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私と黄金竜の国  作者: violet
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次元を超えるためのもの

それはマリコが消えた直後の事である。


ギルバートは落ち着きを取り戻すと、ポチに詰め寄った。

「次元が不安定とはどういうことだ?」

「言葉にするのは難しい、わしには解るだけじゃ。」

「それは、マリコを連れ去り安定してしまったのか?」

「いや、まだ不安定だ。

今ならマリコを追える。

いつ安定するかはわからん。次はいつ不安定になるかもわからん、10年後か、500年後か。」

「マリコの世界に行く方法はあるか?」

「わからん、もし異次元の中に入ってもマリコの世界がどれかも、わからんじゃろう。

じゃが、お主にはマリコに飲ました逆鱗(げきりん)がある。

雄竜は番を見つける能力がある、しかも逆鱗を飲んでいるなら尚更じゃ。」

そこに口をはさんできたのはアレクセイだ。

「ポチの元に母上は鏡の中を通った、それか?」

「次元が不安定な今、力のある鏡なら出来るかもしれんのう。」

誰もがマリコの鏡を思い付いた。

「マリコの世界では、こちらの者は異質となる。

竜王一人より、複数がいい。

マリコの世界の次元を不安定にせねば、こちらに戻って来れんからな。

後はお前達の魔力で()じ開けるのじゃ、竜王、アレクセイ、ジョシュア、関脇、なんとかなるかもしれん。

誰もしたことがない、できるかはわからん。」

「こちらに戻る時はポチの鏡だな、母上がポチの所に行ったように。手鏡だから持ち運びができる。」

アレクセイの頭の中ではすでにたくさんのシュミレーションがされているようだ。

ギルバートは古い記憶をたどり、次元と魔力の関係するものを探しながら鏡のある部屋に向かった。後をアレクセイ達が追う。

やがてポチは関脇に抱かれたまま眠りについた、たくさん話して疲れた、と言葉を残して。




「竜王様、さっきは怖かったわ、地面は揺れるし、雷の音は凄いし。」

鏡はそこにマリコがいない事を確認すると、

「あら、まだマリコと仲直りしてないの?」

さっきの揺れはギルバートで、マリコとケンカしたと鏡は思っているようだ。

部屋の中から動けない鏡には知る(よし)もないが、空は暗黒の雲に(おお)われたままである。落ち着いたとはいえ、ギルバートが(あや)うい線上にいることは間違いないのだ。

鏡の問いに答えたのはギルバートでなく、ジョシュアだ。

「母上はいない、探しに行くのに鏡の力が必要だ、協力して欲しい。」

「え、あらやだ。マリコがいないとつまらないわ。」


雄竜4人の魔力を受ける鏡もつらい。異次元への入り方もわからない、様々な方法で魔力が鏡に向けられる。

朝まで続けられたが、異次元の中に入ることはできなかった。

「ちょっと休憩!

割れちゃいそうよ!」

鏡が叫ぶ。

「父上、私達も休憩して食事にしましょう。」

「いや、私はいい、お前達で行っておいで。」

そうですか、とアレクセイ達も無理にはギルバートを誘わない。

子供達が出て行った部屋で、ギルバートは鏡に向かう。

「マリコ、どうか無事でいてくれ。」





シンシアの部屋ではシンシアがアレクセイに詰めよっていた。

「私も行きます。」

「ダメだ、危険が多い。次元の中で戻れなくなるかもしれない可能性もある。」

「やだ!

離れるのやだ!

生まれるはずのない王女だけど、生れてきたんだもの!」

アレクセイにしがみついて離れないシンシア、アレクセイが負けるのは目に見えている。

「君が生まれてきてくれて、私はとてもうれしいよ。」

アレクセイがシンシア告げる。



塔の部屋に戻ったのはジョシュアと関脇である、腕にはポチを抱いたままだ。

壁にもたれて、静まった王都を見る。朝の光に照らされた街が見える、やがて人々の活動が始まり、活気が満ちてくるだろう。

「僕は地に吸収されるはずだったんですね。」

ポツンと呟く関脇、声からは感情が読み取れない。

「運命というなら、これが運命だよ。

関脇は目覚め、ここにいるんだ。

ずっと一緒にいるって言ったじゃないか。」

ジョシュアが関脇の腕の中のポチを撫でながら言う。




次の日もその次の日もギルバートは鏡のある部屋に閉じこもっていた。

アレクセイもジョシュアも関脇も来たが次元の中に入ることは出来なかった。

日に日にギルバートが焦っていくのがわかる。

次元が安定する前にマリコの元に行かねばならない、時間はどれぐらいあるかわからないのだ。


「そう言えば、竜王様。」

と鏡がギルバートに話しかける。

「その神様の所に行く前にマリコが私に手鏡をこすりつけたのよねぇ。

こそばかったから覚えているわ。」

「マリコがわしを見たのじゃ、そうしたらマリコがそこに来ておった。」

鏡の言葉を引き継ぐように、クッションに寝そべったままポチが言う。

「どうしたもんかのう、わからん。」

ほれほれ、と手鏡を出すポチ。

試しに鏡に手鏡をこすりつけても何も起こらない。

もう一度、全員が呼ばれ、手鏡をこすりつけるが、鏡にはやはり変化はない。

期待していただけに、ギルバートの落胆は大きい、項垂(うなだ)れたように鏡を見つめている。


「お父様、こちらを見て。」

シンシアが大きな声をあげてギルバートを呼んだ。鏡と手鏡を合わせ鏡にすると、鏡に映る手鏡の中にマリコが見えた。

「マリコ!」

マリコが映っていた。

「マリコ!」

ギルバートが鏡の中の手鏡に映るマリコに手を伸ばすが、手鏡に映っているだけだ。

窓の外からマリコを見ているようで、もどかしい。そこに見えているのに。

「マリコ!」

鏡というガラスの板がマリコとギルバートを隔てている。

手を伸ばしても触れる事が出来ない、大事な番がそこにいるのに香りを感じる事が出来ない。

「マリコ!」

ふいに、マリコが鏡を見た、思わず伸ばしたギルバートの手が鏡の中にズボッとのめり込んでいく。

「マリコ!」

ギルバートの後を追ってジョシュア、関脇と続いて鏡に飛び込んで行く。アレクセイが手鏡を持つシンシアの手を引き飛び込んだ。

あっという間の出来事だった。


「ここで待っているから、わしを目当てに戻って来るがいい。」

ポチの声が聞こえた気がした。

「わしの手鏡はわしを映すからのぉ。」




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