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私と黄金竜の国  作者: violet
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鏡の道

「鏡よ鏡。アレクセイとシンシアを映しておくれ。」

「無理。」

「ちょっとーー!!

少し考えるとか、努力するとかできないの。」

「努力したって無駄。私はただの鏡、魔法の鏡じゃないって!」

ただの鏡はしゃべらない、しかも自分の意志を持っている。

今日もマリコは鏡に無茶ぶりをしている。

「だって、アレクセイもシンシアも同じ王宮にいるのに、忙しくて会えないって変よ。」

「そりゃ、母親から卒業でしょ。わかっているくせに。」

キュッキュッ、マリコが手鏡を鏡にこすりつけている。

「ちょっと何してるのよ!」

「え?

私の国では合わせ鏡をすると違う世界が見えるって言い伝えがあるの。」

合わせ鏡は深夜とか条件があるし、こすりつけたりしない。マリコは適当である。

「ちょっと!こそばいから止めなさい!」

鏡が言うことも変である。

「その鏡、変よ。どうしたの?」

「来る途中に拾ったの、見せようと思って。」

王宮で物が落ちていたりしない、すでに怪しい。


鏡に相手をしてもらえなくなったマリコは手鏡を持って庭に出て来た。

マリコに公務はない、子供も大きくなり時間を持て余している。寂しくないと言えば嘘になるが、もう諦めた。

常に繁殖期のマリコの番であるギルバートが不安がるからだ。


太陽の光を手鏡に映して、城の壁に反射させて遊んでいると、小さな竜を見つけた。

竜とは少し違う、どこかで見たような気がすると思いだして、麒麟!

「麒麟さんは、人型にならないの?」

「娘、わしの姿が見えるのか?」

うんうん、と答えると麒麟の横に座り込んだ。麒麟の大きさは20センチぐらいなのだ。

「あんたは竜の番なのじゃな。」

マリコが鏡とおやつにしようと持っていたクッキーを取り出して、麒麟の前に置いた。

「よく気がきくのぉ。お供えは受け取ったぞ。」

お供え?仏壇のよう、とマリコは思いながら自分もクッキーを食べ始めた。

「竜の番って、わかるの?」

「竜のマーキングがついている、普通の獣人には見えないが、雄竜にはわるようになっとる。」

さっきは竜かと思ったが麒麟とわかると、雄竜じゃないのに解るんだ、と感心する。



その頃、マリコの香りが無くなった、とギルバートが大騒ぎしていた。

「気配も感じない!遠くに行ってしまった!」

またですか、今度は何したんだ、と言っているのはアレクセイだ。

「空間が(ゆが)んだのは感じてませんから、異世界に行った訳ではなさそうです。

落ち着いてください、父上。」

急いでマリコの香りが消えた場所に行ってみると、手鏡が落ちていた。

「父上、魔力があります。」

「見たことない気配だな、関脇を呼べ。」


呼ばれてやって来た関脇もわからない、と言う。

「では、古い種族のものではないのだな。」

「僕のいた時代でも、このような気配はありませんでした。

けれど、かなり強い魔力ですね、鏡が持っているのか、他の何かか。」

あれ、と小さく言ったジョシュアが目を凝らしている。

ジョシュアは関脇と一緒にやって来たのだ。

「この鏡の枠の模様、神殿の模様じゃありませんか?

ずいぶん以前ですが、古い神殿の遺跡でこの模様を見た気がします。」

「あの遺跡はずっと東部だぞ。母上、また何かを呼び寄せたんですね。」

ジョシュアの言葉にアレクセイが溜息をつきながら言う。


ギルバートは黄金竜に姿を変えるとすでに東部に向けて飛び立っていた。

アレクセイが残り、ジョシュアと関脇もギルバートの後を追う。

マリコを乗せている時には出せないスピードで黄金竜が飛ぶ。

夕方には神殿にたどり着くことができた3人は辺りを探しだすが、マリコの姿はない。


関脇が持ってきた手鏡を出すと、夕日を浴びて光が一閃(いっせん)する。

光の先を辿(たど)って行くと竜の耳がマリコの声をひろった。


「ポチちゃん、なんか寒くなってきたね。」

「わしの名前はポチじゃない。」

「呼びやすいじゃない、名前なんていうの?」

「神様、と呼ばれていた。」

マリコが笑いながら、麒麟の頭をなでている。

「じゃポチに決定ね。」


「マリコ!」

ギルバートの声が聞こえたのだろう、マリコが顔を向けて、手を振っている。

「ギルバート、良かった。ここがどこか解らなくって。」

グエッと音がしたので見ると、マリコが麒麟の首を掴んでぶら下げて立っている。

「母上、苦しがっています。」

ジョシュアが可哀そうにと駆け寄ってくる。

「ああ、ごめん、みんなに紹介するね。

麒麟のポチよ。」

関脇がジョシュアの腕をつかんで、何かを訴えている。

「どうした?」

「兄上、あれ。」

関脇が指さすのは遺跡の壁のレリーフだ、古く所々(ところどころ)欠けているが、中央の台座に据えられているものを確認できる。

「大きさは違うみたいだが、同じだな。」

ギルバートもレリーフを見ている。

「古生記に信仰された神だな。」

「そうですね。」

「母上は、何と言うか、凄いですね。」

男3人が、マリコと麒麟を見つめて囁きあっている。


「ギルバート、ポチ飼ってもいいかな?」

ペット扱いである。

「ずっとここに居たんだって。ここは一人ぼっちだから連れて帰っていい?」

関脇が駆け寄ってマリコから麒麟を受け取る。

「僕と同じだ。一緒に行こう。

僕も母上が名前をくれたんだよ。」

きっとね、寂しい気持ちが引き寄せ合うんだね。



「お前、ずいぶん落ち着いたじゃないか。

全部壊してやるって思っていたようだったが。」

麒麟が関脇に語りかける。

「ご存知なんですか。」

「わしはずっと見てきたよ。」

関脇に抱かれて小さな身体が暖かくなる。

「だが、見つけられたのは初めてだ。

あの鏡は、もう忘れたぐらい昔に奉納されたのじゃ。

ずっと側にあったのだが、突然無くなったと思ったら、マリコが鏡の光を通って現れた時はビックリしたぞ。」

「母上には魔力がないのですが、理解できないことが起こるのです。

僕もそうです。気がついたら母上の子守唄を聞いてました。」


「あんたがマリコの番じゃな。」

麒麟はギルバートを見る。

「お初にお目にかかります。」

ギルバートが挨拶すると、麒麟は、はぁとため息をついた。

「あんたも大変じゃろが頑張れよ。」


「マリコといると毎日が楽しいんですよ、もうお解りでしょう。

ようこそ我が家へ。」

笑いながらギルバートが差し出す手に麒麟がちょこんと前足を乗せた。




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