鏡のゆがみ-1
完結後もたくさんの方が読みに来てくださり、100万PV超えました!
お礼にささやかですが、後日話を追加させていただきます。
一旦連載中とさせていただき、UPが終わりましたら完結に戻します。
本当にありがとうございます。
楽しんでくださると嬉しいです。
violet
「お母様、なんなのでしょう?」
「そうね、不思議よね?」
シンシアとマリコがいるのは鏡のある部屋。
鏡の縁取りに赤いブツブツが出来ているのだ。
チョン、マリコが触ると、痛い、痛い、と鏡が痛がる。
「私、ポチ様を呼んできますわ」
シンシアが部屋から出ていくが、マリコはブツブツを見ている。
「これ、枠の木が腐ってきたとか? 虫食いとか?」
ぎゃー、怖い事言わないで、と鏡が叫ぶ。
「シロアリ、ってこの世界にもいるの?」
マリコはデリカシーもなく、鏡に問いただす。
「ブツブツから蟻が出てきたら、ホラーだよね」
言われている鏡は失神しそうである。我が身に虫が巣くうなど。
ポチにはもれなく関脇が付いてくる。
「次元は安定しておる。
だがな、異質な空間に繋がっているようじゃ」
「はぁ? もう私の身体勝手に使うの止めてよね」
ポチの言葉に反論している鏡である。
「ポチ様、異質な空間とは?」
ポチを抱いている関脇が、確認する。
「マリコがわしの所に来た時のような事が、起こっておるのじゃ」
鏡を通って遠い神殿にいるポチと会った時のことだ。
「鏡からどこかに行けるの?」
そう言いながらマリコは鏡に手を差しのべた。何気に手を出しただけだが、鏡の方が反応したのだ。
「お母様!」
シンシアがマリコに飛びつく。
マリコが鏡の中に引きずられるように消え、シンシアも鏡の中に消えた。
「ポチ様、どうしましょう?」
マリコが行方不明になるのは慣れているが、今回はシンシアも一緒である。関脇が途方に暮れたように呟く
。
直ぐに、ギルバート、アレクセイに知れるだろう。ギルバートが大騒ぎするのは分かるが、アレクセイが怖い。
「ほら、来たようじゃ」
マリコー、と呼ぶ声が近づいて来る。一緒にいたのだろう、アレクセイの気配もする。
すぐ近くの未来を思いながら、関脇からため息がでる。
「兄上」
側にいないジョシュアに助けを求めたい関脇である。
「マリコの気配が無くなった!」
扉を叩き開けてギルバートが飛び込んでくる。すぐに飛び立とうとするギルバートをアレクセイが止める。
「父上、場所はわかっているのですか?」
「当然だ!」
今までになく言い切るギルバートに、アレクセイも関脇も確信した。
父は母に何かしたのだ。だが、それぐらいしないと、あの母だから・・・
「急ぐぞ。場所はわかるが、マリコに何かあってからでは遅いのだ。あんなに可愛いのだ、他の男がほっておくまい」
雄竜の目も思考も腐っている。
ギルバートは窓枠に足をかけると、外に飛び出した。黄金竜に変わった身体が空を駆けあがる。
続いてアレクセイが後を追う。
「ジョシュアには、わしから伝えるぞ。きっと後を追うだろうから」
ポチが関脇に、ギルバート達に着いて行けと言う。
「兄上は場所が分かるかな?」
「マリコの場所はわからんだろうが、関脇の場所はわかるじゃろ」
そんなもの?不思議に思いながら、関脇も窓から飛び出しギルバート達を追う。身体は黒銀竜に戻っている。
3人の姿が消えてしばらくしてから、ジョシュアが現れた。
「まったく、父上も政務を途中で放り出すから、後始末が大変ですよ」
いつも母上が原因です、と顔には書いてある。
「大臣達に仕事を割り振ってきました。急ぎのものは終わらせましたから」
「お前も苦労するのう」
ポチがジョシュアをいたわる。
竜の能力では、ギルバート、アレクセイに及ばないが、ジョシュアが1番正常であるとポチは思っている。
「では、後を追いますか?」
ジョシュアはポチを抱き上げながら、鏡に確認する。
「今回はシンシアもいなくなったのですね?」
「私も何が起こったか分からないのよ。私の意志じゃないのよ。マリコとシンシアが私の中に消えたの」
それだけ聞けば十分である。鏡の意志が関係ないということは、鏡は行き先を知らないという事だ。
第3者に呼ばれたか、悪意のある者でなければいいと思う。
あの父をもう一度、狂わすわけにはいかない。
「母上はどこに行かれたのでしょう?」
「知らん」
ポチは言葉少なく答える。
「じゃが、ギルバートはマリコに糸を繋いでおるからな。追って行ったぞ」
糸?それは固執という糸か、とジョシュアが呆れる。
「でもそれでは、僕にわかりませんよ? ポチ様は関脇に何したんですか?」
「面白そうじゃから、関脇の目で見る物を映すようにしたぞ」
ポチが出すのは手鏡だ。はるか昔、ポチに献上された手鏡。
「それ見ながら道案内してくださいね」
ジョシュアもポチを胸に抱えて、窓から飛び出した。
王都の空を大きな黄金竜が羽ばたく。
街の人々が空を見上げた時には、遠くに過ぎ去っていた。




