感動は誰のもの
結果を言うと、とても感動した、ギルバートが。
控え室でウェディングドレス姿を見たギルバートが泣き始めたのだ。
「こんなに綺麗になって。」
どこの父親だ!
「皆に見せたくないな、マリコはさらに綺麗になった。」
相変わらず腐った目をしている。
しかも泣きながらすがりついて来るので、ウェディングドレスに涙と鼻水がつきそうだ。
そんなもの付けられたら大迷惑だ、式はこれからだし、このドレスはとても気にっている。
長いトレーンのウェディングドレスは魔法がかっかっている。
レースと宝石でかなりの重量なのに重さを感じない、髪や胸元に飾られた花はさっき摘んだばかりのように瑞々しい。
私だってギルバートを見た時は感動したのだ。
ギルバートはイケメンだから、白い騎士服にマント、とんでもなくカッコイイ。
これが私の旦那様、キャッ、なんて思ったのに、早々に泣かれるとぶち壊しである。
「3000年待ったかいがあった!」
3000年は解っているから何度もシツコイ。
「父上。」
ハンカチを差し出す息子はよくできているが、ギルバートの子供の頃にそっくりだと聞いた。
この冷めた息子が、番にはダメ男になるかと思うと複雑である。
ただし、ギルバートの子供の頃は誰もまだ産まれていない、情報源はどこだろう。
「母上、お綺麗です。」
これで2歳、ありえない。
しかも空中浮遊しながら歩いてくる、魔力のない私への嫌みか。
「アレクセイ、本当に一緒に湖畔地方に行かないの?」
「父上と母上のお邪魔になるような事はしませんよ。」
ちがーう、母から離れて寂しくないのか!
「アレクセイと離れて寂しいのは私だけなの?」
「母上、もう大人なんだから大丈夫でしょ。」
泣き落とし失敗。
ギルバートはやたら張り切って、湖畔地方デートマップを作成してたし、我が身が危ない。
「母上、そろそろ時間です。父上先に行かないといけないのでは。」
「聖堂で待っているよ、気を付けておいで。」
ギルバートはイケメン仕様に戻ると出ていった。
「母上。」
「何、アレクセイ。」
「産んでくださり、ありがとうございます。
母上がいないと、父上の子供の僕は永遠に産まれないところでした。」
ギルバートがいなくなるまで待っていたのだろう、頬染めながら恥ずかしげに言う。
「ほらほら、泣かないで。花嫁姿が台無しになります。
とても綺麗なんですから。」
誰が泣かしてるんだ!
しかもすでにプレイボーイ。
「母上、お手をどうぞ。聖堂までご一緒しましょう。」
なんか変だけど、幼児と母親が手を繋いで歩く幸せな風景だ。
ステンドグラスの日が差し込む聖堂ではギルバートが待っていた。
この国では、二人で誓約を交わすことで婚姻が成立する。
だから、結婚式をしないで誓約だけというのも多いそうだ。
結婚式は皆に御披露目するセレモニーの意味合いらしい。
ギルバートの満面の微笑みが眩しい、イケメンは何しても様になる。
王様の結婚式ということで、たくさんの人が集まっている。
みんな人型だから、誰が獣人で、誰が竜なんてわからない。
ギルバートが私の手をとると、ギルバートとアレクセイに挟まれた様になる。
「王妃マリコと王太子アレクセイである。」
ギルバートの声が響いた。
「アレクセイは王家の記憶を持って生まれている。私自身がそうであったように、それは膨大な魔力の証であり、我が王国の永久の繁栄を約束されたことである。」
何ですって!
王家の記憶、この子が賢いのはそれか!
「長い歴史の中で王家の記憶を持って生まれ出たのはわずかだ。それが、私、息子と続いた。
この奇跡を与えてくれた番マリコに永遠の愛を誓う。」
えー、ここで私も永遠の愛を誓わないといけないの?
