら僕はぬいぐるみを手渡す。でも、白雨は受け取らない。取ってもらって要らないなんてどう言うことだと思い、少しの苛立ちを覚え出したが、どうしても受け取って欲しいようだ。不思議に思い、僕は白雨の目を覗く…その目からは最初から誰かに渡すために取ろうとしていたことが分かり、仕方なく僕は受け取った。

「趣味じゃ無いんだけどなぁ…。」

 愚痴を零す僕に、白雨は愛想笑いを返す。僕と白雨は初対面じゃない、何度か話したこともあり、一応友達と言う分類に入るのだろうか。

「じゃあまた明日。」

 彼女を待たせていることを気掛かりにして、挨拶を済ます。白雨もまた明日と言う。

 取ったぬいぐるみは、外に出る前にカバンに押し込み、何食わぬ顔で彼女に対応する。

「ごめん、遅くなった。」

 彼女は『不満』の二文字を濃く顔に浮かべつつも少しの軽口を言うだけで済ませた。

 その後は、今日の授業の愚痴やクラスメイトの話題を交わしつつ、家に戻った。


「ただいま…。」

 おかえり、と母の声。いつもより遅くなった帰りによって、仕事を終えた母が帰宅して夕食の支度をしていた。

 まだ夕食が出来ないことを悟ると、僕は自室に篭り、カバンからぬいぐるみを出した。

「趣味じゃないけど…うん。」

 ぬいぐるみを抱き締めた僕は、そのままベッド横になった…


「いただきます。」

 今日の夕食は青椒肉絲に春雨スープ、特に思うこともなく、父の日課のテレビ観賞を真似てみる。それも飽きてただ夕食をかき込む。

「ごちそうさまでした。」


 お風呂に入った後、髪を乾かしながら今日取ったぬいぐるみを抱える。白雨の匂いがしないか嗅いでみる。少ししか触ってないから付いててもほんの少しだけか…そう思いつつもしばらくの間、その行為を繰り返した。

 一段落したら、明日の準備を済ましてベッドに潜った。目を瞑ると今日の出来事が反芻される。数日振りに交わした言葉、そしてまた明日…

「おやすみなさい。」

 これからへの期待と少しの不安を覚え、久し振りに高鳴る鼓動を抑えながら、僕は微睡みの中へと落ちていった…


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