鏡のゆがみー3
「どうして、そんな人と結婚したの?」
ピーちゃんの疑問はもっともだろう。
「どうしてって、やっぱり好きだからかな」
マリコは、照れているのか少し俯きながら答える。
「私もそんな人を見つけたと思ったんだけどなー」
ピーちゃんが、次元に吸い込まれた時の話を始めた。
「すごいイケメンが突然、目の前に現れたのよ!
見たことがない人で、その人のところに行こうと思ったら、ここに来ていたの」
「えー!ピーちゃん男に釣られてここに来たの!?」
デリカシーの欠片もないマリコ。
「お母様!」
シンシアが止めようとするが、マリコには無駄である。
シンシアは、マリコが元の世界に戻った時、母親への強い思いに引きずられたとポチ様が言っていたと思い出した。
では、ピーちゃんも強い思いがあったのか。
「あれ、その彼氏はどこ?」
見るからに一人なピーちゃんである。
うわーん、とピーちゃんが泣き出す。
「どうせ片思いよ」
マリコは、ピーちゃんがガマンした傷に塩を刷り込んだようである。さすがに気づいたのか、マリコがオロオロしだす。
「優しく笑ってくれたのよ。私だけのものだと思ったのに。
他にも女がいたのよ」
他にも女、マリコの地雷装置だ。
「その男どこにいるの?」
成敗しくれる! どこかの時代劇の科白を口にするとマリコ。
「お母様、落ち着いて。
関係のないお母様が口を挟むと、余計にややこしくなります」
シンシアの言い分は最もである。
ピーちゃんが手に持っていた果物を投げて来た。
「外から見たら楽しいでしょうね」
ぽろぽろ涙を流すピーちゃん。
「どうせバカよ。
突然ステキな男性が現れたんだもの、運命って思うじゃない。
手を延ばしたら、こっちの世界に飛ばされていて、ここはどこなの?」
服もボロボロ、荒れた肌はシンシアの治癒魔法で治したが、長い時間彷徨っていたのがわかる。
マリコがピーちゃんを抱き上げ、そっと抱き締める。
「気持ちわかるよ。私はここに飛ばされてきて、ギルバートに出会ったから恵まれていた。
そうでなかったら、ピーちゃんと一緒」
「私ね、その男性の名前も知らないの。その人の近くには可愛い女の子がいて、近寄れなかった」
その場から逃げ出したのであろう、情景が目に浮かぶ。
「なんで、いつもこうなんだろう。上手くいかないんだろう」
マリコの腕の中で丸くなるピーちゃんの背中をシンシアがなでる。
「運命の人じゃないなら、どうして私がここに呼ばれたの?
考えても考えても、わからないの。
住むところもなくて、食べる物もなくて森を彷徨って、怖い動物に追いかけられた。
毒のある木にかぶれて、肌がボロボロになった。
どうして私ばかり」
ピーちゃんは、ずっと誰かに言いたかったのだろう。
先ほど治癒した時、肌が荒れていると思った、背中には一面赤い湿疹ができていた。
まとめて治癒したシンシアは、気になっていたのだ。
「他に運命の人がこの世界にいるからじゃない?」
マリコの言葉に、シンシアもピーちゃんも顔をあげる。
「一緒に探そう?」
ほらほら、とマリコは立ち上がりジャングルの奥に進んでいく。
「待ってお母様、アレクの気配がします。
きっとすぐ近くまで来てます」
「なんですって!シンシア!逃げるのよ!」
マリコは、ピーちゃんを抱え、シンシアの手を引いて走る。
「どうして毎回追いかけてくるの!?」
毎回、逃げているマリコである。そして毎回捕まっていることを学習しない。
足場の悪い木々の間を走るのは、かなり疲れるが、こういう時にだけ、根性をみせるマリコである。
ガシッ!
シンシアの腕を後ろから捕まえられた。
「どうして逃げるんだ?僕だとわかっていたんだろう、シンシア?」
アレクセイは片手でシンシアの腕をつかみ、もう片手はシンシアの腰に回している。
アレクセイの後ろには、ギルバート、関脇がいる。
うわぁ、アレクセイの機嫌が悪くって恐い、と他人事なマリコ。
自分もギルバートに怒られるなどと思ってもいない。
「マリコ、その腕のはなんだ?また拾ったのか?」
ギルバートの声は低い。
え、ギルバート怒っている?あれ、いつもと違う、やっと状況を確認するマリコである。
「母上、父上は心配しすぎて怒っているのですよ」
関脇がフォローするように言うと、マリコの腕からピーちゃんを預かった。