小市民の私は運動会の宣誓でさえ、緊張すると思うのに、各国要人が居並ぶ中でできるわけないじゃん。
やだな、ギルバートの期待する視線を感じる。
「誓います。」
我ながら声が小さい。
結婚式で新郎新婦の声って、はい、とか誓います、だけでしょ。
それでもギルバートには聞こえたらしく、竜のくせに犬のように振っている尻尾が見えそうだ。
「父上、母上をお任せします。」
「ああ任せておけ。」
ギルバートは2歳の幼児の身体で外交に行くようだ。
ホントに私が産んだのか、私のDNAは入ってないようにさえ思える。
結婚式はそのまま披露宴となり、ギルバートは私にピッタリくっついている。
「陛下おめでとうございます。
私が生きている間に陛下の番の方にお目にかかれるとは思ってませんでした。」
誰だ?
ギルバートが嫌な顔している。
「竜にとって番が全てだ、それは解っているはずだ。」
「それでも娘は500年の時を陛下に捧げました。陛下にとって500年前のことでも、私には忘れることはできません。娘には陛下だけでしたのに。」
「それが前提の後宮だ。私には番だけだ。後宮は間違いであった。」
「陛下。」
「はっきり言おう、番が現れた今、後宮の女など雑草に過ぎない。番の花を痛める言葉は許さない。」
ギルバートが私を見せつけるように頬にキスをする。
「誰の番にも成れない遊びの女を後宮に集めたのだ。時期が終わったら出る、当然のことだ。」
ギルバートの瞳は冷たい、私を見るダメ男の目ではない。
きっとギルバートの言葉が正しいのだ、竜にとって番以外の女はどうでもいいと知った。
「陛下、どうぞあちらの部屋でマリコ様をお休めください。」
宰相が目の前に現れると、憲兵達が男を拘束して連れていった。
ギルバートは私を抱き抱え足早に休憩室に向かった。
部屋の扉が閉まり二人きりになった途端、ギルバートが抱きついてきた。
「マリコ、マリコ、嫌な思いをさせて悪かった。」
ギルバートのキスは止まらない。
「ちょっとドレスがシワになる!」
「ああ、マリコはなんて綺麗なんだ。
私の為のウェディングドレスだと思うと感動するほど綺麗だ。」
そして匂いを嗅いでいる。
雄竜の習性か変態のなせる業か。
「マリコだけ愛しているんだ。」
後宮の女達はこんなギルバート知らないんだろうな、私だけが知っている。
ガーン!!
ギルバートがマリコに蹴りあげられた。
「ドレスがシワになるって言ったでしょ!
こんなところで盛らないで、後にして。」
それでもマリコにすがりつくギルバート。
「マリコが綺麗すぎる!無理だ、待てない。」
「披露宴が終わるまで、待てたら好きにしていいから。」
マリコにとって、ここで戻らないのは恥ずかし過ぎる。
ギルバートは急いで披露宴会場に戻ると閉会を宣言して戻ってきた。
あの男のせいでマリコが機嫌を損ねたら捨てられる、その思いしかない。
来客の目がなければ、首をはねていたものを。
それにしても、ドレス姿のマリコは天女のようだ、美しすぎる。
「マリコ、美しすぎる、私だけのものだ。」
大好物を目の前にした雄竜は止まらない。
「私に会うためにマリコは異世界から来たのだ、私の為に。」
自分で言いながらギルバートが興奮していくのがわかる。
これ、危ないヤツだ。
「ギルバート落ち着いて。」
「無理だ、マリコが私と結婚式をしたいと言ったんだ。
私とマリコの結婚式だ!」
ウェディングドレスは女の子の憧れでしょ、とはギルバートに通じない。
「もう、マリコが綺麗で奮えていた。凄くドレスが似合っている。
いつも綺麗だけど、私の為のウェディングドレスと思うと感動が止まらない。」
昔の女の父親から守った愛に奮えているのが、手に取るようにわかる。
障害があるほど燃える愛、そんなのいらない、マリコは我が身が大事だ。
ここで抵抗すれば、ギルバートへのスパイスになるのはわかっている。
マリコにすがりつきながら酔いしれるのだ。
マリコは学習した。




