秘密は守れませんでした
「ああああああ、ウザイ!」
ギルバートが部屋から追い出された。
朝からマリコにベッタリで仕事に行こうとしないギルバートにマリコが切れたのだ。
「全く、どうして、ああなんだろう!」
厨房でキティに愚痴るのはマリコだ。
今日はマリコがアルバイトの日。先日のギルバートの誕生日プレゼントもこのアルバイト代から購入した。
護衛を兼ねて関脇がお手伝いしている。
「マリコ、陛下のお昼御飯遅れちゃうよ。関脇様も呆れているよ。」
周りの者も、マリコのみ様なしだ。
最初の頃はマリコ様だったが、いつの間にか様なしだ。マリコの人徳というより、親しみやすいのだろう。
「調理しながら聞いてあげるから言ってみなさいよ。」
キティはマリコの扱いが上手い。
「だから、私がショック受けるから黙っていたって言うのよ。
この世界で人間って私だけだし、魔力もないし。
どこでもヒエラルキーの下層は上層部の食料よね、そんなのわかっているわ。
ショックを受けているのは、自分達でしょうに。」
いや、普通は自分が餌として狙われたと知ったらショックだろうに、とキティは思う。
「竜王様はマリコを心配して、警備も体制を変えたと聞くし、王宮のガードも魔力が強くなったよ。」
「そうなの?」
そうなんです!と関脇は心の中で強く言う。暗示対策ですよ!
先日の事件は秘密のはずなのだが、マリコに優しくされて口を割ったのはギルバートである、哀れだ。
「私の世界では吸血鬼というのが人間の血を吸うのよ。」
アレクセイがいれば、それは空想の生物、と言うのに、マリコの言葉を否定する者はここには居ない。
「マリコの世界では人間が繁栄しているって思っていた。」
「もちろんよ、吸血鬼は銀の弾で退治するの。
吸血鬼は綺麗なお姫様の首から血を吸い、仲間にするのよ。そして二人は永遠の時を仲良く暮らすの。」
母上、話が支離滅裂で理解できません、捕食の関係ではないのですか、関脇は理解不能である。
「ああ、それは2次元だ。」
アレクセイの言葉も関脇には理解不能だ。
「母上の住んでた国は他とは違う文化があるんだ。」
アレクセイの説明に関脇が、やっと意味が解ったと理解する。
「その想像力は竜にはないですね、人間って凄いなぁ。」
「まったくだ、母上のバイタリティも凄いな。」
アレクセイと関脇がマリコ談義をしている、マリコの武勇伝は尽きない。
ギルバートが仕事から戻って来ると、マリコが机に向かい熱心に何か書いていた。
「何を書いているんだ?マリコ。」
ギルバートは気になって仕方ない。
「遺書よ。」
「何だって!!」
「だから、遺書。
この間のように、また狙われちゃうかもしれないから。」
ギルバートはマリコに飛びついて抱きしめた。
「絶対そんなことさせないから!」
「ギルバート苦しい!!」
ゲホゲホとマリコが咽たので、ギルバートが慌てて力を緩める。
「マリコは竜王である私の番だ、害なす者は削除する!」
「ありがとう、ギルバート。
この間も守ってくれてありがとう。」
はい、と渡された遺書をギルバートは恐る恐る開いて読んでみる。
『この世界でギルバートに会えてとても幸せでした。
恥ずかしくって言えないから、ここに書きます。
ギルバートが大好き、死んでもきっと好きなままだと思う。』
遺書というよりラブレターである。
「えへ、この先が思いつかなくって。
見せるの恥ずかしかった。」
マリコが真っ赤な顔で、心配かけちゃったから、と小さい声で言う。
「ギルバートとずっと一緒にいるから、守ってくれるって信じているから怖くないの。」
ギルバートの方は、番かわいい、マリコかわいい!頭の中はハートマークが飛び交っている。
「この間は古い種族の先祖返りだっけ?
でもこの先、何があるかわからないでしょ?
スライムとか出てきたら、困るし。」
あれも気持ち悪いかも、とマリコが言う。
「スライムって何だ?」
「いないの?
ここ異世界なのに!」
「マリコの世界にはいたのか?」
「いないから、ここで期待しているのよ!」
マリコは気持ち悪いといいながら、期待していると矛盾したことを言っている。
「ここには竜がいるのよ!
カエルもどきだっている!
なのに何でいないの!?」
カエルもどきって何だ、マリコの言葉が理解できないギルバートは深く考える事を止めた。
これがマリコなのだ。
「何が出て来ても、マリコは渡さないし、守るよ。」
「きゃー、ギルバートかっこいい!
もう一度言って!」
ギルバートが幸せに浸っていたら、マリコが地獄に落とすような事を言う。
「ところでギルバート、私があの時、食べられちゃったら、私の中のギルバートの逆鱗はどうなるの?」
「過去に例がないから、わからないな。」
「うーーーん、試してみないと解らないのね。」
「マリコーーー!!!!
怖ろしい事を言わないでくれ!」
「・・・・・」
「マリコ!!!」
すでにギルバートの顔は真っ青だ。
「そんな痛いことしないわよ。
でもスライムが出てきたら、どうなるかわからないし。」
「止めてくれ!
新しいモンスターを作りださないでくれ!」
「・・・・・」
「マリコーーーー!!!」
ギルバートを信じているのは本当だけど、ギルバートをいじめるのは楽しいかも、マリコは最近意地悪である。